Episode3 帝都と異界人と出会いと別れと——— 後編
なんてしょうもない事を考えながら俺達も離れ過ぎない程度に行列に並ぶ。メニューは非常に豊富で俺の元の世界で言うハンバーガーやピザ、ターキー、サンドイッチに揚げ物や麺類や丼物など様々な種類がトレイ販売や食べ歩きしやすい容器入りで売られていた。俺はサラダにターキーを注文し、他のみんなも買えたみたいなので空いていたテーブル席に揃って座った…筈だが、何人か居なくなっていた。
「あれ…、えっと、依田君と、龍之介さんと…あと桃井さんかな?いなくなったのは」
「そう…みたいですね」
「あはは、龍ちゃんは多分お酒探しに行ったのかな。龍ちゃんも免許は取ったけど、車が軍用車だから運転はモリシマさんしか出来ないんだよね」
「ははは…レンタカーにすればよかったな」
「んじゃぁ後は桃井さんかな。依田君は多分自分の買いたいもののために食べるものは少しでも安い値段のものを選んでるんじゃないかな…?」
「相変わらずですわね。咲良さんは施設でもおっちょこちょい…じゃなくて、少々落ち着きのない性格なので、…多分迷子かなと」
それはちょっと困ったと言わんばかりに全員で軽く見渡すが、見える範囲には桃井さんの姿はなかった。するとカノンさんははぁっと溜息をつくと鞄から一枚の術式が書かれた紙を取り出すと、ぱたぱたと折りたたみ…見事な一枚の折り鶴を作ってみせた。
「…カノンちゃん、なにしてるの?」
「目的の人のとこまで飛んで、それから帰ってくるだけの魔法が組み込まれた折り紙よ。といっても玩具目的で販売されてるくらいで効果範囲は広くはないわ」
折り鶴を手の上に乗せるとぱたぱたと羽ばたき始め、ふうっ…吐息を吹きかけると折り鶴は建物の屋根にぶつからない程度に飛び上がった。
「近くで迷子になってる程度ならそのうち見つかって連れてきてくれるわ。まぁ近くにいればだけどね」
「それじゃあせっかくなので冷めちゃう前に食事をすませちゃいましょうか」
賛成と言わんばかりに皆がおのおの食べ始めた。そうこうしていると依田君も無事到着して食事を始めた。後で聞いた話だがどうやら俺達が買ったものは税金が含まれているちょっとだけ贅沢な食事らしく、依田君が買ったのは税金が殆どかかっていない隷爵達のための超格安料理だったとの事だ。しかも量だけなら俺達のよりも圧倒的に依田君ののほうが多かったし、働く隷爵達のためって感じの料理なのだとか
「ところでカノンさんはどうしてここに来たのですか?」
「あら、来てしまっては迷惑だったかしら?なんて冗談はよくて…社会勉強の一環かしら。ニューゲームシンドロームなんて診断されたけど、私…というかこの身体はフィズィ―ネ家の跡を継ぐ身、お父様とお母様にご迷惑をかけてしまった分これからは心配をかけるわけにはいかないので、家業を守り継ぐためにもこうして隷爵を雇うための知識を仕入れるために同行したのです」
「…す、すっごい真面目だ…」
「そ、れ、と!この子の御守りも兼ねてですよ」
なんていうとカノンさんは心愛ちゃんの頭をぽふぽふと撫で叩く。机から身体の半分しか出ていない状態でとにかくスパゲッティみたいなのを頬張っていた心愛ちゃんは口いっぱいに詰め込んだまま恥ずかしそうに俯いた。
「ココアちゃんは一応施設出所後は隷爵になるつもりだから、こうしてこれから働く場所の下見に来てるってわけだけど…こういう性格だからだいぶ心配なの…あと、あーゆー悪い大人に利用されないように見張らないといけないの。そもそもなんであっちの二人がついてきたのか、怪しいのですけど」
今度はそのままじとーっとした視線を巧さんに送る。巧さんはへらへらと笑いながら手を振る。
「やだなあ~。僕達もココアちゃんやみんなの御守りのつもりだよ。お兄さん達こう見えてここには何度も来たことあるし」
「え?ならなんで猶更こんな早朝に…?」
「う~ん…ひ・み・つって事でもいいかな?ねーモリシマちゃん♪」
「この人達の目的はバー経営をしている貴爵や義勇兵騎士団とのマッチング目的です。一応今でこそ軍の管轄している歓楽街でのお手伝いをしていますが、本格的な雇い雇われって話になれば本人達同士で話をした方がいいですからね」
「軍の管轄している歓楽街…?どうして軍が?」
「帝都の政治は殆どが軍と綿密な関係を持ってるの。軍事国家と言っても変わりないわ。んで税金の殆どが軍事費用に使われているわ。勿論義勇兵爵への還元も含まれてて、義勇兵爵が国内で市民に対する還元活動をすれば結果的に国内も活発にはなるの。そして軍が最も収入源として力を入れているのが歓楽街で、大人だけの最大級の娯楽施設なのだけど、当然税率もめちゃくちゃ高いって話よ」
「なーるほど…そんな場所があったらすぐに借金になっちゃいそうだけど」
「あら、借金ですら軍の狙いですよ。なにせ帝都には最も安全で簡単な国からの貸付制度がありますの。返せなかった場合には…国衛兵爵に入団し国衛兵爵として活動すれば返済以上の稼ぎをさせてもらえるのですから」
「……つまりは軍のマッチポンプってわけだ」
「うーん、出来れば自分のいないところでその話はしてほしかったですね」
なんて場の悪そうな顔をしているモリシマさんを尻目に食事をだいたい済ませようとしていると、フードコートエリア内の対角区域側がなにやら騒がしい様子だった。その様子を頻りに確認するかのように首を伸ばすように見つめる巧さん。…もしかして騒ぎを起こしているのは龍之介さんとでも思っているのだろうか?
「そういう水無月さんこそどうしてここに?この前義勇兵爵の試験合宿に参加するって言ってましたよね?」
「あ、あぁ…俺は施設に来る前にお世話になった村のホームステイさせてもらった方から、帝都でお世話になった人宛ての手紙を預かってて…」
「その人がここにいるってわけですか、そう言う事でしたか」
「…まさか水無月君、年の近い女の子と同じ屋根の下で生活したでやんすか!?許さないでやんすよ!!」
「いやまぁ確かに女の子はいたけど、まだ5歳の子だったから…」
「うわ…」「…ないわー」「おいらもそれはひくでやんす」
「えぇ、なんで…これ俺が悪いの?」
そうこう会話していると徐に巧さんが立ち上がり騒ぎの方をじっくりと眺める。その様子に俺達も気になっていると…突然耳を劈く程の悲鳴が建物内に響き渡った。それと同時に多くの人達が慌て戸惑うかのように人の波となって走り出したのだ。流石の俺達もこの状況にはゆっくり座っているわけにもいかずにすぐに立ち上がる。
「みんな、自分は事態収拾に行くからバラバラにならないで集まって避難してね」
「でもモリシマさん!まだ二人がっっあぶないっ!!」
俺は咄嗟に近くにいたカノンさんの腕を引っ張ると、カノンさんがいた目の前の机の上に黒いローブを身に纏い顔までしっかりと隠した人物が机の上に飛び乗ってきたのだ、するとすかさずモリシマさんが跳びかかり腕と首裏を掴みかかるとそのまま黒ずくめの人物を机に突っ伏らせて拘束した。ちなみに心愛ちゃんは巧さんが庇っていてくれていた。
「二人は自分が探してきますから、早く!」
「はいはーい、それじゃみんなで迷子にならないように手を繋いで避難しよっか~」
「あ、あの…依田さんは…」
「依田君なら真っ先に逃げて行ったの見てる。放っといて大丈夫だ」
「呆れた…」
俺達四人はモリシマさんにこの場を任せ、ある程度身を寄せ合ったまま人の流れに従っておそらく出口があるだろう方向へと足を進めた。だけど…俺は…
「…巧さん、二人の事お願いしてもいいですか?俺…やっぱり桃井さんの事探してきます!さっきの折り鶴で桃井さんがあの場所に行ってたら桃井さんが危ないいですから!」
「な、何言ってますの!?勝手な行動は」
「そっか、二人の事はお兄さんに任せて。気を付けてね~」
「っな、貴方」
「ありがとうございます…すみませんがお願いしますね」
俺は巧さんにお礼を言うとカノンさんが強く掴んでいた腕を離させて、そのまま今度は人の流れに逆らってフードコートエリアに掻い潜り進みだした。
「あーゆー子は大人じゃ止めれないもんだよ。それにきっと大丈夫だよ」
フードコートエリアに戻ってくると、驚くことに既に事態の鎮静化に向かっていた。数名の黒ずくめの男達が何人かの人達…おそらく警備員というか、兵爵の人達によって拘束されており、逃げ遅れた人は兵爵の人達によって保護されていた。兵爵の中には様々な恰好をした人がいて、女子学生服に風紀と書かれた腕章をつけた人もいれば、スーパーヒーローのような奇抜な恰好をした人が嫌でも目に入ってきた…。だがそんな中に龍之介さんと桃井さんの姿は無く、代わりに依田君がいた、しかもかなり不機嫌そうな顔で…。声をかけようかと思ったが、多分彼がここにいた理由の一番があのスーパーヒーローのような恰好をした兵爵の人を見て、なんとなく察したので見なかったことにする。俺の背中から依田君の呼びかける声が聞こえるが、聞こえなかったことにする…
どうやらフードコートエリア内におそらく二人がいないみたいなので俺は来た道と反対側にフードコートエリアから離れるように二人を探しに向かった。建物内の隷爵の売り場ともいえるお店は次々と防犯用のシャッターを閉めていたり、シャッターを半開きにしたまま戻ってきていないであろう隷爵の子を探すように店先で呼ぶ声で溢れている。またほかにも通路内を巡回する兵爵達もおり俺は何度も兵爵に呼び止められながらも二人を探した。
そんな時に俺はなんとなしにとあるシャッターが半開きになっている店の前で足を止めた。その店の前で足を止めたのはたまたまだったのだが、その店の前に落ちていた切られたような跡の紙切れが目についた。俺はそれが一瞬で何かを察して手に取った。折り鶴だ。
「…まさか」
俺はシャッターをくぐり店の扉を開ける。中には簡素な作りの上からお洒落にデコレーションされた店内にちょっとした椅子とカウンター、そして何名かの男性女性の絵…いや写真みたいなものが貼られたパネルが目についた。ただ誰も居なかった…誰も居ない店ならシャッターなんて半開きになってるのはおかしい。全開にして逃げ出しているか、それとももともと開いてないかのどっちかの筈だと思う。電気もついたままで換気用のファンも回っている。そして何よりそもそもこの騒動…俺は流れる冷や汗から来る寒気をぐっと堪え、息をのみ、さらに一歩、また一歩と静かに、慎重に…まるで水の中にいるかのような重たい空気をゆっくりかき分けて奥へと進んでいく…
「勘違いだったら…すみません…」
俺は一気にカウンターを乗り越えて奥の扉の取っ手に手をかける。大きく息を吸って、ゆっくりと吐く…そして一気に扉を開ける。すると扉の目の前には何故か桃井さんが驚いた様子で立っていた。
「…っへ?も、桃井さん???」
「あ、へぁ…な、なんだ水無月君か…ど、どうしたん?」
「どうしたって…それこそこっちの台詞だよ。朝ごはん食べるときに急にいなくなって」
「あはは…ごめんごめん、ちょっと…急用でお店に戻ってたの、そしたらこんな状況になっちゃって、危ないしお店閉めとこ思って、今からシャッター閉めようかと思ったら水無月君来るもんだからびっくりしちゃったよ」
・・・そんなわけない。その一言を心にとどめると同時に確信へと変わった。このお店は今危険な状態だ。そしてそんな状況に桃井さんは巻き込まれている。俺も焦る気持ちをぐっと堪え、この事をいち早く、そして悟られないように…お店から出て兵爵の人達に伝えないと
そう胸に秘めつつ顰めそうになる顔を必死にやわらげつつ、桃井さんと一緒にカウンターゲートをくぐりゆっくりと先ほど入った入口に向かう。
「あぁ、そうだったのか…まぁ、仕方ないよな。こんな状況だし…俺も気になってきただけだし、大丈夫そうならよかったよ。俺は自分の店の事もあるし、いったん帰るわ。桃井さんのいるとこは無事だったって伝えてこないといけないしね」
「う、うん…お願いね。はぁーあ、今日はお客さんふたりだけだったかぁ~」
そんなたわいもないであろう話をしながら入口の扉に手をかける。
その瞬間、俺の身体が、いや俺と桃井さんの身体が急に宙に浮くと思うと後ろに引っ張られ、先ほど桃井さんが出てきた薄暗い部屋に押し込まれるように叩きつけられた。すると部屋の奥から何人かの小さな悲鳴が上がった。
「静かにしろ」
俺が痛みに耐えながら声のする方に視線を向けると、数名の女性が座らされ、そして一人の黒ずくめの人物が刃物のようなものを女性達に向けていた。さらに扉の方からはもう一人の黒ずくめが扉を塞ぐように入ってきた。俺達はこいつに後ろから投げ飛ばされたみたいだ。
「ごめん水無月君…私のせいでまきこんじゃって…」
「いや…こっちこそ、うまくばれずに出れたと思ったんだけど…」
「…だとしたら30点のおままごとだな。その程度で騙せると思ってるなら随分呑気なものだな」
黒ずくめの人物の声が野太く部屋中に響き渡る。俺を投げ飛ばした方の人物は部屋の外明かりによる逆光で殆ど影しか見えない…だけどゆっくり近づいてきている。もう考えている時間もないが、もう一人の人物が人質を取っている以上下手なことは出来ない…
「ごめん…ごめんなぁ…」
小さな声が俺の近くで聞こえてきた。ふと横を見ると桃井さんがぽたぽたと大粒の涙をこぼしながら泣いていた。俺はぐっと手を握りしめ、歯を食いしばって気を奮い立たせた。あきらめちゃダメだ。こんなところで終われるわけにはいかないんだ。そうだ、元の世界でも…どうしようもない絶望的な状況でも、俺達は最後の一瞬まで諦めなかったときがあった。桃井さんの涙が俺の記憶の中の絶望をフラッシュバックさせた。そして我武者羅に諦めさせなかったという希望も
「っっうおおおおお!!!」
俺は一気に体を持ち上げ動き出すと、部屋の奥で人質に取っていた黒ずくめの人物の、刃物を持っている腕にしがみついた。黒ずくめの人物は驚き咄嗟に俺を突き放そうと蹴り、もう一人の黒ずくめも俺を引きはがそうと一気に近づいたが二人の取っ組み合いに困惑していた。
「っや、やあぁ!」
すると黒ずくめの後ろから桃井さんがモップで後頭部や背中を何度も攻撃する。店の奥は乱闘状態になった。
「っい、今だ逃げろ!!」
俺の声に驚きつつも悲鳴を上げながらお店の女性達が慌てて逃げ出す。黒ずくめ達は必死に逃がさなそうにもがくが俺と桃井さんがそれを阻止する。だが俺達の必死の抵抗が成功したのは一瞬だけで、戦闘能力というか力量差は歴然であったようで俺も桃井さんもひどく外傷を負うこととなった。多少体力に自信があった俺はついに力なく地面に叩きつけられ、黒ずくめが勢いよく刃物を俺に振り下ろす。
だがその刃物が俺に触れることなく、黒ずくめは壁に打ち付けられた。倒れた俺の真上には龍之介さんがいたのだ。
「龍之介さん…どうして…」
「ま、根性だけは二流ってとこだな」
するとすぐさま桃井さんを襲っていた黒ずくめが龍之介さんに襲い掛かったが龍之介さんの拳が黒ずくめの頭にヒットすると黒ずくめの身体が宙で一回転し吹き飛ばされる。だが黒ずくめ二人はすぐに立ち上がり今度は二人掛かりで龍之介さんに襲い掛かるが、龍之介さんは手馴れた様子で脇で片方の黒ずくめの腕を受け止め、そのまま体を捩じると黒ずくめ同士が衝突し合い、二人まとめて蹴り飛ばしたのである。流石に厳しいと感じたのか黒ずくめ達は素早い動きで店から逃げ出した。俺はその様子を見届けると一気に疲労とダメージが襲い掛かりその場に身を投げ出すように脱力した。
だがすぐに体が持ち上がったかと思うと龍之介さんに片腕で担がれ、もう片腕で桃井さんも担がれていた。
「も、桃井さんは…大丈夫…?」
「水無月君も大丈夫そうで良かった…」
どうやらお互い幸いにも深刻な状態にならずに済んだみたいだ。龍之介さんが器用に俺達を担いだまま店を出るといつの間にかお店を取り囲むように兵爵の人達が集まっていた。そして二人の黒ずくめも取り押さえた後だった。
その後はモリシマさんにこっぴどく叱られながら、巧さん達や依田君と合流して無事8人全員でまた集まれた。それに安心したのかいつの間にか桃井さんは気を失ったかのように眠っていた。それからお店の人達とも再度会うことが出来て凄く感謝された。その時に桃井さんの話を聞いたが、騒ぎがあった時に店に押し寄せた黒ずくめを桃井さんが見かけ取り押さえようとしたが、もう一人の黒ずくめがお店の女性達を人質にとったために桃井さんも一緒に拘束されることとなったみたいだ。彼女の必死な抵抗もあり、もし誰にも気づかれずにシャッターがもっと早く閉まっていたらと考えたら…そんな風に考えただけで恐ろしい話であり、俺と桃井さんが来てくれたことにずっとお礼をしれくれたのだ。
…だけど、俺はその感謝を素直に嬉しく受け取ることが出来なかった。あの時見た桃井さんの涙は…自分の、いや自分たちの未熟さから出てしまったものだ。俺は…俺は悔しかった。もっと強くなりたいと…
「本当に…本当にありがとうね。当店レモンバームとミツバチ5号店のオーナーとして、どんなことでもお力になりますので何かありましたらご遠慮なく声をかけてくださいね」
そう言うと少し高齢ながらも美しくマダムのような煌びやかな装飾を身に纏ったどこがとは言わないがふくよかなエルフ系精人種の女性から渡された名刺を受け取った。そこにはオーナー、カミール・レモンバームと書かれていた。おそらく貴爵の方なのだろうか…
そんな風にぼんやり見ていたら、ん…?レモンバーム、カミール?と名刺を何度も確認しながら俺は手荷物からとある手紙を一通取り出した。そう、それは先ほど皆にも話した、施設に来る前にお世話になった村のホームステイさせてもらった方…つまりリーヴさんから預かった手紙だ。そしてその手紙にもレモンバームとミツバチ オーナー カミール・レモンバームと書かれていた。
「えっ、あ、えぇ!?あ、あの…俺そのえっと…リーヴさんと知り合いで、手紙を預かってて…」
まさか助けたお店が俺の目的のお店と一致しているなんて思ってもいなかった驚きを隠しきれないまま慌てた様子で手紙をカミールさんに手渡す。カミールさんも聞き知った名前を言われると驚いた様子でゆっくりと受け取り、丁寧に中を取り出すと中身をさらっと確認する。
「まぁ、ホントにリーヴちゃんからの手紙だわ。まさかこんな形で受け取るなんて思わなかったわ。本当にありがとうね」
と改めて何度もお礼を貰いつつ、まだお店や建物を荒らされたのを修復しないといけないらしく暫くはまだ忙しそうなので俺達もこの見学会を打ち切る形で帰宅することにした。
その時ふと兵爵の人達の会話が小耳に入った。
「今回の事件の首謀者は…ティストレイ連邦からのスパイ13名、うち連邦の上級国民である獣人種が4名、他の種族が9名、そのうちラプスラスト嬢による洗脳異界人兵が5名でした」
「目的はおそらく帝都民の拉致、および食料や資材の強奪…」
「連絡です。帝都郊外にて複数の大規模な略奪事件が発生。中にはアンダルハーグからの輸送貨物も狙われたとのこと、既に事態は鎮圧。今のところ被害者はいませんが」
「…陽動だろう、だとしたら帝都民拉致が本命だったのだろうか。それと異界人のついては報告はしなくていい…」
聖ルーマルコーランド帝国とティストレイ連邦との戦争は今も続いたまま、静かに、だが確実に日常にもその余波が現れる…その事実を体験したあの日がまるで嘘だったかのように平和な日常が続き、俺が施設にやってきてからついに10日が経過した。俺はこの施設の生活に慣れ異界人同士の友達が多くつくれたが俺は今日この施設から出所し義勇兵爵の試験合宿所に出発するのであった。
「短い間でしたがお世話になりました」
俺は荷物を纏め出入り口で見送りに来てくれたメンバー達との最後の時間を名残惜しんだ。
「いきなり来たと思ったでやんすが、おいら達よりも早く出て行くでやんすか…せっかく狭い部屋になれたのにまた部屋が広く感じるでやんす」
「ヨーダ君もみんなも、そろそろ出所予定が近づいていますからまた部屋を散らかさないようにしてくださいね」
「ははは…あれ、ところで桃井さんは?」
見送りに来てくれた人達には一緒にエルフ市に行ったメンバーが集まっていたが唯一桃井さんだけ見当たらなかった。
「桃井さんから伝言を預かってますわ。次に会う時は、私も立派な国衛兵爵になってから。とのことです」
その言葉に俺は静かに頷いた。俺がいた残りの10日間で桃井さんがやたら身体作りに専念していたのは俺も知っていた。おそらくすぐにでも国衛兵爵の試験合宿に行きたいばっかりなのだろう。
「それと、その…10日もあったのにちゃんとしたお礼がまだでしたわ。エルフ市では私を守ってくださってありがとう、貴方ならきっと試験も合格して義勇兵爵としてやっていけるわよ」
「ありがとうカノンさん。カノンさんも心愛ちゃんも、巧さんも龍之介さんも…あと依田君も、またいつかこの施設の外で会いましょう」
「…ふん」
「俺も雇い先見つけたら連絡するね~」
「勿論ですわ」
「っは、はい!」
「当たり前でやんす!おいらたちは…おいらは……、…水無月君!やっぱりまだ行かないでくれでやんす~…」
泣き喚く依田君を含めみんなに俺は手を振りながら、入ってきたときと同じ荷物を持ったまま俺は入ってきたときと同じ扉をくぐり異界人特別拘置施設の外へと足を踏み出した。この扉を一緒に入ったトレイスとウルヴァは試験合宿所で落ち合うことになっている。外はまだ朝日が昇ったばかりで食べたばかりの朝ごはんがお腹の中に残ったままだ、お腹の重さなのか荷物の重さなのかそれとも…俺は重たくなった足取りで後ろ髪を引かれるような感覚になりながらもゆっくりと前に前に進んでいく。
「…ステータス、オープン」
俺はぼそりとそう呟くと目の前に半透明のステータス画面が浮かび上がる。俺は依田君に教えられたあまり役に立たない数字の羅列をどかして、ステータス内部に保管されている一枚の画像を眺めた。
そこには俺とあの施設の仲間たちの集合した一枚絵があった。これはカメラに収めた写真を特殊な機械で俺達のステータス画面に貼り付けたものだ。まぁこのステータス画面に張り付けられる画像にはどうも制限があって軍事利用とかは出来ないみたいだが…、今の俺にとってはそんな話も、意味のないステータスもどうでも良かった。
たった数日間、だけどとても充実したこの数日間で得られた仲間たちとの鮮明な思い出をこうしてずっと一緒に持っていける。それだけで十分だった。
「…っよし!!」
俺はステータス画面を閉じると、さっきまで重く感じていた足が軽くなったかのように感じた。荷物よりも重たい大事なものを抱えたまま次の舞台へと足を進めていくのだった…。
本投稿を読んでいただきありがとうございます。SKMRでサキモリと申します。
無事書類も片付き、また本格的にこっちに着手できる喜び。そしてなんと次回からはかなりの登場人数に大型ストーリーを構想しております。個人的にはまだまだ冒頭のプロローグの気分…と言いますか全然世界情勢に踏み込めていないので早くやりたいところまで行きたいと思ってますが、もう少しばかりお付き合いいただきたいと思っています。
…あ、でも次回はExの予定か
また今回も誤字脱字、文章構成などまだまだ課題がありますのでよかったらアドバイスなどしていただければ幸いです。
次回は7/26にEpisode2のEx番外編を投稿しようと考えていますので、もし少しでも面白かった、続きが待ち遠しいと思えたら嬉しいです。次回もよろしくお願いします。




