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Episode3Ex  帝都と異界人と出会いと別れと——— 番外編

 今日も退屈な一日が終わった。


 朝起きて、歯を磨き、髪を綺麗にして化粧もして、外出着に着替え時間通りのエルフ市行きの市電に乗る。エルフ市に着いたら自分の所属のお店に向かい、ママに出勤と今日の仕事の確認をしたらフードコートで朝食。仕事がなければそのまま店で待機、仕事あるなら時間に間に合うように出発。私の所属しているお店「レモンバームとミツバチ」は若い女性が多く比較的家事向けの隷爵を売買するお店であり力仕事は滅多に回ってこないが、たまに現場仕事してる隷爵のご飯作って届けたり汚い衣類の洗濯を任される。一番やりたくない。一番多いのは料理作るお店や騎士団からのヘルプが多い…気がする。なにはともあれ、依頼先に向かい仕事をこなし、時間いっぱい働いたらお店に帰って、給料もらって晩御飯の買い物だけして、友達と休みの日に遊ぶだけのお金をためながら毎日こうして働くだけの日々…。

 充実していない、とは言わないが、戦争中と言えどこうやって毎日毎日同じように仕事して、いつか結婚とかしたりしなかったりして、でも結局代わり映えのない毎日をいつまでも過ごしていくのかな…


 そんな風に考えながらまた一日が始まった。ピピピピと鳴り響く。朝5時にセットしたアラームに起こされて眠たい瞼をぐぐぐと持ち上げ、目覚ましを切る。


「っあ~~~…、セレスー、二度寝したらママに怒られるよ~…」


 私はむにゃむにゃ声で同室にいる友人のセレスと呼んだ女性に声をかけると、呼ばれたであろう女性がベットからむくりと起き上がる。セレスは軽い伸びをしてから立ち上がると、まだベットに寝転がって片腕だけ上にあげているだけの状態の私をぐいっと引っ張り上げて起こしてくれた。

 私達二人は部屋から出ると薄暗い廊下が広がっていた。ここは親元を離れた新生隷爵用の集合シェアアパート、というか寮みたいな居住だ。家賃はほぼタダ同然で住めるが12畳程度の一つの部屋に4人までシェアし合って生活しないといけないし、隣との壁も薄いため5時ではまだ大勢の隷爵が寝ているため起こさないように静かに洗面場に向かう。部屋の電気をつけると壁一面に取り付けられた鏡に二人分の姿が映し出される。栗毛色のショートカット…が寝ぐせでぼっさぼさになっている私の顔にはひどい隈がついている。


「やつれてるわねアネル」


「まーね…この店当番が終わったらしばらく働かないから」


 アネル。それが私の名前だ。帝都生まれ帝都育ちのシルフ系精人種の隷爵、シルフ系特有の透き通る一対の妖精の羽は昔は綺麗だったが、今ではすっかり先っぽがボロボロに痛んでいるのを服の内側に隠して誤魔化している。父も母も同じく隷爵で学童院にも通わせてくれた。ただ学童院でも特につかわれたいと思うような貴爵の同年代と出会うことなく卒院。やりたいこともないままこうして親元を離れて周りに流されるようにエルフ市で働く道に入っていった。

 そして同室のセレス。小麦肌に長髪の綺麗な銀髪が特徴、同じお店で働く同期で同室の私の親友。私のいた学童院とは別の場所で私と同じように周りに流され一緒になった祖人種の隷爵で、けど私と違っていつかカフェ系の騎士団に買われお洒落な仕事着でウェイトレスをしたいと考えていて、いざとなったら義勇兵爵の試験を受けに行くのも考えているって…。

 そんな事を考えながら歯を磨いていると、後ろから顔が真っ青…いや一応元の肌色すらも結構青めだがそれ以上に青い顔をした女性が鏡越しに私の後ろをフラフラと通り過ぎた。


「ねぇ…ちょっと、吐かないでよ?シルヴィ」


「また男遊びしてたの?昨晩いつ帰ってきたの?」


「…は、はかない…だいじょうぶ…、ヴっっっ」


 シルヴィと呼んだ青い肌をした水人種の隷爵もまた私達と同じ店で働く、一応一つ年上の先輩ではある。仕事ぶりは真面目なんだけど働いた給料の殆どを男遊び…税金などで高額になっている花街のお酒や男娼を買って遊ぶ趣味があり、そういう系の失敗の反省とかは全くしないため同期どころか後輩からもなめられている。でも私は正直羨ましく思っている。セレスみたいなやりたい仕事もなければ、シルヴィのような満足できる趣味もない…。私は何のためにこんな退屈な日々を送っているのか…。


 そんな風に考えながら私達三人は早くに支度を済ませ早朝6時の市電に乗り込む。途中市電の揺れさえもきついとぼやくシルヴィを介抱しながら15分程度でエルフ市に到着した。朝早くだというのに市電の中には私達の他にも何人も早朝から仕事を貰ったであろう他の店の隷爵達が乗っていてそこそこ混んでいた。しかもエルフ市以外で乗ったり下りたりしてエルフ市以外での仕事を持つ人達をぼんやりと眺めていた。市電がエルフ市に到着すると私達も含め乗っていた乗客はほぼ全員が下りて、同じ数だけの乗客が乗り込んできた。

 私達は人の流れに乗ってエルフ市の中に入るとそのまま真っすぐ自分達のお店である「レモンバームとミツバチ」5号店の出店しているブースの中に入る。


「いらっしゃ…、あら、ちゃんと三人遅刻しないで来れたわね」


「ママー、今日もシルヴィが酒臭ーい」


 お店の中、正面のカウンターにはママ、このお店のオーナーであるカミールさんが仕事をしながら店番をしていた。ママというのは誰が言い始めたのか知らないがエルフ市にてそれぞれのお店を管理しているオーナーをママと呼び、オーナーが管理をしている自分のお店に所属する隷爵達の事を子供達呼びしている。私達が産まれる前からずっと続いているエルフ市特有の呼称らしい。


「全く…店当番中は自重するって言ってなかった?」


「だってさー、昨日急にアルくんが出てくれるって言うんだもん。他の女にとられちゃうと思って…」


「はいはい、とにかくアルくんの為に今日も頑張って仕事に励むように。それじゃ三人とも店当番よろしくね。ママは2号店にいるから何かあったらコールしてね」


 そう言うとカミールさんはせっせと仕事をしていた道具を鞄にしまい、私達と入れ違いでお店から出て行ってしまった。店当番は呼んで字の如くではあるが、数人で早朝から出勤しママに代わってお客さんの要望を聞いてお店にいる隷爵とマッチさせる、いわゆるお店の手伝いである。数人である理由はお客の中に即時購入者がいる時に対応できる人材と、あと食事を交代で買ってくるためだ。

 私達はすぐお店の裏に入り荷物を棚に置きながら、既に届いている仕事の一覧表を確認する。


「んと…誰でもいいから明日三人売り子の手伝い。今日は?」


「っげ、まーた私シトレリア家のランドリーかよ…」


「シルヴィまた?もしかして玉の輿とかそういう感じ?」


「ぱーすぱーす、そもそも貴爵の家内とか絶対無理。セレス代わりに行ってよ」


「指定先変更は依頼主にお願いしてね~」


 シルヴィはお得意のお客がいるみたいで今日もお願いされているみたいだ。ちなみに隷爵は隷爵保護法という帝国の法律があり、そういう意味での手を出されたりするという事はないからまぁおそらく大丈夫だ。ちなみに私もセレスも今日の仕事はまだ来ていなかった。いつも通りと言えばいつも通りだ。シルヴィの出発もまだしばらくあるし、私達は交代で店番しながら朝食を取りに行く。じゃんけんをして私は最後に朝ご飯を買いに行くことになった。まだ早朝というのにお客さんの姿が何度も出入りする。それもそのはず今日の仕事をお願いするのにフルタイムで入ってくれる人を確保するため朝一番で人材の取り合いが行われている。何店舗もはしごする貴爵や騎士団の人を相手に要望を紙に書いてもらいそれを預かるという業務を淡々とこなす。

 そうこうしているうちにセレスがトレイに乗せた朝食を持って戻ってきてシルヴィが入れ違いで買いに行き、シルヴィも紙袋に入っているであろう朝ご飯を持ち帰ってきた。


「んじゃ私行ってくるね」


「んー、食ってきてもいいよ~」


「いいって、私もお店で食べるから」


 そう言い残してお店を出てエルフ市の中を小走りで進むと一番最寄りのフードコートエリアに到着する。食事はお洒落で非常に美味しいけど税金がかかっている高い料理から、殆ど税金がかかってなく量が多く高カロリーで大量に作られ味も大味でおしゃれっ気が全くない隷爵向けの料理など様々ある。私は当然というわけでもないが、みんなが買っているからという理由だけでいつもバーガーセットを買っている。バンズにサラダと肉を挟んだだけのお手軽飯。付け合わせはフライドされたポテトにジュースだ。ふと見知らぬお客さんが高い料理に目を輝かせながら買っているのが目に入った。ただの食事にそんなにお金を使って美味しいものを食べたいという感情…、私にはこれっぽっちもわかないが、それがとても羨ましく見えた。

 朝ごはんも買ったことだしお店に戻ろうとしたその時、なにやら周りがざわついているのに気付き、様子を見てみるとそこには黒いローブにフードを被って顔まで隠しているまるで黒ずくめの怪しい数人の人物たちが歩いてきているのが目に入った。エルフ市は一応警備に当たっている国衛騎士団が常駐しているし怪しい人の出入りをチェックしている。この時はおそらくまた変な騎士団が買い物に来たのか、もしくは国衛騎士団の面白部隊が配備されることになったのか…程度にしか考えていなかった。だが突如その怪しい人物たちは白い発煙筒の様なものを取り出し地面に叩きつけると周囲に色の濃い煙が焚き上がり辺りが見えなくなった。


「きゃあああぁぁぁぁっっ!!」「って、テロだ!逃げろっ!!」

「へ、兵爵をよべっ!!」「煙を吸うなっ!!」「非常口に向かえーっ!!」


 周りの悲鳴と混乱、そして濃い煙が立ち込める状況に私はパニックになってしまい身動きが取れなくなってしまった。周りが逃げてるし私も逃げないと…そう思うまで時間がかかっていなかったはずだったが、運が悪かったのか。黒ずくめの人物の一人が私目掛けて真っすぐに襲い掛かってきた。黒く大きな影が勢いよく迫ってくるのが視界に入ると恐怖で声すらも出ずに動けなくなった。


「っあぶないっっ!!」


 動けなくなった私の身体が不意にぐるりと回転する感覚の後、地面に叩きつけられたかと思うと、すぐに誰かに抱き付かれているような感覚がじかに伝わった。


「なにぼーっとしてるん!はよ逃げんと」


 私のすぐ目の前から声が聞こえたかと思うと、抱き付かれた相手の身体は離れ腕を掴まれて立ち上がり一緒に走り出した。目の前を走る人物は先ほど高い料理を買って目を輝かせていた見知らぬ人だった。その手を引く後ろ姿はピンク色のパーカーに茶色いショートヘアの女性と私に少し似ていて、背も少しだけ私より高かった。私は言われるがまま手を引かれるがままについて行く。


「っま、まって…お店に、友達が…」


「どっちっ!?」


「ひ、左っ」


 その人は私の案内に従って一緒に走ってくれた。あの時この人が助けてくれなかったら私がどうなっていたのか分からないが、なんでこの人がここまで私の事を助けてくれたのか分からないまま私達はお店へと戻ってきた。だがお店の中にはセレスとシルヴィ以外にもう一人…黒ずくめの人物も店の中におり、その黒ずくめは二人に詰め寄っており二人が怯えている様子から明らかに危険な状態なのは明白だった。


「セレス!シルヴィ!」


「あかん!近づいたら危ないで!!」


 私が声をあげたから黒ずくめは私達に気付きぎろりと睨みつける。私はその恐ろしい目に怖気づいてしまったが、ピンクのパーカーの女性はお店の中に置いてあった大きめな立て看板を手に取り構えている。黒ずくめもそんな女性の方を危険に思ったか女性の方にナイフを突きつける。お互いにじりじり睨み合って女性の人は勇ましいと思う一方で、後ろから小刻みに肩が震えているのがわかってしまった。


「この…出ていけやっ!!」


 女性が思いっきり立て看板を黒ずくめに叩きつけようとし、黒ずくめがナイフで弾こうとしたところ、立て看板はもろいべニア板とフレームだけで作られた簡易的なものだったため黒ずくめの腕が立て看板を貫いてしまい、たまたま黒ずくめを捉える形に成功したのだ。女性は暴れる黒ずくめを立て看板から手を離さまいと必死に取り押さえようと抵抗した。私はそんな縺れ合う二人から距離を取りながらカウンター…つまり店の入り口から店の奥側へと向かってしまった。


「ふっ、二人とも…無事だった?」


「は、早く外に逃げよっ!」


「駄目だよっ!外だって危ないから…店の奥に、鍵かければ」


 私達三人は店の奥の扉を開き中に隠れようとする。あの人も一緒に隠れてもらおうと振り返ったその時


 お店に二人目の黒ずくめの人物が入り込んできたのが目に入った。


「い…いやああぁぁぁぁぁっっ!!!」


 咄嗟に扉を閉めようとしたところ黒ずくめに扉を掴まれ、乱暴に、力いっぱい開かされ黒ずくめの腕が私の首をきつく締めあげた。そして私の面前に鋭い刃がつきつけられた。


「手を離せ、こいつがどうなってもいいのか」


 そういいながら女性に私の様子を見せつけると、女性は悔しそうに立て看板を手離す。すると黒ずくめが彼女を思いっきり突き飛ばし地面に叩きつけられるすがたが目に写った。女性は痛そうに地面に突っ伏していたがすぐに黒づくめに体を持ちあげさせられ、私共々奥の部屋に投げ捨てるように突き飛ばし黒ずくめ達も一緒に部屋に入り扉を閉めた。


「アネル、大丈夫!?」


「私は平気。…あ、あの…ごめんなさい、…大丈夫ですか?」


 私とセレス、シルヴィとピンクのパーカーの女性の4人は薄暗い部屋の片隅に集まり座り、黒ずくめの二人が扉の前を占拠し完全に監禁されたような状態だ。


「ううん、私の方こそ怖い思いさせちゃって…けがはない?」


 女性はそういうと私と面向かって優しく微笑みかけた。この時私は初めてこの人の顔をまじまじと見た。その顔には先ほど地面に叩きつけられたであろうあざがついているというのに…まるで何事もなかったかのように、私に心配させまいと屈託のない笑顔で私に話しかけてくれた。自分の方が怪我してるのに…私に優しくしてくれた。こんな何のとりえもない私なんかの為に…、私は胸が締め付けられる思いから涙をこぼしそうになるのをグッと堪えた。この人に不安な姿を見せちゃいけない。そう思いながら私は小さくうなずいた。

 途中プルルルルッと内線が響き渡ったが黒ずくめの一人がナイフでコードを切断してしまい部屋の中には静寂が広がった。女性はまた私達を庇うように前に立ち、私達は互いに手を握り合った。


「…客か?」


 1人の黒ずくめが扉の覗き穴を見ながらぼそりと呟くと、もう一人も覗き穴を確認する。


「面倒だ…おい、表にいる男を追い出せ」


「…私が行く」


 黒ずくめの指示に真っ先に女性が返答する。黒ずくめ二人がナイフを持ったまま一人は私達、もう一人は女性に向けながら私達と女性を離し扉の前に連れていく。


「…ついでに店のシャッターも閉めてこい。当然だが、下手なことをすれば…分かってるな」


「…あんたらこそ、勝手な事したら承知せえへんからな」


 黒ずくめが女性から離れると、ふぅ…と呼吸を整え緊張をほぐして、扉を開けようとした…その時、扉が開かれた。


「…っへ?も、桃井さん???」


「あ、へぁ…な、なんだ水無月君か…ど、どうしたん?」


「どうしたって…それこそこっちの台詞だよ。朝ごはん食べるときに急にいなくなって…


 そんなたわいもなさそうな会話をしながら扉が閉まる。黒ずくめは静かに覗き穴で二人の様子をそのお店に来た男性の方に気付かれないようにずっと監視し続けている。

 けどこの黒ずくめ達は知らない。あの女性はここのお店の人じゃないってことが…、さっきの様子だとお知り合いに聞こえてきた。もしかしたらあの人がここのお店の人じゃないことに気付いて、警備の国衛兵爵に伝えてきてくれるかも…




 なんて淡い期待は無残にも砕け散る事態が発生した。扉の前にいた黒づくめはいきなり飛び出したかと思うと、瞬く間におそらく表にいただろう二人を無理やり連れこみ地面と壁の境あたりに叩きつけたのだ。


「きゃああああぁぁぁぁ」


「静かにしろ」


 いきなりの出来事に驚いた私達はつい悲鳴をあげるが、私達のすぐ近くにいた黒ずくめは連れ込まれた二人に対しナイフが見えやすいようにしてさらに私達に近づける。私達は叫ぶことすら許されずに声を抑え殺す。ふと手に水滴が落ちるのを感じて、二人の様子を見ると大粒の涙を溢して泣いていた。それに気がつくといつの間にか自分も涙が溢れ止まらなくなっていたことにも気付いた。


「ごめん水無月君…私のせいでまきこんじゃって…」


「いや…こっちこそ、うまくばれずに出れたと思ったんだけど…」


「…だとしたら30点のおままごとだな。その程度で騙せると思ってるなら随分呑気なものだな」


「ごめん…ごめんなぁ…」


 扉近くの三人の会話が聞こえそちらをみると、私達を助けてくれたあの人も大粒の涙を流していた。私は…私には何もない。何もできない。ちっぽけな存在だ。私の為に身を挺して庇い共に走ってくれて、私の為に恐怖をこらえて立ち向かい、私の為に優しく気丈にふるまってくれたあの人が…。今涙を流してしまっている事に私にはどうすることも出来ない。

 悔しい…、自分の人生が退屈なものだと決めつけて何もしてこなかった私自身。あの人の力になれることが出来たかもしれなかった。悔しい…。こんな惨めでちっぽけな私が…。悔しいっっっ………。


「っっうおおおおお!!!」


 すると突然連れてこられた男の人がいきなり立ち上がると、私達の前に突きつけられていたナイフを持っている黒ずくめの腕にしがみつき、私達から離させるようにして取っ組み合った。


「っや、やあぁ!」


 もう一人の黒ずくめが男の人を引き離そうとした一瞬のすきに視界から外れた女性の人がモップを手に取り後頭部や背中を何度も打ち付けた。お店の中は混乱状態そのものだった。私達三人を取り押さえている人は誰も居なかった。


「っい、今だ逃げろ!!」


 男の人の叫び声にはっとして私はすぐに立ち上がり、二人の手を取って立ち上がらせて走り出した。


「っは、早く!ここから出なきゃっ」


「っで、でもっ…二人が」


「すぐ助けを呼ぶのっ!!」


 今の私に出来る事は、あの二人みたいに黒ずくめを取り押さえる事なんてできない。ならばどうするのか、一秒でも早く外にいるはずの国衛兵爵に伝えて、助けに来てもらわないとっ!何もできない私だけど、あの人を助けるために、私にできる事があるのなら!!

 お店の奥と手前を隔てる扉を開けて、二人と一緒にお店であるブース入口の扉を開いてようやく施設内ではあるものの外に出た。それでも私は急ぐ足を止めなかった。誰でもいいから、中にいる二人を助けてくれる人を探さないと…そう思いながら無我夢中で走っていると人と衝突してしまった。まだお店から数歩程度の位置にいたのは…一部が青い肌、というか鱗のついた人相の悪そうな背の高い大柄な龍人種の男だった。


「おねがいっ、たすけっ…私達を庇って…まだお店に、ふたり…」


 泣きじゃくりながら文章にもなっていない言葉で、自分達が出てきた店を指さしながら必死にその龍人種の大男に懇願する。この人がそもそも国衛兵爵なのか、ただのお客なのか…もしかしたら黒ずくめの仲間なのかとか考える余裕などなかった。周りには私達以外見当たらなかった。今この時を逃したら二人は…

 願いが通じたのか大男は駆け足でお店の中に入ってくれた。その後どうなったのかは分からないが…それでも私はまだ走り続け、近くにいた国衛兵爵の団体を見つけることが出来て、助けを求めた。自分達のお店の位置と状況を話したら団体の1/3程の人数がすぐ走り出して向かってくれた。残った兵爵の人達は私達がお店に戻らないようにと忠告しつつそのまま三人一緒に保護してくれた。




「アネル!セレス!シルヴィ!!」


「「「ママッ!!」」」


 しばらくして状況が落ち着いたのか、兵爵に囲まれて同行してきたカミールさんが保護されている私達の元まで来てくれて、安堵からかまた涙が溢れながら4人で抱き合った。


「よかった…本当に、みんなが無事で…内線が繋がらなくて、ホントに心配したのよ…」


 それから私達は店までの道すがらでここまでの出来事をカミールさんに報告した。店に黒ずくめが入り監禁されていた事、とある女性と連れの男性に助けられたこと…。すると途中で丁度話をしていた、助けてくださった人達が歩いてきた。しかも龍人種の大男さんもお二人の連れだったみたいだ。


「あの、助けてくださって…ありがとうございました!!本当に…本当に助かりました」


「いっ、いえ、こっちこそ…あの時龍之介さんが来てくれなかったら俺達も危なかったですし…。こっちこそ助けを呼んでくださりありがとうございます」


 私達は何度も何度もお礼の言葉を口にした。男の人はひどくボロボロになりながらも自分はたまたま居合わせただけといい、龍人種の大男はぶっきらぼうに生返事を返した。そして一番お世話になった女性の人は…ひどい傷だらけの状態で大男におぶられながら、くか~と眠っていた。一番お礼を伝えたかったけど…


 そんなこんなであの人たちとは別れ、私達は恐る恐る自分達のお店に戻ってきた。あれから兵爵の人達が一通りお店の中をくまなくチェックし黒ずくめやその人物たちに関わるものは一切ないという話を聞いた後だが…それでもいつもいるはずの自分達のお店の中が怖く感じた。

 それでもママたちと一緒に入ったお店の中は荒れた形跡などはあるものの、とりあえず無事自分達の荷物は回収できた。


「今日はみんなお店はお休みにして、かえって休んできてね。お仕事は全部キャンセルにしておくわ」


 それもそのはずでセレスもシルヴィも何度も泣いたりした後だからか酷い顔になっている。気持ちだってさぁ働こうとはならない。そんな様子がはっきり顔に出ている。この様子だと多分私もひどい顔をしている。…だけど、私の中で一つ…晴れた気持ちのものがあった。


「…ママ、あの女の人の、連絡先わかる?」


「ん?まぁ…おそらくわかると思うけど。…お礼?」


「ううん…、お礼って言うか…恩返しって言うか…」


 私はもじもじと言葉を詰まらせる。「やっぱりなんでもない」、いつもの私ならきっとそう言って結局何も変わらない。変わろうとしなかったと思う。そして私は自分の人生が退屈なものだと…誰でもない誰かのせいにして、保身のように引き籠る。だけど、私は握られていた自分の手に残った感触を思い出しながら…あの人みたいに、一歩踏み出そうと


「私、あの人のために頑張りたい。あの人の力になれることがしたい!」


 私の言葉に三人はきょとんとしたが、すぐにママは嬉しそうな顔をして私をそっと抱きしめた。


「…そっか、ようやく、貴方のしたいことが見つかったのね。えぇ勿論いいわよ。…頑張りましょうね」


「…うん。ありがとママ」


 私の中で何かが変わった。それは決してこの世界に大きな影響を与えるわけでも、誰かを救えるわけでもない。だけどこの変化は私にとって最も大きな、人生がひっくり返るほどの大事件といっても過言ではないのだ。

 ママに続いて驚いていた二人もいつの間にかにこやかに笑い、私に駆け寄ってまるで自分の事のように喜んでくれた。自分達の事じゃないのに、何かが変わったわけでもないのに、それに…あんな辛いことがあったってのに。それでも頑張れって励ましてくれた二人に…私はこれまで冷め切っていた胸のうちが熱くなったのを感じた。


「ママ!やっぱり私今日頑張りたい。仕事してっていい?」


「うーん…、…それなら今日一日お店のお掃除をお願いしていい?あんまり無茶はしたら駄目だからね」


「私も手伝うよアネル」「せっかく休めると思ったのに、しょーがないなぁ」


「セレス…シルヴィ…ありがとう!」


 今日で退屈な毎日が終わった。


 これまで自分の為だけに生きてきた人生、これからはあの人の助けになって生きてきたいと感じたあの恐怖の出来事、不安な未来に私は何故か心がときめいている。どんな人なのか、なにをしているのか、これから何をするのか全く分からない。それでもあの時の温もりは、あの時の笑顔は、あの時の優しさはきっと…私が支えになってもいいと、本気で思える。そんな気がするという思いをはせながらこれからを彩りながら生きていくのだ———…

本投稿を読んでいただきありがとうございます。SKMRでサキモリと申します。


今回は思い切ってそもそもスポットから変えてみようと試みてみましたがいかがだったでしょうか?

自分は描いてて楽しかったので今後もこういう感じのも書いて行こうかなって思ってます。でもとりあえず次のExは多分またミナヅキが主体ですね。


また今回も誤字脱字、文章構成などまだまだ課題がありますのでよかったらアドバイスなどしていただければ幸いです。


次回は8/30にEpisode4の前編を投稿しようと考えていますので、もし少しでも面白かった、続きが待ち遠しいと思えたら嬉しいです。次回もよろしくお願いします。

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