Episode5 対決、1組対3組の集団模擬戦闘訓練——— 後編
「っっ破!!」
上空から声が聞こえたかと思えば、空にはキヨミツが札をばら撒いていた。だがその札はまるで意思を持ったかのように物凄い速度で俺目掛け突撃してきたのだ。
「うおぁっ!?」
俺は咄嗟にだばだばしながらなりふり構わず走りだし逃げた。札は勢いよく俺が元々いた地面に突き刺さるとまるで鉄球でも落ちたかのような強い衝撃が地面を伝ったのだ。あんなものがもろに命中すればおそらく即退場ものだ。だがそんなお札にも気にしないといけないがもう一つ気にしないといけない人がいる。俺は逃げながら左右を見たがどこにもいなかった。そうなればなりふり構っても居られないので俺はその足でまっすぐ…バーケニーの所へ走った。
「貴方!?一体何を」
地面に刺さったはずのお札が浮かび上がり再度俺を追尾するように飛んでくる。それでも俺はひたすらバーケニーさんの元へと走る。するとようやく視認することが出来た。バーケニーさんの隙を伺い狙いに来たホタルの姿をようやく至近距離で補足することが出来た。俺の接近に気付いたホタルは苦無で斬りかかるが俺も剣でガードする。俺を追尾していた札はてっきりホタルごと俺に命中するかと思ったが軌道を変えて上空へと飛んで行った。だがホタルから離れればすぐにまた俺に仕掛けに来るだろう。そうなるとこうしてホタルの相手をしていれば…
「異界人君!上!」
「え…?」
ホタルが競り合いを止め離れ、バーケニーの声につられ上を見ると…なんとキヨミツが剣を振りかざしている最中だった!?俺はまたもギリギリでキヨミツの攻撃から防ぐが、そうしたらホタルを完全に見失ってしまった。
「バーケニーさん!」
「分かってる。『敵からの攻撃を防げ、みんなの守る盾となりて、氷壁よ』」
バーケニーさんもホタルに狙われている事は把握しているためか、壁を背にしたまま今度は先ほどの防壁用とは異なり、少し高い程度の壁を足場に使い高台にしたのだ。これで多少はバーケニーさんを狙いにくくなっただろう、さらに弓を持ったまま氷の盾を腕に作り万全を期した状態となった。
「なら、お前からだ」
キヨミツは再度俺から距離を取ると俺に札を、そして視覚外からホタルが苦無を投擲する。見事なまでに連携のとれた挟撃に俺は最後の抵抗としての回避を試みたが被弾は避けられなかった。だがアラームは…鳴っていない。とりあえず囮役を買って出たくせに即退場という無様を晒さなくてよかった。
「へぇ、やるじゃん。アラームが鳴らない程度に済ませるとはな」
「…次で仕留める」
「異界人君、キヨミツは私が」
氷の高台からバーケニーさんの矢が打ち下ろされるが、その矢は先ほどまで同様もう一本の矢に撃ち落とされる。見ればお相手もバーケニーさんと同じように地面から土の塔を作り出しそれを高台に撃ち落としたツヅリの姿が、今なお動かないAグループのリーダー格であるラセツの後ろで構えている。
「この…しつこいですよ!」
「しつこくて結構、戦いとはそういうものですから」
バーケニーの後方狙撃をほぼ完璧に無効化させることに徹底するツヅリ、元々体力をだいぶ消耗しながら二人に挟まれ限界ぎりぎりの戦いを強いられる俺…もはや時間稼ぎもここが潮時、結局俺達二人がやられるだけだろうと…そう確信してしまった。
「っふ、ははは…はははは」
俺は笑いながら持っていた剣を地面に投げ置く。そんな様子にAグループの4人だけでなくバーケニーも、傍から見ている審判役の教官達ですら困惑の様子だった。それはまるで諦め自暴自棄で笑い出しているようにしか見えなかった。まぁあながち間違いでもないかもしれない。きっと勝てない…この経験は元の世界でも嫌というほど味わった。バスケの強豪校との練習試合を思い出す。圧倒的な試合運びで開く点差、ボロボロになりながらも残す試合時間は10分。そんな中でも俺達は笑いながら…どうせ負けるならやりたいプレイを好きなようにやっていた、たった1点をもぎ取る練習にあてがうことを!
「『ゴールにぶち込む、バスケットボールとなれ、光の弾よ』」
俺は手に付けていたグローブに魔力を流すと、まさにバスケットボールさいずそのものの光球を作り出した。この魔法は訓練用とはいえ、魔法のカリキュラムで教官にわざわざ製作をお願いした俺専用のオリジナル魔法だ!
オリジナル魔法、それは従来既存の魔法をその使い手が使いやすいように性能をいじくった魔法の事で、基本的にはせいぜい色を変えたとか、魔力量を調整したりとか、利き手とかスペルワードの変更とか…その程度くらいしかイジることが出来ず、さらに調整には魔法を調整するプログラミング言語を理解し間違いがなく書き換えないといけないので非常に大変なのだ。
だが俺のオリジナル魔法用に調整するのはなんとか可能な範囲だったためこうして使うことが出来るのだ。調整内容は主に4つ。一つ目はスペルワード変更、二つ目は術式をグローブに仕込む、所謂魔具にしてもらったことだ。そして三つ目は光の弾をバスケボールサイズにしてもらうこと…そして四つ目が
「…は?お、お前何やってんだ?」
「…毬つき?」
俺は光球を地面に落とすと、光球はダンっと鈍い音を響かせて俺の手元まで跳ねる。そして何度も何度も手で地面に叩きつける…ドリブルを始めたのだ。そうまさに四つ目こそこの跳ねるという特徴だ。跳弾させる魔法は多々あれどこうして手元で跳ねさせるのは、まぁ知らなきゃビビるだろう。
「…あの時見ていた動き、こういうことだったのか」
「さて…ここが魔の最終クォーターってことだな、大丈夫。まずはワンゴール…そこからだ」
ドリブルと一緒にステップも踏み始めながら挟み込む二人を警戒する。二人も俺の不可解な動きに動揺しなくなり再度攻撃を開始する。キヨミツは札を飛ばすが俺はドリブルしながら大きく動いて回避する。続いてホタルが一気に距離を詰めて仕掛けるが、今の俺からすれば動きが速いだけの素人ディフェンスそのものだ。ホタルの動きに合わせてフェイントをかませ、ターンを決めてホタルを抜き去る。キヨミツの札だってただ愚直に突っ込んでくるだけの相手選手!俺は左右に揺れながらそのまま全力ドリブルダッシュしながら、堂々と見ているだけのラセツの前まで迫る!
「ラセツっ!」
「若様っ!!」
ツヅリも俺に目掛け矢を放つが俺からしたらそれこそ絶好のタイミングだった。放たれた矢も回避するとその足で踏み切り、光球を手にしたまま一気に大ジャンプ、俺ははなからゴールもとい高台のツヅリ狙いだったのだ
「いっけえええええぇぇぇぇぇ!!!」
「のあああぁぁぁ!!」
まさか自分が狙われてる等思いもしなかったのか、第二矢を番える間もなく目前まで一気に迫る。この一撃でアラームを鳴らさせるところまで行けるか分からないがまさに今こそAグループの布陣を崩す最初で最高のタイミングだ。俺は光球を両手にダンクの構えのままツヅリにぶつける。
その瞬間、目の前からツヅリが消え、俺は何もない上空をただ通り過ぎただけになったのだ。一瞬過ぎて何が起こったのか分からないが、俺の真下ではラセツが金棒でツヅリのいる塔を破壊しダルマ落としのように地面まで下げていたのだ。
「随分面白いものを見せてもらった。ただまぁもう限界だろう、そろそろ終いにしてやろうではないか」
着地した俺にそう言いラセツは残し真っすぐ俺とは反対に…バーケニーさんのいる高台に歩いて行った。他の三人は動こうともせずただラセツを見守っているだけだった。バーケニーさんは矢を放ち接近を拒もうとするもののラセツは軽々と手に持っていた金棒で弾く。止めれないと察したバーケニーさんは高台から逃げ出そうと周りを見渡すが後ろに自分で作った魔法の氷壁があるだけだった。そうこうしているうちに高台の下までたどり着いた。そして…手に持つ金棒を構え一振りするだけで氷の高台は粉々に砕け散りバーケニーさんの身体は宙へと歩おりだされたのだった。
「きゃああああぁぁぁぁぁ!!!」
空中で身動きが一切取れないバーケニーの真下で金棒を構えるラセツ。徐々にその距離が近づき、ラセツが金棒を軽く振るった…そのギリギリのタイミングで何とかバーケニーさんと金棒の間に俺が跳び込めて、バーケニーさんを庇い金棒が俺の身体に命中してくれたのだ。ゴスンっと保護していた筈の魔力バリアを突き抜けて鈍い痛みが俺の身体に走る。あまりの痛みに疲れで薄れかけていた意識が鮮明なまでに無理やり覚醒させられる。だがそれでも俺はバーケニーさんを抱きかかえたまま彼女のクッションになるように自分の身体から地面に叩きつけるように落下した。
痛い、全身がビキビキと悲鳴を上げる。訓練でも、元の世界でも味わったことのない痛みで意識が繋がれている。そんな俺とは対照的にAグループの4人はまだピンピンと俺の前に立っている。結局時間稼ぎにしかならなかっただろうか…
「異界人君!…ミナヅキ君!!」
俺の視界には眼鏡を落としてしまったであろう素顔のバーケニーさんが必死に俺の身体を揺らしている。それとなにやら教官達が俺を見ながら困惑そうに慌ただしそうに動いているように見えるが…だけどそんなことはどうでもいい。まだ立ち上がれるだけの最後の踏ん張りがある、それになによりまだ俺のアラームは鳴ってない!俺はバーケニーさんをゆっくり離させてフラフラと立ち上がり…ラセツを睨みつける。
「…み、ミナヅキ君…?」
「おい、どういうことだ!?鳴ってもおかしくない筈の状態なのになんであいつのアラーム鳴らないんだ!?」
「鳴ってもいないのに止めていいのか?教官達だってなんも言わねぇしさ…」
「…っふ、ははははは」
教官達と同じく困惑している三人をよそに一人笑い俺の前に堂々と立つラセツ。そして足元に転がっていた俺の剣を蹴り飛ばし俺の前に転がす。
「見事な根性だ異界人ミナヅキ。このラセツ・キンジョー、貴様に俺が持てるだけの最大限の敬意を表しこの一撃を以て最後とし、決着とまみえようではないか」
ラセツはそう言い残すと先ほどまで殆ど動かさなかった身体をたっぷりほぐすと、大きく足を開き金棒を高々と構える。その姿は、いやその気迫はまさに仁王、仁王立ちと呼ぶにふさわしい堂々たる構えだ。俺はバーケニーさんに離れてもらうようにハンドサインをして、足元に転がった剣を拾うとボロボロでフラフラ、ラセツとは対照的にとても力が残されているとは思えない、立っているのがやっとな雰囲気だ。だが…誰もがそんな圧倒的差がある二人を止める事はなかった。止めることが出来なかった。
「「…いくぞっ!!!」」
ほぼ同時にお互いがまっすぐ真正面に走り出し、一瞬でその間合いは武器が当たり合う距離に、俺はラセツに対して低い姿勢で剣を上に一撃を防ぐように構えながら下から仕掛けに行き、ラセツは高く振り上げた金棒を一気に振り下ろす…のではなく、なんと弧を描くように下に金棒をおろしながら、その勢いのまま俺の下から救い上げるようにして攻撃をしてきたのだ。俺が玉砕覚悟で上からの攻撃を防ぐため構えていた剣は意味もなく下から金棒が見えてきたときにはもう手遅れだった…ならラセツの攻撃よりも先に、俺の攻撃を届かせるまで!俺はありったけの力を込めて剣を前に突き出した。
バアアァン…激しい衝撃音と共にラセツの腕は振りぬかれ、そして俺の身体はラセツの後方、宙へと飛び上がっていた。誰もがその衝撃的な光景に言葉を失う。そして俺が地面に叩きつけられる音と共に…アラームがこだました。
「…み、ミナヅキダウン!!救護班!ミナヅキ君をタンカーに」
「…は、ははっ…ははははははっ!あっはっはっはっはっはっはっは!!」
教官達が慌てて駆けつけようとする中で、ラセツは上機嫌に高笑いしながら金棒から手を離すと俺…ミナヅキの傍に歩み寄った。そしてなんと意識のないミナヅキを肩に担いだのだ。当然そんな様子に教官達はまたも困惑し、他のAグループ三人も慌ててラセツの元に駆け寄る。
「わ、わ、若様!?一体何を?」
「あぁ、お前ら。俺に気にせず後は好きに戦ってていいぞ」
「おい、何言ってんだよ。そんな身勝手単位に響くぞ。まるで」
「なんだお前ら、まだ気づいてないのか?」
そう言うとラセツは三人の前に腕を突き出す。なんと手首についている戦闘不能測定器からアラームが聞こえるのだ。
「なああ!?」「マジでか…」「…うっそー」
「っつーわけだ。負けた俺はさっさと退場するから」
「そ、そんな馬鹿な事…その男が不正してるとしか」
「不正だろーがなんだろーが、現にこの異界人のからではなく俺のからアラームが鳴っている。死合いに勝とうが勝負に負けたんだ、そしてこの模擬戦では勝負の勝ち負けが全てだ。それに俺は悪い気はしてねーんだ、この場は潔く負けを認めるさ。…そんなことよりお前達は自分の事を心配した方がいいぜ」
ゴゴゥ、と氷壁の崩れる音と共に壁の向こうから充分に休憩のできた1組の面々が準備万端とばかりに前線復帰してきた。
「っへ、ミナヅキの奴一人でラセツを持っていきやがって。何が時間稼ぎだバッキャロー」
「とはいえまだAグループの三人とBグループがいる。油断は禁物だぞ」
「…わ、私だって、まだ戦えますから」
バーケニーさんも弓を拾い上げて1組メンバーに加わる。それを見た3組Aグループも急ぎ対峙の構えを取る。そしてこちらも休憩を終えたBグループも前線に戻り残りの総力戦が始まる、そんなタイミングで
「「「きゃあーっ!?」」」
今度は3組の後方に残っていたCグループの悲鳴と共に四人分のアラームが鳴り響く。なんとCグループのすぐそばにはコノハやホオズキ、1組Aグループのメンバーで裏取りを成功させていたのだ。
「ナイスデェース、イヴのあねさん。へぇいハイタッチハイタッチ」
「へーいコノハちゃん。ほらダーリンも♡」
「ほいほい」
戦えない女性達ばかりなので鳴らす程度にしっかり手加減したからか水無月とは対照的に残念そうではあるが4人ともお喋りしながら早足くらいの歩きで退場していく。合流した残された3組メンバーは1組メンバーに挟まれたまま戦いに備える、そんな中ミナヅキを抱えたまま去ろうとするラセツの元にリューゼルトが駆け寄って来た。
「おいっ!どういうことだよてめぇ、話と違うだろ!何あっさりとやられてやがるんだよ…何がキンジョー家だ。何が古来有数の武道一派だ、くそっ…どいつもこいつも使えないやつばかり…」
さんざん悪態を履き捨てて戦いに戻っていくリューゼルトを見つめる。ラセツ…その瞳はミナヅキに向けていたものとは異なり、様々な負の感情が混ざり合ったかのような目で睨みつけていた。
…———
………———
———………くん……———
———…らた…——…、…あーらた。ねぇ…———
「んん…なんだよ…」
———なんだよじゃないでしょ、もうホームルーム終わったよ———
「ほーむるーむ…?…あ、体育館行かねーと…」
———何言ってるの?もうバスケ部は引退したじゃない———
「あー…そうだったわ。もう大会終わったんだっけ…」
———今日は新の家で勉強会だって言ってたじゃない———
「…あれ?そうだっけ…あ、その前に依田君から…教科書を返してもらわないと」
———もー、二人とも相変わらずなんだから…———
「わりぃわりぃ…、あれでも待てよ。教科書返してもらったような?」
———………———
「たしか…俺は依田君に教科書を返してもらって、…それで、帰り道に、チャリおいて…そして…、ちがう。そうだ、おれは、そのあとはおもいだせないけどおれはおれはおれは…ちがう、ちがうちがう、違う!俺はもうこの世界に居ないんだっ!!俺は
「おわああぁぁぁ!」
なんだか変な夢見からはっと目が覚め奇声と共に飛び起きる。そこは兵爵の講習所内にある救護室のベットの上、隣にある真っ白でフカフカなベットとは対照的に俺の寝ていたベッドはじんわりと濡れていた。清潔な白い壁に囲まれた部屋をぐるりと見渡すと、隣にはドロフィーがちょこんと静かに座っていた。
…やっぱり、こっちの世界にいるのは夢じゃないんだな。そんな風に安堵なのか残念なのか分からない、様々な感情の入り混じった吐息が漏れ出す。空はすっかり夕焼け色に染まり、こんなことが前にもあったがやっぱり身体はすっかり楽になった。ドロフィーは俺が目が覚めていることに気付くとそわそわと何か言いたげにしている。俺はそんな静寂に耐えきれずに
「なぁ、ドロフィー…あのさ」
「おっはよーごぜーます旦那ぁ!!いやー、旦那の寝起き声廊下まで響いてきましたよーっ」
びしゃーんと扉を勢いよく開けて喧しい奴の登場で折角の静寂が破られてしまった。ドロフィーも頑張って何か言おうとしていたが結局スンと落ち着いてしまったじゃないか。
「おう、お前のおかげで最悪な目覚めだぜ」
「およよよ~。まったまたー、救護室に可愛い女の子二人が見舞いに来てくれるなんて男冥利に尽きるってもんじゃないですかね~」
「はいはいそうだな…。それで、俺がぶっ倒れた後ってどうなった?」
「はいですねー。まず単刀直入に言いますと…集団模擬戦闘訓練は、我々1組の勝利で終わりました!」
「おぉっ!!」
「とは言ってもミナヅキさんとラセツ殿との相打ちがあったからであって、あの後はぎりっぎりの勝利ではありましたね。何とか人数有利で勝てたとはいえあんな不利状況から捲ろうとした3組の残りメンバーには脱帽でしたね」
「マジかよ…すげーな」
「それと、もう一つ大事なことが…ミナヅキさんのつけていた戦闘不能測定器ですが、結論から言えばライオネットがすり替えていた故障品でした」
「どーりでならないわけだ。あんにゃろー」
「ただまぁ元々の想定とは大きく違ったみたいですけどね。どうも本来ミナヅキさんのとすり替える予定だったのが、ちょっとの魔力変動でもすぐアラームの鳴る不良品のつもりだったのが、間違えてアラームそのものが鳴らないものととりかえたらしいのです」
「まぁ…確かに、それなら鳴らないよりもすぐ鳴って退場させるものの方が自然だな。ま、そのおかげでラセツにも勝つことが出来たんだし、あいつにはちゃんとお礼言っとかねーとなぁ~。きっとこっぴどく叱られた後だしぃ、励ましてやらないとなぁ~」
「およよよよ~、旦那もなかなかいい顔するでありますなぁ~」
そんなやり取りしながらげっへっへと二人で笑っていると、またも突然扉がガラッと開き、カトレナが姿を現しヅカヅカと歩いてくる。その姿を見るや否やドロフィーはすぐベッドに座っている俺の後ろに隠れた。しばらく沈黙の中でお互いに睨み合っていると、カトレナは頭を下げ
「…約束は約束ですわ。証拠もない容疑で強く当たってしまい、不快な思いをさせてしまったこと、申し訳ありませんでしたわ」
いきなりの第一声に唖然としてしまったが俺はドロフィーに小声でどうするか聞いたが、ドロフィーは何も答えずただ縦に首を振ったのだった。
「…う、うーん…まぁ、ドロフィーもとりあえず大丈夫そう、だと思うし。それに俺達も引き続いて大事なペンを探すの手伝うからさ」
「…よろしくお願いいたしますわ」
それだけ言い残すとカトレナはふんっと鼻を鳴らし手で髪をなびかせるとまたヅカヅカと救護室から出て行ってしまった。そして入れ違うように今度は1組のメンバーがドカドカと一斉に入ってきた。というか全員は入れないだろう!?
「イプロクス、お前はデカいから出てろよ」
「んだとぉ!」
広さを持て余していた救護室はすっかり窮屈で騒がしい空間と化してしまった。今中にいないのは追い出されて廊下で騒いでいるイプロクスと…あとはバーケニーさんか。
「あ、そういえばバーケニーさんから伝言ですよ。『助けていただいたことには感謝しますが、それはそれとして私の眼鏡が割れてしまったのはあなたの所為ですからまずこれの弁償をお願いします。それとあと色々責任を取ってもらいますから。全てあの人が悪いですから…』って」
「うっわ、アイツそっくりじゃん」
ラフィラがバーケニーさんの割れた眼鏡をかけて声真似するのをみんなでげらげら笑った。というか眼鏡がかなり悲惨な事になってるのをラフィラから受け取りながらまじまじと眺める。安く済むといいなぁ
「んじゃ、ミナヅキも元気そうだし…早速行くか」
そういうとウルヴァ達が俺をベッドから引っ張り出して肩に担ぐ。
「お、おいっ!ちょっと待て!!なにすんだよ!?」
「決まってんだろ!祝勝会だ!!」
「ぱーっとやろうぜ!もう準備は出来てるからな」
「んじゃぁ私はバーケニーさんも呼んでくるね」
俺の許可とか関係なくまさにお祭りムードのような雰囲気で勝手に連れ出そうとするみんなに俺は呆れながらも当然嬉しい限りだからされるがまま連れていかれるのだった。幸い大した怪我をしているわけじゃないし
ただ…連れていかれ救護室から出される瞬間、窓の外に一瞬…3組の、ラセツ達の後ろ姿が人気のない建物の裏に向かっていくのが見えた…様な気がしたのだが、見間違いだっただろうか…?
……———……
「っや、やめてください!リューゼルトさん!!」
講習所の建物の倉庫として使われている部屋の真裏に位置する建物裏、ここは周りからの視認性も悪く窓も倉庫の中が見えるだけでよっぽど用事がない限り人が寄り付かない隠れスポット。だがその時だけは人気のスポットと化していた。3組Dグループのリューゼルトが同じグループの男メンバー全員を呼びつけて…なんと暴行を行っていたのだ。フリッドが頭から血を流しながら倒れているのを他の2人が庇おうとしていたのだ。
「…っざけんじゃねぇ。てめぇらが役に立たねぇから…」
リューゼルトは何やら小さくぶつぶつと呟きながら、おそらく同じメンバーであるフリッドのものであろう血が滴った、明らかに訓練用ではない鉄の棒を手にして今度はツィーレを足蹴する。痛みで悶えるツィーレを見てレンドは恐ろしくなって腰を抜かしている。そしてそんなレンドの目の前に立ったリューゼルトが鉄の棒を高く振り上げる…
だがその鉄の棒が振り下ろされることはなかった。なんとリューゼルトの後ろに現れたラセツが棒を掴んで抑えていたのだ。さらにラセツの後ろには3組Aグループのメンバーが揃っていた。
「随分教育熱心なこったぁ。まぁ当の本人がこいつら退場してからはろくに戦わずに、勝手に戦いの場から抜け出してるってのは、いい御身分なことだ」
「…てめぇ…」
リューゼルトが振り払うとラセツは棒から手を離し距離を取る。睨み合う二人の隙を見て地面に倒れているレンドとツィーレが急いで立ち上がり、フリッドを介抱しながら急いで逃げ出した。だがそんな事をリューゼルトは全く気にする様子は一切なかった。
「てめぇが…さっさと負けてるせいで、全然強くねぇくせに、粋がりやがってっ!!」
「若様!後ろに」
「構わん。俺一人でいい」
キヨミツ達が警戒しラセツの前に出ようとするのをラセツが制止する。リューゼルトは明らかに異様な雰囲気を漏らしながら一歩一歩ラセツに歩み寄る。
「俺は…選ばれたんだ…、この世界の主人公は…俺なんだ…!なのに…なんで、なんで何も俺の思い通りにならねぇんだよおおおぉぉぉ!!!」
リューゼルトの発狂と共に勢いよくラセツに襲い掛かる、だがラセツは訓練用の武器を振りぬく、リューゼルトの鉄の棒よりもダメージを想定していない得物がリューゼルトの攻撃が届くよりも圧倒的に早くリューゼルトの腹に直撃し、素早く、重く振りぬかれるとリューゼルトの身体は宙に舞い上がり…そのままキヨミツ達三人の間に落ちる。たったの一撃でリューゼルトは気を失っていた。
「お見事でございます。この妄言男は教官方に突き出しておきます。キヨミツ、ホタル、こいつを運ぶぞそっち持て」
三人で気を失ったリューゼルトを雑に持ち上げ、えっさほいさと運んでいくのを後ろからゆっくりついて行くラセツ…その足取りはゆっくりとして、まるで心あらずな様子だった。
「…妄言か。こやつの言ったこともあながち間違いではなかったけどな…」
ぼそりとそう呟き空を見上げる。夕焼けに染まっていた空も気がつくと薄暗くなっており、周りの薄暗さからか夜深くなる前から既に淡い空に星が光っているのが見える。冷たい夜風が吹き抜けるのを感じながら拳をグッと握りしめる。
「…俺は絶対、強くなって見せる。大事な人達を守れるくらいに」
その言葉には決して嘘偽りのない、何よりも強い意志がこもっていたのだった…
本投稿を読んでいただきありがとうございます。SKMRでサキモリと申します。
予約投稿の方は何とかうまくいきましたが…その時に設定資料集とかに付けているURLが間違ってるという事にその時初めて知りました…。直しておいたので今度こそちゃんと機能すると思います!
また今回も誤字脱字、文章構成などまだまだ課題がありますのでよかったらアドバイスなどしていただければ幸いです。
次回は9/17の水曜日、午後7時に…いつも通りならEXストーリーの投稿をしていましたが、まだ完成してないのでもしかしたらEpisode6の前編を投稿するかもしれません。もし少しでも面白かった、続きが待ち遠しいと思えたら嬉しいです。次回もよろしくお願いします。




