Episode0 神の話、そして人の話へ——— 中編
その間スタッドは正々堂々一人ずつ相手していた。ようやく4人目を倒した
「った、隊長!このままでは、後衛部隊が!!」
「隊長っ!!突撃部隊の指揮が乱れています!ご指示を!!」
「隊長!!!東よりおそらく傭兵団の応援部隊と思われえる人影を多数確認!」
「このままではこちらの応援が間に合いません!!隊長!ご指示を!!」
隊長、隊長と敵兵達の声に苦悩の表情を浮かべる敵軍隊隊長。必死に堪えてきた表情がゆっくりと諦めのような静かな顔になり、口を開く
「もう限界か…総員
「 よくやったお前等、下がるがいい。死にたくなければな 」
全員の動きが、呼吸が、鼓動ですら、まるで凍り付いたかのように全てが止まった。1秒、鼓動が、呼吸が、全員がまた動き出すと同時にそこにいた全員が全身から滝のような冷や汗が溢れ全身の毛が逆立った。2秒、全員の思考が正常に機能をはじめ、認識した。認識してしまった。全員に同じ答えが脳に焼き付いた。
『王』が来た
ゆっくりと時が正常に動き出した。ティストレイ・トシヴェ連合軍はみな一目散に逃げだした。敵に背を向けているのにもお構いなく、倒れた敵兵を乱暴に運びながら全員が全力で走り続けた。傭兵団達は逃げる敵兵の方角を注視しながら同じくゆっくり固まって下がっていく。不幸にも進行方向から援軍が到着してしまった。その数およそ500人規模、先ほどまで戦っていた軍勢とようやく並んだくらいと言ってもいいほどだろう。援軍には様々な種類の『人間』がいた。普通の人間もいれば、細身で美形だったり背がやたら低くてずんぐりむっくりな体型をしている長い耳の人間、さまざまな色の翼の生えた人間、様々な動物の特徴を持った人間、背ビレや尾ヒレの生えた人間、羽や甲殻を持つ人間、トカゲのような姿だったり鱗の生えた人間などなど…
だが、もはやそんな事どうでも良かったのだ
「おいおい…嘘だろ、アイツが動くなんて聞いちゃいねぇぜ」
「…そう、ですね…。イヴァンさん、ヴァイルハンさん。何か対策を」
「対策と言っても王を相手するのに1万の軍勢を持ってきてやっと互角と言える程だ。いくらこっちの面々が手練れと言えど自分達程度の実力があるメンバーが7人…数百人か千人ほどでようやく少数でも戦えると言えるのですよ」
「愚痴っても仕方ねぇ。とりあえず残ってる魔力全部絞り出して逃げるための時間稼ぎをするしかねぇ。…一人ですら逃げれるかも怪しいもんだがな。どっちにしてももうここの奪還はほぼ不可能だ」
「…あの町の残骸にはまだ逃げ遅れた住民が残っている可能性があるが、巻き添えでも構わないならそこに逃げ込むのも手だが」
「それは駄目だ。そもそもこの町が襲われたのだってここの住民にとっては関係のない事だったんだ。これ以上無駄に命を落とすことがあっちゃいけねぇさ」
「…でしたら…」
「あぁ、俺達くれぇは真っ向から戦わねぇとな」
数百の軍勢が武器を手に敵兵がいた方角から迫る巨影を目視で確認する。明らかに速い速度で迫ってきている。各々が口々に言葉を綴ると軍勢の目の前にいくつもの炎の壁や氷の壁、岩の壁、水や雷や風の壁が現れる。一つ一つが小さくとも数百もの壁が強大で分厚い城壁並みになり巨影が視界から遮られてしまった。だがたったこれだけで半分ほどのメンバー、特に先ほどから敵兵と戦っていた傭兵団達は憔悴しきっている様子でなんとか立ち肩で息をしている様子だった
「…よし、次は足止め用の…っっ!?」
ドォォン!!と激しい爆音と共に肌が痺れる程の衝撃波が全身を襲う。衝撃で突風が発生し軍勢を包み込む。咄嗟に腕や武器で目元を防ぎ、突風や衝撃がおさまると状況を確認するために腕をずらすと、城壁のようだと言った壁の一部が砕かれ、そこに『王』がいた
体長はおよそ4mほどもあるだろう巨体で、その全身が獣の毛に覆われ、頭はアナグマのような、ラーテルのような、高く長い鼻のイタチ顔に隈取模様がついており、首はまるで鬣のような炎と雷が巻き付いている。まるで魔獣かのような風貌の『人間』だった
「うちの先鋒を随分可愛がってくれたじゃねぇか…」
「へへっ…大将自ら御出ましとはな…こっちの大将達が不在だってのに勘弁してほしいぜ…」
大剣を持った腕の震えを反対の腕で抑え込んで構えるヴァイルハンを上から見下ろす獣の『王』
「こうして直接戦場で相まみえるのは初めてだな…我は西の極寒の台地にある国々を束ねティストレイ・トシヴェ連合国家を創立せし獣人種の王、アレッサンドロス。我らの目的はただ一つ…この滅びに向かうムロコナル大国の全てを手に入れる事だ。土地、食料、武器…そして人。特に戦える人材はいくらでも欲しいからな。降伏などと考えずとも…この程度の数なら生け捕りにして連れ帰る程度容易いものよ」
「っなめるなぁ!!」
スタッドが怒りのままに剣から火球を撃ち出し、アレッサンドロスに放つが弾くこともなく火球が体に直撃するも全く反応を見せることはなかった。
「我の手下は4つの種族しかおらぬ…台地に多く繫栄していた同族である『獣人種』、そしてこの地から移り住んだ『精人種』と『翼人種』そして『雑人種』。『魔人種』共は協力してはいるが、あ奴らは腹の内で我らを見下している。取り込めそうにもないだろう…残るは今この場にいる『龍人種』『水人種』『虫人種』、そして魔人種共しか所在を知らぬ『巨人種』、東の果てでしか繁栄をしていないという『鬼人種』…そして、この地の隣島で繁栄している『月人種』!あの国の技術も、土地も、人間どもも!全てを手に入れてやるのだ」
アレッサンドロスが壁の穴から飛び降りる。地面に着地するとズズンッ…と地鳴りが響き地面が大きく揺れる。そして即座に地面がえぐれるほどに飛びかかり一瞬で軍勢の目の前に現れる。だが咄嗟にヴァイルハンとジュセルが軍勢と王の間に割り込み、大剣と棍を構える。王が腕を一振りする。痛烈な衝撃が二人を襲い武器で受け止めていたにも関わらず一瞬で全身がズタボロに切り裂かれ、衝撃の余波だけで後方にいた団員達も吹き飛び全身を切り裂かれて何人かは倒れてしまった。だが王は留まることなく今度は逆の手の甲で二人をいっぺんに一振りで遠くへと殴り飛ばしたのだ。二人は何とか受け身を取るものの二度三度全身を地面に叩きつけられ膝をついた。
「ヴァイルハン!!ジュセル!!」
イヴァンが大きく叫びながら杖を大きく振るうと強力な横向きの竜巻がアレッサンドロスに直撃するが、直撃したにもかかわらず突風に煽られた程度と言わんばかりに数歩下がるほどで、腕で振り払うとあっけなく消し飛んでしまった。だがその隙にニーヤ、アリーチェ、キャミリーの三人が吹き飛ばされた二人のところへ急いで駆け寄った
「キャミリーさん!ニーヤさん!二人の応急処置を」
アリーチェが面前で胸の前で腕をクロスさせると目の前にいくつもの結晶が浮かび上がる。その結晶がキラキラと輝きを放つと薄い膜のようなバリアのようなものが展開される。その間にキャミリーとニーヤで二人を抱え体勢を立て直させる
「二人とも、回復打ち込むけど耐えれる?」
「あぁ…大丈夫だ」
「構わん、やれ…」
ニーヤの手が紫色にぼんやりと光り、ボロボロのヴァイルハンとジュセルに一発ずつ光る手で貫手を打ち込む、二人は一瞬痛みに顔が歪むが呼吸を整えて表情が和らぎ目立った外傷からの出血が落ち着いていくのが目に見えて明らかだった。キャミリーもまた杖を大きく掲げると近くにいた五人を上空から優しい光が包み込んだ
「っ!衝撃に備えて!来ますわよ!!」
アリーチェの視線の先で多くの団員達と共にイヴァンとスタッドが吹き飛ばされ、そんな戦いをしている王が余所見でアリーチェと目が合ったのだ。王の片腕から人ほどのサイズの火球を作り出し撃ち出すとアリーチェのバリアに直撃し、火球はバリアをゴリゴリと削りながら火花と衝突による衝撃がバリアの端を走る。火球が消滅しきるとその視線の先には王がいなかった
「アリーチェ!!伏せろっ!!」
声が聞こえると同時に即座にしゃがむと、アリーチェの真上でアレッサンドロスが腕を振り下ろそうとしているところにヴァイルハンが大剣を盾のように斜めに構えて割り込み、表面を滑らせて軌道をずらし受け流して王の腕が地面を叩き割った。その一瞬の隙でニーヤがヴァイルハンの懐に潜り込んでアリーチェを抱えて脱出する。
「ほぅ…なかなか能力の高い男だな。お前の腕なら直属の部下として申し分ないな」
「っへ、獣人種の王様ってのは皮算用のスケールまでデカくなるもんなんだな」
「ふはは、お喋りも得意なら退屈もしないだろうな」
ゆっくりと腕を上げ立ち上がる王。ヴァイルハンも結構な大男の筈だがアレッサンドロスがまっすぐに立ち上がるとまるで子供どころか赤子サイズと言って差し支えない圧倒的な体格差を前にしても臆せずに大剣を構える。だが王は突如と飛び上がると王の後方から様々な魔法や矢が飛んできて、ヴァイルハンは咄嗟にガードをする。魔法の一部が地面に当たると砂埃が舞い上がり5人は咄嗟に身を屈める。
「…みんな、余力はあとどれくらいある?」
「悪いけど、私はさっきの戦闘で結構魔力使ってね…残り2割、あてにしないで」
「私も、温存はしたものの残りはほぼ蹴り一発分ってところですね…申し訳ございません」
「虎の子、持ってきて正解でしたわね。どデカいのが一度きりで」
「…王一人の足を、一瞬だけなら」
「よし。後はあっちの奴らだな。…合流するぞ」
5人は一斉に砂埃から走りだして逸れた軍勢に合流する。団員と共になんとか体勢を立て直していたスタッドとイヴァンも揃い7人と数百人で改めてアレッサンドロスと対峙する。
「イヴァンさん、奴の片腕だけでも止める術はありますか?」
「随分無茶な注文だな。…王証持ち相手に通用すると考えるな」
「あぁ、そん時は俺が何とかする…後のメンバーは陽動と援護だ。相手は王証持ち、フォローを怠るな、危険に感じたら指示を待たずに下がるんだぞ!」
「…っちょ!ちょっと待てよ!何お前が勝手に指揮とってんだよ!ってか俺は何すんだよ!!」
「あんたは私と一緒に左腕だよ!こんな時までしゃしゃり出なくていいんだよ!」
ヴァイルハンの指示で団員達は陣形を組む。7人を中心に前衛タイプの兵が左右に広がり、後衛タイプの兵が後ろで呪文を唱えると先ほどのような様々な種類の壁が視界を遮らないように左右端にいくつも展開する。まるで王にはど真ん中から突撃するのを誘っているかのように
「…ほぅ、いいだろう。見定めるに丁度いい」
アレッサンドロスはずんっ、ずんっとゆっくりとした足取りでまっすぐ歩いてくる。じりじりと縮まる距離に冷や汗を抑え今か今かと待ち構える。そして、ヴァイルハンの突撃と共にスタッド、ニーヤ、そして前衛達が王を取り囲むように走り出す。王は身体を一回転させ生えていた尻尾で一周薙ぎ払う。各々が手にしている武器で尻尾を防ぎ、ヴァイルハンは飛び上がりその一撃を躱すとともに空中から大剣を振り下ろすが、背中の分厚い体毛に阻まれて大剣が止まってしまった。
「『内側で弾き貫け 一矢に束まりて 幾千の稲妻よ』」
直後にアレッサンドロスを蹴り跳ね返ると、後衛にいたイヴァンの上空に強力な稲妻があたかも槍のような形状で爆音と共に放たれ王の背中目掛けて飛ぶが、王は即座に振り返り右手でキャッチするとその稲妻が手の中で弾け、一本の稲妻から無数の小さな稲妻が棘のように手を貫通した。
「『冥府へ引きずり込め 亡者の腕を伸ばし 深淵の沼よ』」
手の痛みに驚いている間に今度はジュセルが棍を地面に突き立てると、王の右足の下に禍々しい淀んだ黒い沼のようなものから腕のようなものが無数に生えて王の右足がずぶりと沈んでいく。バランスを崩した王は咄嗟に稲妻に貫かれた右手で地面につき、返しとばかりに左手を振りかぶるが今度はニーヤがぶっとい鎖を持ったまま王の真上を跳び左肘にひっかけて、両端をスタッドや複数の力のありそうな団員達と共に引き左腕を後方に引っ張る。
「さぁ、私達もやってやろうじゃないか。ひけぇぇえ!!」
「「「うおおおおぉぉぉぉ」」」
身体の自由を奪われ団員達にですら乱されることに苛立ちをみせるかのように口を開くと、中から炎のような稲妻のような高エネルギーの魔法の球を作り出しているが、王のさらに上空からヴァイルハンが降ってきて大剣を脳天に突き刺す。
「ぐおおぉぉぉぉぉぉおおおお!?」
「『魔法術式を乱せ 思考に走り 雷撃よ』」
その瞬間手から、大剣から電気が王の頭に流れ込み口に生成していた高エネルギーの魔法の球はバチンッと小さな衝撃波と音をたてて消滅した。好機と見るや否や上空を飛んでいたキャミリーが隙だらけの左胸に勢いのついた強烈な跳び蹴りをかますと轟音と共に閃光が走った
「残り全ての力をこの一撃に…キャミリーゴージャスシャイニングキーック!!」
強烈な衝撃に王はごふりと息を吹き出し動きが完全に止まる。その隙に全団員が一斉に攻撃を仕掛ける。矢が、魔法が、様々な武器が王の身体にダメージを蓄積させる。そして後衛で一人攻撃に参加せずに、どこからともなく取り出した2mものある巨大な鋼鉄のぶっとい矢…もといミサイルのようなものを弓につがえる。スカートが徐に舞い上がると太腿から4本の折りたたまれたアームのようなものが関節を伸ばして先端を地面に突き刺して固定、矢を王の胸元に定めると矢羽根とも取れる部分…噴射口から炎が噴き出しずりずりと足やアームが前に引っ張られる。
「全員離れろぉ!!」
掛け声とともに全員が王の元から離れ左右の作った壁に逃げ込み、後衛にいた人たちも新たな壁を生成し退避する。ぐらりと一瞬体が崩れかけるのを見極め…射出される。
一瞬のうちに鋼鉄の矢は王のどてっぱらに直撃し煌きと共に爆炎が、黒煙が辺りを全て見えなくさせ、キイィンと耳鳴りと共に無音の世界が広がる。衝撃がおさまると軍勢はすぐに王と反対方向に全員走り出した。それぞれが全員バラバラだったのが集合しほぼ全員が王の元から離れ、徐々に声が聞こえるようになっていった
「どうやら、王が追って来ている気配はなさそうだな」
「いよっしゃぁー!あれを喰らったら流石の王証持ちだろうとひとたまりもねぇぜ!!」
「…また余計な一言を…」
「イヴァンさん、あの一撃でも王は斃せないものなのでしょうか?」
「分からん。王証を持つ者の強さに関しては文献でしか見たことないからな…そのどれもこれもがまるでお伽噺のようなデタラメな物ばかりだ。」
「デタラメ…ねぇ。そのデタラメを信じなくちゃいけないものを知っていますからね私達は」
「まぁなんにしても今はとにかく逃げることが最優先だ。あの地を奪還できなかったのは残念だが、多少獣人種の王に関する情報を持って帰れるだけでも収穫としよう」
「生きて帰れたらの話だがな」
全員の足が止まる。団員達が一斉に動揺を始める。当然だ…今俺達7人の声が響いている時にはっきりと聞こえた8人目の声。そして追って来ているはずもなかったのだ
アレッサンドロスが既に先回りしていたのだ。胸には大きな火傷跡のような黒シミが目立っているが、あれだけの爆撃に対しそれだけのダメージしか通っていないことの証明でもあった。ヴァイルハン達7人も今度ばかりはただ茫然と見つめることしかできなかった
「いやいや、実に素晴らしいデモンストレーションだったよ。これだけのパワーがあればあの目障りな野良の竜共も軽く捻ってくれるだろう」
パチパチと拍手をする王…もはや団員達には抵抗しようとする気力は無く、次々と武器を手放し膝を折っていく。それでもとなんとか平常を保つのに必死になりながら歯を食いしばり大剣を構えるヴァイルハン。
「たかが数百の軍勢如きで俺に1~2割程のダメージを負わせるとはな…もし数千の軍勢だったならば危なかったかもな」
「くっ…っっそおおおおおおおぉぉぉ!!?」
ヴァイルハンが勢いよく跳びかかるが、王の薙ぎ払いであえなく一蹴されてしまう。そして先ほど撃ちそびれた口からの高エネルギーの魔法の球がすぐに作られ、軍勢めがけて飛んでくる
ギイイィィン!!激しい衝突音と共に魔法の球は遥か彼方に飛び先程とは比べ物にならない巨大な爆炎が上がる。それだけの威力を誇る魔法を一瞬にしてはじき返したのだ。軍勢の中に突如として現れた一振りの剣を構えた一人の男
「…アーテュール…」
ニーヤがぼそりと呟く。アーテュールと呼ばれた少し小汚い格好のした一般的な体躯の特徴らしい特徴が見当たらない、いたって普通の男が4mもある獣の姿を持つ王証を持つというアレッサンドロスと向き合う。そしてアーテュールが剣を、アレッサンドロスが腕を同時に振るう。お互いが衝突した瞬間辺りに激しい衝突音と衝撃波が拡散されその余波だけでも団員達が吹き飛んでしまう。しばらくお互いの力が拮抗しあい、そしてついに
アレッサンドロスの腕が後方に吹き飛んだのだ。だがすぐさま両腕で拘束の連撃を仕掛けるがアーテュールはその全てを的確にはじき返す。アレッサンドロスは一度距離を取るがアーテュールもまた同じ速度で追いついていく
「…ほぅ、これは驚いた…。そうかお前か」
アレッサンドロスはニヤリと不敵に笑う。
「お前が、お前こそが…この地で数十年もの間見つかることがなかった。この侵略戦争の最中突如として姿を現した。雑人種の王証を持つという男か!!」
「僕は、アーテュール・コーランド。僕は…この戦争を終わらせて、真なる平和の世を手に入れる」
アーテュールが一気に踏み込みアレッサンドロスの脇腹に剣を突き立てる。その一撃は硬い体毛を貫通し肉にまで突き刺さり血が溢れ出した。その痛みに咄嗟にアレッサンドロスはアーテュールを追い払い、爪で肩を切り裂く。お互いの傷は深い筈なのに溢れる血は一瞬で収まり傷はみるみる塞がっていく。
「真なる平和の世…そんなくだらない与太話をに縋るとは、雑人種の王とは随分お気楽で呑気なものだな。王証など、戦争がなければ何の価値もないのだぞ」
「………」
アーテュールは黙ったまま剣を振るうと刀身に滴ってた血が飛び散り綺麗な刃が見える。そしてアレッサンドロスに再度剣を向ける。その態度に気に入らないのかアレッサンドロスは怒りの表情を見せる。
「…笑われても構わない。僕は貴方と…いやティストレイやトシヴェ、その他々の国と分かり合いたい。多くの民が共に暮らせる道を探したい。話し合いたいんだ…」
「黙れ!甘っちょろいことをほざくな!!王証持ち同士が、力を持つ国同士が争わずして平和を謳う方法などただ一つ!全てを奪い支配し従わせるのみ!!王証は力そのものだ、そのほか全ての命は等しくこの力に怯えるのみなのだ。ならば我が全ての王証を我が意志の元縛り付けるのみ!そうして全ての国の愚かな民共は希望を捨てると同時に恐怖すらも必要としなくなり、ただ我が国に言われるがままに穏やかに暮らすことが出来るのだ。貴様とて…やることは同じなのだ!!!」
アレッサンドロスは怒りのままに大地を踏み砕きアーテュールの足元が大きく揺れ、その隙に一気に接近しアレッサンドロスの腕が空を切り裂きながら振り下ろされる。アーテュールはひらりと跳び上がり躱すがすぐに次の追撃が襲い掛かる。だがアーテュールは空気を蹴りさらに空中で軌道を変えて躱し続ける。その2つの王の衝突の様子を遠くで眺める傭兵団達
「…大丈夫ですかヴァイルハンさん」
「あ、あぁ…とりあえずな。まぁどちらにしても今応援に言っても何の役にも立たないだろうがな」
二人の戦闘は何もかもが規格外だった。遠くの距離を一瞬で詰め寄り、双方の攻撃は共に硬い巨岩を砂塊のようにいとも容易く砕き、魔法も強大な威力のものを無尽蔵にノーモーションで使いまくる。この世界ではどれか一つ秀でている戦士は探せばいるかもしれないが、その全てを持ち合わせている彼らの戦いに、既に戦闘で疲弊している団員達では誰もついて行けそうにもなかったのだ。
「だけどよぅ、こうしてただ突っ立って見てるだけでいいのかよ…せ、せめてもうさっさと獣人種の王が来れないとこまで逃げるとかさ…」
「あんたねぇ、こっちの王も前線に来てもらっているってのに何おめおめと帰る気なんだよ。…ま、疲弊した戦力は離脱していってもよさそうだけど…」
「それじゃあ疲弊した戦力以外は再度突入ってことで」
「っ!?ペリーシャか」
声がした方を向くと、上空から頭に浮遊する輪っかのある白髪ストレートロングで巨乳のサイバースーツ姿の女性が浮遊していた。ペリーシャと呼ばれた彼女は姿勢を崩すことなくゆっくりと地上に降りてくる
「やっほーみんな、おっまたせー。アーくんってば前速力で行くもんだから追いつくのが大変で大変で」
「おいペリーシャ!そもそもお前達は奴隷狩り部隊の対応の筈だろ!こっちに来てたら、そっちの事はどうすんだよ!!」
「そっちはまー適当に済んだからモーマンタイだよスタッドおじさん。んで、こっちは両王のぶつかり合い以外はどういう状況?」
「…全員持てるだけの気力も弾もほぼ使い果たした状態だ。ヴァイルハンに至ってはこれ以上戦闘を続けるには」
「おいおいジュセルさん、せっかくアーテュールの奴がこっちに来てくれたってのに俺だけおめおめ逃げ帰るなんてそんなのよしてくれよ~」
「離れろ」
ふらふらになりながらも嬉しそうにジュセルに肩組みかかるヴァイルハンに明らかに嫌がるジュセル。それを見てくすくすとみんなで笑う
「そうね。そんだけ元気なら大丈夫そうだし…そろそろ行こっか。もうすぐだろうしね」
「もうすぐ?何があるのですか?」
「もしかしたら…歴史が動くかもね」
その瞬間傭兵団達の上空に2つの飛翔する何かが猛スピードで通り過ぎるとそのまま二人の王のところまで進み、そしてそのうちの一つから無数の光球がアレッサンドロス目掛けて放たれる。アレッサンドロスは目でとらえられない速度で光球による攻撃を全てかわし、その光球を放つ本体に跳びかかるがその間にもう一つが割って入り、魔法の障壁のようなもので攻撃を防ぐ。そこに横からアーテュールが仕掛けるがアレッサンドロスは即座に離れ距離を取りその3人を見て驚きを露わにする
「セレーネ、エルマギウス、来てくれたのか」
「えぇ。アーテュール様がティストレイ・トシヴェ連合軍の戦いに行かれたと聞いていてもたってもいられず…」
先程アレッサンドロスの攻撃を受け止めたセレーネと呼ばれた煌びやかな装飾に包まれた銀髪のウェーブ髪のどこか儚げで絵にかいたような美少女姿に似つかないような禍々しいような漆黒の蝙蝠のような翼を広げてアーテュールの傍にゆっくりと近づく
「ふん、貴様が心配で来たのではない。こっちもこっちで用が済み暇になったから来たまでだ。…まぁまさかけだものの王が直接出向いていたとはな」
先程アレッサンドロスに光球を撃ち続けていたエルマギウスと呼ばれた衣装が民族感の強い飾り布で着飾りさらにマントを羽織った耳が長く尖った男が4対の薄く透き通る綺麗な翅で羽ばたきながらついでとばかりに巨大な光の槍を作り出し獣人種の王に投げるがアレッサンドロスはそれを容易く消し飛ばした
「…これは驚いた。まさかとは思うが…精人種の王に、そしてあの月人種の王までもが集うとは…いや、そうか…そうだったな雑人種の王よ。そ奴らがお前の思想と添い遂げる道を選んだ王と言うのだな。まだ未熟だと思っていたがとんだ思い違いをしていたものだ。」
そう言うと首をゴキリゴキリと鳴らすようにほぐすと、全身の毛が逆立ちさらに全身からまるでオーラや闘気とでも言うだろうか、熱気を帯びたエネルギーが噴き出し台地が震撼するほどの衝撃が広がる。その衝撃は空を飛んでいた3人の王達の肌をビリビリと震わせ3人もまた臨戦態勢を取った。
「アーテュール王よ、最大限の謝意と誠意を込め…我が全力を以て貴様らの手足羽を食い千切り王証持つ屍とし我らが連合王国の更なる発展の証としよう!!」
獣人種の王が両腕を思いっきりクロスさせて振りぬくとこれまでとは比べ物にならない爆炎と轟雷が入り混じる強力なX字状の衝撃波が他の王達目掛けて放たれる。それを見た精人種の王が二人の前に出ると軽く腕を振るうだけで幾何もの魔法陣のようなものが現れて獣人種の王の攻撃を涼しい顔で受け止める。だがその表情とは裏腹に受け止めている魔法陣は何枚かは破壊され、衝撃の余波で大気が振動しまるで大地震かの揺れすらも引き起こした。
本投稿を読んでいただきありがとうございます。SKMRでサキモリと申します。
一応前編でした宣言通り26日の投稿が無事出来ました。
初投稿は正直心臓バックバクで緊張しながら投稿しました。投稿した次の日に自分の作品が皆さんに読まれたと思うと嬉しい反面お目汚ししてしまったという謎の後悔心を持ってしまいました。ですがめげずにもうちょっとだけ頑張って投稿を続けていくつもりです。頑張ります。
ちなみに本編では唐突に前編からの続きとなっており申し訳ありません。つなぎの部分に関しましてどううまくやるのかは今後試行錯誤していくつもりではあります。
また今回も誤字脱字、文章構成などまだまだ課題がありますのでよかったらアドバイスなどしていただければ幸いです。
次回は5/3にEpisode0の後編を投稿予定です。次回でEpisode0のラストとなりますのでようやくひとくくりが出来るので、もし少しでも面白かった、続きが待ち遠しいと思えたら嬉しいです。次回もよろしくお願いします。