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Episode4 義勇兵爵講習合宿、開講——— 中編

 トレイを返し終わり食堂から出ると、廊下側俺達の前から淡い紫の髪で短髪の身なりの整った男と、それを取り囲む3人組…おそらくどこかのグループが食堂に向かって歩いてきている。俺達は邪魔になるかと思いよけようと廊下の脇に身を寄せたが、何故かそのグループは俺達の目の前で足を止めたのだ。


「…話は聞いたぞ。異界人…いや、不法移民め。爵位がないくせに図々しい奴だ」


「っな、なにぃ」


「聞いているぞ、異界人は人の話もろくに聞かず身勝手で、集団としての輪を乱す迷惑な奴だと。あぁそれと、根気もなくたかが100日の集団行動ですら堪えられずにすぐ諦め楽に結果だけを求める無能な人間だとな」


「な、なんだとてめぇ!」


 その男の言葉に俺は怒りのままに跳びかかろうとしたが、その男を取り囲むうちの一人、高身長でガタイがよく、なによりも顔がやたらでかくて濃い顔…それ以外に特徴が見受けられないためおそらく祖人種の男に俺があっさりと突き返された。


「おいお前、勝手に近づくなでゴワス。こちらにおわすお方をどなたと心得るでゴワスか」


 するとそれに続いて今度は朱色の髪色でロングストレートな、立派で真っ赤な翼と鱗を持つ人の顔のタイプの龍人種の女性も前に出る。


「このお方は帝都建国の時から貴爵として貿易商で帝都経済を支え、さらに多くの兵爵を輩出したサー・ニコラメス家の末息、ライオネット・サー・ニコラメス様にあられる!」


 そしてやっぱりと言うか、残った最後の一人…金髪ショートボブのような髪型に可愛らしい美少女のような顔立ちをした…、…祖人種の女の子?もさらに前に出る。


「分かったらこーべを垂れるっピー!」


「っふ、やれやれ…君達。気持ちは嬉しいがそんなことを彼に言ったところで理解が出来なくて可哀そうだろう。まぁ、君程度でも分かるように言えばここは君のような薄汚い異界人がいるべき場所ではなく、僕のような帝都の未来が明るくなる使命をもつ者が集まるべき場所だと言っているのだ。分かったら中途半端に居残るよりもさっさとここから去ることだな」


 そう一方的に言い残して上機嫌に4人で食堂に入っていった。俺達はただただ茫然と見送ることしか出来なかった…




「あーっ!思い出しただけで腹が立ってきたぜ。なんなんだよアイツらぁ!!」


「おいジョッキ割るなよ。てかなんでお前が怒ってんだよ」


 そう言いながらジョッキの飲み物を一気に飲み干し乱暴に机の上に置くウルヴァ。俺達はあの一件の後、午後にある最初の講習をもやっとした気持ちのままダラダラ聞き流し、こんな俺達とは対照的でうっきうきなコノハに紹介されたお店に集まり早速乾杯と自己紹介を経て食事を楽しんでいる。

 お店は義勇兵爵騎士団が経営をしている老舗の居酒屋と言ったどことなく古めかしい雰囲気で味のあるお店で、合宿場から近くお値段もお手頃らしく、まさに義勇兵爵合宿中の人向けのお店という感じだ。そんなお店の奥のテーブル席を貸し切り約一名を除く1組A・B・C・Dグループの男9名女5名で食事会が始まった。ちなみにマアダさんイヴさんの二人はデートのために不参加するとの事だった。


「あいつら…ミナヅキのことなんも知らねーくせによぉ…好き勝手言いやがって…。ミナヅキはなぁ、俺なんかよりもすっげー苦労してさぁ…」


「流石に俺なんかよりもお前の方が苦労してるって…てかお前酒飲んでねーよな、なんでめんどくさくなってんだよ」


「それにしてもミナヅキ、お前にしては随分感情的に怒ってたじゃねーか」


「まぁ…ちょっと、自分の事だけだったならいいんだけど。つい施設で出会えた他の異界人の知り合い…いや友達のことも一緒にさせられたと思うとかっとなって」


「…なるほどな」


「しっかし、そっちもそっちで面倒な人に目をつけられちゃいましたね。ニコラメス商会と言えば帝都と他都市とを繋ぐ巨大な貿易パイプの一つ、帝都経済の根幹にも関わってる一族ですからね。」


「ライオネットさんの事なら私の方が詳しいかもね」


 そう言ってきたのはコノハの隣に座っていたコノハとは対極のような白翼の生えた天使系翼人種の女性…女性のみで構成されたCグループのラフィラ・ベヴル。確か家が配送系をしている貴爵で、叙爵後は既に白翼の翼人種だけで構成された白翼騎士団に入団を決めているとの事だった。

 見た目も凄いお淑やかな感じで見た目も銀髪のショート、青いドレスのような格好に身を包んで色々コノハと対照的で唯一共通してそうなとこをあげるなら…二人ともがっつりとした肉を好んで食べてることくらいかな。見た目に反しすぎだろ…


「私もライオネットさんも同じ帝都の学童院で同じ学級だったの。勉強もスポーツも成績良くてみんなからも人気があったよ。誰とでも分け隔てなく接してたし…確か将来は義勇兵爵を叙爵したら騎士団を結成して大活躍する~みたいなこと言ってたっけな」


「ちなみに自分も情報仕入れてきまして、どうやらライオネットさんを中心に2組+αはちょっと格式高いレストランを貸し切って交流会をしているみたいですね。スポーツ希望グループも劇団希望グループもそっちに参加してるみたいです」


「んで俺様はそんな格式高いのは肩身狭いからこっち来たってわけ」


 会話に割り込んできたのは緑色の鱗の目立つ翼のない龍人種…1組以外からの唯一参加である2組Bグループのドレイクさんだ。ドレイクさんはドロフィーと同じビストリタルノフスティア・グルィツァからの参加で元鉱業従業員の隷爵。こう思っては失礼かもだが、確かにそんな人が貴爵と一緒にパーティーを楽しむのは…難しい気も分かる気がする。現に今ビールのようなアルコール飲料をぐびぐびと飲んではおかわりしている…あ、この人に限らず今回の合宿参加者の中にも何人かは成人済みなのでその人のお酒はオッケーだ。


「こういっちゃあ、あのあんちゃんに悪いが…ちょっとキラキラしすぎなんだよなぁ、しかもグループメンバーのガイマンも、あとベネトリーニから来たって言う二人も貴爵でよぉ…ちょっと俺様だけ居づらいんだよなぁ」


「んぐっ、ギャノンとポールワンさん?かな」


 口いっぱいにもごもごさせながら喋る翡翠のような綺麗な髪やヒレのある水人種の女性…ラフィラさんと同じCグループのトリーダさんが同じくベネトリーニから来たファイグルさんとカロアさんと見合い相槌をうつ


「まぁともかくだミナヅキ、あいつがいいとこのボンボンだろーがよぉ、何言われようが気にすんな。お前には俺達がついてるからな」


「…ウルヴァ、せめてミナヅキよりも気にしてない態度示してからにしろよ」


 ハハハ…と笑いながらも、付き合いの長いウルヴァの言葉に俺は気持ちがとても軽くなった。不法移民…それは俺がクザスの村に着いた初日の日にヴィレインさんから聞かされたはずの言葉だ。帰る国も、身を守ってくれる法律もないままこの国に受け入れてもらうために頑張ってきたつもりだったが、たとえきっと俺が授爵できたとしてもこの帝都の全てが受け入れてくれるとは限らない。それこそ奴隷解放事件から今に至るまで、ラプスラスト…いや、確か…スエドムサ・フォーリアンと名乗っていた一族による長きにわたる呪縛そのものが帝都と異界人を分かつ理由そのものなのかもしれない…でも、今なら、今の俺ならはっきりとあんなやつの言う事でくじけたりなんかしないと実感している。


「ところでコノハ、さっきそっちもそっちで大変って言ってたよな…そっちもなんかあったのか?」


 そういった途端、コノハの隣に座っていたドロフィーが、カランッと手に持っていたフォークを机の上に落とした。動揺と言う感じなのか落としたフォークを拾うことなく手を机の下に引っ込めた。その様子にコノハは額に手を当て考え込むようにする。


「あー…、っとですね。実は…少々面倒な人に彼女が目をつけられたらしくて…、ホントは彼女この食事会に不参加のつもりだったのですが、3組Dグループのカトレナという方にひどく責め立てられたせいで部屋に居たくないからついてきたのですよ。まぁ勿論私も旦那方も歓迎なのでいいのですが」


「カトレナさん…ですか、やっぱり」


「…やっぱり?どういうことですかラフィラさん」


「実はカトレナさんも一応同じ帝都の学童院で同じ学級だったのだけど…領爵主の娘で9歳くらいのタイミングで編入してきたの。私はあまり関わらなかったけど色々とよくない噂の絶えない人で、周りから凄い浮いてた人だったの」


「まさか中退?」


「ううん、私達と同じように卒院待ちなんだろうけど…」


「あと、自分からも一つ…そのカトレナと一緒のDグループにいるリューゼルトという貴爵の男なのですが…義勇兵爵試験に二度の不合格をしているとのことです」


「「「二度!?」」」


「はいっ、落ちた理由は分かりませんが…義勇兵爵の試験合宿は落ちるとしたら相当な理由がないと落ちませんからね。3組Dグループには気を付けた方がいいと思いますね」


「なるほどなぁ…」


 なんていう愚痴や情報共有をしつつも俺達は楽しく会話して1組としての交流を深めていった。




 次の日から俺達の合宿生活が本格的に始まった。基本的に厳しいスケジュールと言うわけではない、朝は8時に点呼がありそれぞれのグループが全員の集合、もしくは行動を把握した状態で教官に提出…その後は自分達で決めたカリキュラムへの参加、とは言ってもまだ始まったばかりでどのグループも似たようなカリキュラムでだいたい半数以上のグループが一緒だったりする。そして昼1時にも点呼、夜8時にも点呼で点呼さえ毎日ちゃんと行えばだいたい自由と言った感じだ。

 座学のカリキュラムの内容もちゃんと勉強していない人向けの読み書きや簡単な計算、帝都で生活する上での一般常識的な法律など本当に基礎から勉強させられるが、流石にその程度なら勉強済みなのでカリキュラム前に小テストで合格し単位取得したとして、この空いた時間で各自自由に勉強や運動に取り組んだ。まぁそれも最初のうちの簡単な時だけだが

 そして肝心なのが、実技のカリキュラムだ。今日はここに来て三日目、実技カリキュラムは一回目だ。俺達は合宿場が準備してくれた運動着に着替えグラウンドに集まる。外は快晴ではあるものの風が吹くと手や顔が冷たく感じる。参加グループは6~8つ、同じ時間でも男女は分かれて行われるみたいだ。俺達1組Dグループの他に2組のグループと合同になってるみたいだ。


「ヘェーイ、みなすわぁん。時間となりましたノーで今から実技を始めたいと思いムゥア~っス」


 癖の強い男の声が響き渡ると、顔が濃ゆいのに金髪耳の長いエルフ系のおっさんというまた色々と癖がある教官が気持ち悪い…独特な動きをしながら実技カリキュラム開始を告げた。


「おっととととォ~、自己紹介が遅れちゃったデスケェード、ミーはリディ実技担当教官よ。ん~っよろしくぅ。それじゃあ早速だ・け・ど…そもそも兵爵において実戦において、いっちぶわぁん大事なコトッテェ~。なにかすら?」


 …、教官と俺達叙爵生徒との間に沈黙が訪れる。話の内容が難しいとかじゃなくこの教官の話し方のせいで全く頭に入ってこなかったのだ。すると沈黙したことにこの教官は不機嫌そうな顔をしてほら、ほらっと俺達にハンドサインを送る。ウルヴァも肘で俺の背中をつついてくる。


「え、えっと…た、戦うこと…」


「ノンノンノン、確か―に君達が兵士になるって言うんだったったらったった~、正解デスけーど、君達がなりたいのは。兵爵!そして兵爵にとって最も大事なことそれ~はぁ~。戦わないことデぇ~ス」


「え…兵爵、なのに?」


「オフコーっっスっ。この義勇兵爵の試験を受けに来た子たちの中には、戦いたくない子たちもいっるるるるぅのデェース。そんな時戦場で大事なことは一体な、に、か…そう、逃げて生き延びることなのよーん。さらに言えば、隣に居る大事な人が倒れたときに助けること、だから義勇兵爵の必修実技は実戦はちょびっとに、体力作りと、重たいものを運べるだけの力を重点的にユー達に叩き込むんだヨー!…まぁ実戦訓練なんかよりもよっぽど仕事で役に立つから損はしないしぃぃっっね」


 要するに基礎的な身体作りがメインって事か。それなら全然難しくはないだろうな。なんて考えそんなこんなでカリキュラムが始まった。内容は体力測定そのもので基本的な筋トレ測定や持久走等々、それらが期間内に基準点以上なら合格ってわけだ。早速いくつかのグループの男だけで合計10名が一緒になり2000m走が始まった。


「なぁ、ちょっと遅くねーか?」


「やめとけって、最初からとばす必要なんか無いさ。しばらくダンゴだし今のままのペースでいいさ」


 実際最初のうちはみんな同じ集まりで走っていたが、500mを超えたあたりから少しずつ離されたり先を走ったりして集団が崩れ、1000mの辺りからトレイスが遅れ始め俺とウルヴァは比較的早い組で走っていた。まぁ高校で三年部活やってきたし、なによりこっちの世界でクザスの村で畑仕事手伝ったから体力には自信があった。だがそんな時俺の後ろから一人の男が抜き去っていった。


「っは、っず、ずいっ、ぶん、ゆっくり走ってるじゃないか…まぁ、そのっ、ていどがっ、おにあいだろうねっ」


 ライオネットだ。あのヤローが息も絶え絶えに無茶なダッシュで俺を抜き前を走りだした。どうせあんな走りでは後が続かないだろうが、…正直仕返しのチャンスな気もするし、なによりあのヤローに負けるのは癪だ。俺は息を殺し歯を食いしばって走るペースを速めた。


「あっ、おいっ」


 ウルヴァの声を置き去りにさらに駆け出すとすぐ前のライオネットの横に付く。


「おいっ、そんなっ、ペースじゃ、もたねーから、俺の後ろで、ゆっくり、走ってなっ」


 俺はいうだけ言ってライオネットの前に出る。だがすぐにさらにペースを速めたライオネットが俺の横に並び立ちやがった!


「お前っ、こそっ、ろくにっ、しゃべれないっ、くらいっ、つらそーじゃねーかっ」


 あのヤローが俺の前に出ようとしたから俺もすかさずペースアップだ!


「ってめっ、っこそっ、かおまっかっ、なくせにっ」


 そしたらもはや長距離走のダッシュとは思えない全力ダッシュし始めてきやがった。俺も負けるわけにはいけねぇ!とにかくアイツより前に出ようと全力ダッシュした


「きさっ、ぼくにっ、むかっっ、てめぇだとっ!!」


「てめっ、なんかっ、てめぇで、じゅうぶんだ!!」


「はぁっげほっ、きさまっ!!」


「ぜっっはっっ、てっめぇ!!」


 もはや闇雲だった。全身は既に痛みで悲鳴を上げている。視界すらぼやけろくにあのヤローの声が聞こえない、だがこんな奴に負けるわけにはいかなかった。全身の熱や痒みすら歯を食いしばり堪え、足を前に出す。あいつの一歩よりも遠くに、あいつの一歩より早く次の一歩を、残り200m!


「っっっ!?」


 途端に体が鉛のように重く感じた。足がもつれたみたいだ。だが偶然にもあのヤローも足がもつれたかのように一気にスピードを落とした。あいつだってもう限界なのは分かった。ならなおさらここでくじけるわけにはいかない!あいつは今走れてない、なら今俺が走れば前に出れる!!残り100m!!

 あいつは今俺の後ろか?分からない、でも走れ、走れ!はしれはしれ

はしれはしれはしれはしれはしれはしれはしれはしれはしれはしれはしれはしれはしれぇぇぇええええ!!!




「……、…ぃ…、おぃ!ミナヅキ!!」


 トレイスの声に意識が戻る。視界には太陽の逆光で二人の影しか見えない。次に感じたのは全身に走る疲労感と痛み、そして背中全身にある地面の感覚だ。どうやら俺は走っている途中でぶっ倒れたみたいだ…多分完走はしは、筈。多分!


「お前、大丈夫か?」


「あ…あぁ、俺どのくらい倒れてた?」


「さぁ…つっても三分くらいじゃね?俺が走り終わって呼びに来たらすぐ起きたし」


 三分…もっと気を失ったような気もするし、確かにさっきまで走っていた記憶があるようにも感じた。俺は重たい身体をゆっくりと持ち上げる。呼吸は既に安定している。脈もだ。横になってたから重たく感じた体は程よく休めたからなのか思いのほか痛みなどはなかった。ちょっと疲れたという感じだろう。俺は辺りを見渡すとグラウンド端に寝かされていたみたいだ。ぶっ倒れた後走ってない人で運んだのか…それは分からないがとりあえず後続に踏まれる事態にはならなかったみたいだ。だがそんな事よりも気になることが…


「…あいつ、どこいった?」


 きょろきょろと見渡そうとすると不意に目の前に木刀のようなものが飛んできた。飛んできた視線の先には…あいつが、ライオネットがいた。あいつの周りには初日に会った取り巻きの二人がおり、まるで止めさせようと説得しているようだが、あいつの目はまっすぐ俺を睨みつけていた。


「ふん、ようやく起きたか…さぁそれを拾え!僕と決闘しろ!!」


「ら、ライオネット様!無茶して走った後でゴワスよ!!」


「体壊れちゃうっピー!!」


「えぇいうるさいお前達!あいつをぎゃふんと言わせて立場ってのを判らせてやる!!」


 あいつの目は本気だった、まっすぐ俺を睨んだまま、手にはもう一本の木刀を持っていた。俺もあいつの目から目を離せなかった。だがそんな時トレイスが俺の前に割って入る。


「あんな挑発に乗るなミナヅキ、てかお前さっきまでぶっ倒れていたんだぞ」


「決闘なんてやめなすわぁ~いエリーットボーイ。今は戦いのカリキュラムではないでスーッノ。そもそもあなたたーちは今回の2000m同率一位、ひっきわーけ。同格だったのだーよ」


 流石に騒ぎに気付かないわけないのかリディ教官が今走ってるメンバーを後に俺達の方に歩み寄ってきた。というか俺とアイツが同着だったのかよ。


「別に取りたくないならとらなくてもいいさ、そうやって周りに守られてばっかりで臆病な異界人にはお似合いだしな」


「な、なにおぅ!もう我慢の限界だ!!」


「お、おいミナヅキ…」


「そーだミナヅキ!やっちまえ!!」


「ウルヴァ、お前もたきつけるなよ…ったく」


 俺はトレイスを退かして木刀を拾い上げる。重くも軽くもない丁度いい重量…学校の体育の授業で竹刀は握ったことがあるが、それよりかは重いって感じだろう…。俺は木刀を両手で構える。ライオネットは持っていた木刀をまるで貴族がやるみたいに片腕で持ったまま自分の目の前でまっすぐに立てる。流石に教官も呆れたように俺達二人の間に入り取り仕切る。ウルヴァはトレイス、向こうのお付き二人も俺達から離れる。

 静かな時間が流れ、あいつの足が一歩近づく…俺も一歩足を前に出す。リディ教官が開いた手を俺達の間に下ろす。あいつの視線はずっと俺を睨んだままだ。勿論俺もあいつから目を離す気はなかった。だが同時に俺達の視線は目を逸らす。教官の腕がすっと動いた、そして…一気に腕が振り上げられた!

 次の瞬間、ブオンッと俺の目の前に風が吹いた。その瞬間俺の目の前にはあいつの木刀の先端が俺の面前で止まっていたのだ。俺は驚き声にならない声をあげながら二歩フラフラと下がる。


「ふんっ、所詮この程度か…模擬刀を取ったその威勢、いや勢いだけは褒めてやる」


「っな、っそ、そんな見せかけのカッコつけ程度!!」


「なら、痛い目にあってもらうぞ!!」


 ライオネットはすかさず再度木刀を片手に半身になり、まるでフェンシングかのように2度3度俺目掛け素早く突きを繰り出す。両手で持てば軽く感じる木刀を片手で軽々と、しかも俺が動くよりも手早く、さらにさっきの目の前で止めていたのとは異なり今度は確実に俺の身体に当てに来た。俺は咄嗟にバックしながら剣を躱す。


「っち、ウロチョロと…薄汚い貴様にはお似合いだろうけどな」


 ライオネットは剣で牽制したり、フェイントを絡めたりし始めた。一方的にペースを握られろくに考える暇すらない俺でも、ただ一つ分かることがある。こいつ、ちゃんと強い!どうやっても勝てる気がしない。そもそも俺は剣の扱いすらまともにやってきている筈がない。俺がずっと取り組んできたことと言えばバスケだけだ。それに対してこいつは的確に木刀で俺を突き刺そうとして、無駄な行動が一切ない!こういうのは同レベルってオチが相場だろ!!


「どうしたどうした、貴様も模擬刀を振ってもいいんだぜ?それともビビッて声すら出ないのか?可哀そうだねぇ」


「う、うるせぇ!今、お前に吠え面かかせる、方法を思いついたんだよ!!」


「ほう…だったら見せてみろよ。ほらどうした?それとも僕の聞き間違いか?僕じゃなくて自分の話だったか?」


 明らかに調子に乗ってる様子で、あいつが踏み込んだ一撃は俺の肩に直撃した。一瞬激痛の様なものが走った気がしたが、大した事はない。と思い込むことにした。だがこんなペースでは勝ち目なんかない…

 だったらどうするか、そんなの決まっている。俺は、俺のやってきた「武器」で勝負するだけだ。俺は木刀を右手に、そして全身をゆっくりと上下に動かす。足も地面を擦るようなステップで左右に…俺の右手には、あるはずのない、ボールのイメージを持ってドリブルを始める…そう、バスケそのものだ。あいつの動きや、攻撃の届く範囲はなんとなくわかった。そしてあいつは半身で構えている。わざわざ背中が近い。一瞬のスキを狙って背中から一発叩き込む。これに賭けるしかなかった。

 ライオネットも俺の動きが変わったことに呆然としている。あいつのフェイントの動きに俺は身体を大きく動かして躱す。的を絞らせないポジショニングであいつを惑わす。存在しないボールを両手でドリブルするその動きすらあいつにとってはやりにくい筈だ…現にライオネットの動きは苛立ちを露わに単調な攻撃ばかりになった。冷静さを欠いてる相手選手の動き程読み易いものはない。


「お、おい…」「まるで球技みたいな動きじゃねーか」「真面目に戦えよ」


「へへっ、いーぞミナヅキ!面白くなってきたぞー」


「おい早くそいつに一発ぶち込んでやれー」


「ら、ライオネット様…」


 明らかにギャラリーがざわつき始めた。それも当然だろうそもそも最初の一手で力量差は歴然だったのに、俺が変な動きをし始めてから中々お互い決め手がない感じになってきたのだから。ただ俺も先ほどだいぶ体力を消耗した後、だけどそれは向こうも同じ、なら…


「いいかげんに…しやがれっ!!」


 あいつがついに思い切って一気に踏み込んで渾身の一撃を打ち込んできた。だが怒りのままに大雑把になったモーションはいくら早かろうが俺でも十分回避できる。とは言っても俺の服を擦るように木刀がすれすれを突き抜ける。ほんの少し遅れれば致命打になってただろう。だが今となっては最大のチャンス、回避したそのままのステップで…そう元の世界でさんざんやってきた、相手の後ろに大きく回り込むステップを、あいつが突きをするために伸び切った半身の身体の背中側に大きく回り込んだ。あ、けどバスケじゃねぇや!!!


「うをぁああああっつぇぇぇい!?」


 俺は変な声と共に右手に持っていた木刀を思いっきり振る…が、ライオネットの背中に当たったと思うが全く力の入らないまま、ついバスケの癖でジャンプのため踏み込もうとした足を止めようとして、さらにステップの勢いもついたままだったため…めちゃくちゃな足取りのままあいつの背中を通り過ぎただけだった。


「…だっさ」


 ウルヴァの一言で俺が跳び込んだ時に静まり返っていた周りの連中がげらげらと笑いだしたのが聞こえた。俺は恥ずかしさから振り向き直し今度は木刀をしっかり構えるとリディ教官が遮るように俺の前に腕を伸ばした。


「も~う充分でっしょ~ぅ。お互いに実力もごか~くのひっきうゎ~け…これ以上は講習の妨害としーて…お仕置き部屋にしょっぴいてやんのデース」


 リディ教官の言葉に呆気してると俺の後ろから野次をしていた男連中が一斉に俺を取り囲んだ。


「やったなぁミナヅキ!めっちゃダサかったぜ!」


「う、うるせーよ…だせぇのは忘れろって」


「しっかしまぁ…ハチャメチャなことするんだなお前」


「すげぇなミナヅキ!お前ってもしかして強いのか?」


「異界人ってみんなこんな動きするのか?」


「さっきのやつ俺にも教えてくれよ」


「お前さては何かスポーツをしていたな」


「ナイスフィジカルだ異界人、お前も俺と一緒にバルクアップしていかないか」


 いつの間にか2組のやつらにも囲まれていると突然木刀の落ちる音が響き渡る。みんなが静まり返るとそこには木刀を地面に落としたままのライオネットがまだ俺を睨んだままだった、ライオネットの周りにいる取り巻きらしき二人はあいつの後ろで心配そうにしていた。


「僕は認めねーぞこんな決着!あんなふざけた戦い方も…僕は貴様になんか負けちゃいないし、…貴様も、異界人も認めたりなんかするもんか!!」


 静寂。怒りのままに俺に捲し立てるライオネットの言葉に周りは何も言わずに俺からすっと離れていく。するとあいつは急にふいっと振り返り


「…すみませんリディ教官、体調が優れないので講習早退します。お時間を取らせてしまって申し訳ありません。後日再講習をお願いします…。お前たちは俺に構わず講習を続けててくれ」


「っま、待ってくださいでゴワスライオネット様~」


「ピー!」

本投稿を読んでいただきありがとうございます。SKMRでサキモリと申します。


最近また忙しくそろそろ次の投稿が怪しくなってきた今日この頃…、もう少し休む時間を切り詰めて書き進めたいと思っていますが、設定の方も書かなくちゃいけないという状況…うーん。

自分が初心者なのは分かっていますが、もっともっと多くの人に読んでもらう方法も何かないかと模索もしていますが…どうしたものかなと。上級者にどうすればいいかなどの意見を聞いてみたいものだけど…分からない事ばかりで、なにかいいアドバイスがあれば教えてほしい限りですね。


また今回も誤字脱字、文章構成などまだまだ課題がありますのでよかったらアドバイスなどしていただければ幸いです。


次回は8/16にEpisode4の後編を投稿しようと考えていますので、もし少しでも面白かった、続きが待ち遠しいと思えたら嬉しいです。次回もよろしくお願いします。

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