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Episode1Ex それは始まりと呼ぶには早すぎる小さな物語———番外編

 クザスの村…この村は四方を大きく魔力の通った防護柵によって野生動物や外部からの侵入を防ぎ、その内側で広い面積の農地や牧草地を管理、さらにその内側でおおよそ100戸前後の住居の立ち並ぶ小さな村、村の中心には領爵主であるヴィレイン・アヴィレイナー・クザスのお屋敷…兼この村の役場のような役割を担った建物が立っている。

 住民はおおよそ150~200人くらい、人の数よりも家畜の数の方が多く、村の特産品らしい特産品といえば家畜竜、『アトネムイゴラグーン』から採取される魔石と燃料として加工される血だ。後はピートと呼ばれる野菜もあるが…基本都市で売れたもんじゃない。ゴラグーンの産んだ無精卵もぶっちゃけ鳥の卵と比べて美味しくない。食用家畜や野菜なども作ってはいるものの他の都市や市町村に勝るだけの付加価値のある食材でなく、特産品を作るためにヴィレインさんは奮闘し迷走した末に見た目ゲテモノ料理開発に走り出しているのであった…

 ・・・まぁ、そんなことは置いといて、そんな200人弱の住民を抱えているこのクザスの村は貧しくはないものの、帝国にとって大きな影響力のある村ではない。つまり何かあっても守ってくれる保障のある村ではない。その程度の村でしかないのである。現にこの村には常駐する兵爵の人間はおらず、野生動物に関する問題があった場合は隣村から兵爵が来てくれないといけない状態なのである。

 そのためヴィレインさんはこの村が帝国の役に立つという実績を持つために、『異界人炮烙措置懐柔策』への積極的な姿勢を示すことにした、そのかいあってこの帝国で忌み嫌われている筈の異界人である俺…水無月 新がクザスの村に迎え入れられたのだ。一人でも多くの異界人を帝国の人間として迎い入れることが出来ればそれだけで帝国からは異界人を受け入れるのに適した村として一目置かれる場所になると考えたからであった。

 その思惑はとりあえず順調なのか、異界人である俺の生活は平穏そのもので何事もなければ無事爵位を受け帝国の人間として迎え入れられる…これはそんな何事が起こる数日前の話…———




「……と言うわけで、現在帝都では多くの人材を集めなくてはいけない。というわけだ…、…ミナヅキ、私の話を聞いていたのか?」


「…へぁ?あ、す、すみません…ちょっとぼーっとしていました」


 俺は今日も今日とてこの帝国に関する基礎的な知識を仕入れるために、以前ヴィレインさんに案内された二階の資料室のような部屋でヴィレインさんとつきっきりの授業をしていた。だがほぼ毎日朝五時からマートンさん達と共に朝食を挟んでも午前中いっぱい畑仕事、午後はヴィレインさんの所でこの世界の知識を仕入れるほか、子供達の面倒を見たりリーヴさんの手伝いしたり、あと畑仕事の手伝いの続きだったりと目まぐるしい毎日を送っている。…そういえば前に休んだのっていつだっけ?


「…、少々頑張り過ぎじゃないか?お前の事はしっかりと見て…んんっ、監視させてもらっているが村のためとはいえ自分の身体第一で構わないんだぞ。村のみんなももうすでにお前の事は認めている」


「はは…まぁ、俺が好きでやってることだし、朝も朝練とかで慣れてるし…体力には自信あるんすけど」


「いーや駄目だ、さっきぼーっとしたのは蓄積疲労が原因だ。というわけで半日で申し訳ないが今日はこの後は休息だ。それとお前が私に黙ってこっそり頑張らないよう監視するために、私が同行するからな」


 そういうと机一杯に並べていたこの世界に関する書類をヴィレインさんが閉じ棚にしまい始める。なんだか妙に嬉々とした様子にも見えるが…。


「ミナヅキ、お前の気苦労も理解できる。リーヴの家に転がり住んでいる以上家でゆっくりなんてしてリーヴや子供のシルクに気を遣わせるのは忍びないと思っているだろう。だから私がこの村で疲れを発散させれる場所を紹介してやろう」


「え、でも…俺、金持って…」


 俺の言葉を遮って半ば強引に勉強会を切り上げられると俺はヴィレインさんに連れられ部屋を出て階段を降り一階に、ロビーを抜けようとしたところで受付にいたメイドさんと目が合った。


「お嬢様、お勉強会はどうされたのですか?」


「今日はお休みだ。ミナヅキも疲れがたまってきたのだからたまの息抜きをさせてやらねばな」


「お嬢様!いけません!!」


 ヴィレインさんの話を聞き慌てたように受付席から飛び出して、俺達を止めようと駆け寄って


「そんな恰好で、デ…、…ミナヅキ君を案内するなんて失礼ですよ。領爵主としての威厳にも関わりますから、ほらさっさと着替えますよ。あ、ミナヅキ君は待合室でゆっくり休んでて」


 それだけ言い残し、メイドさんはヴィレインさんをかっさらって一階の廊下の奥へと行ってしまった…。俺は仕方なくぽつんと待合室の椅子に座って待っていた。それにしてもヴィレインさんの格好はそんなにへんだろうか?だいたいいつも似たような恰好をしているが基本的にどれも軍服というか制服みたいな、気品高い服装に身を包んでいるが、むしろ今以上に正装着てこられても困るんだが…


「…っす、すまない。ミナヅキ…お、お、おそくなった…」


 なんて考えながら待っているといつもよりも弱弱しいヴィレインさんの声が聞こえたので振り向くと、そこには…いつものぴしっとした格好とは真逆、俺が考えていたものと全く異なる、銀寄りの青白い髪によく映える白と黒のゴシックドレスのようなフリルたっぷりの可愛らしい系の衣装だ。しかもいつもはズボンを履いているのに今回に限ってフリフリのスカート、頭に生えている角が隠れない程度に黄色い花の髪飾りまで付けて、そしてなによりも…服を着ていても分かる二つの膨らみをわざわざ直接見せてくるかのようなわざとらしい開きまでしてある!これまでの凛としたカッコいいヴィレインさんのイメージはそこになく、頬を赤めたままおどおどしているヴィレインさんに俺はあまりの変化に口を開いたまま固まってしまった。


「や、やっぱり…全然似合ってない…よな…?」


「い、いいいいいいえいえいえいえ!!す、すっごく…可愛い、じゃなくてえっと、に、似合ってますよ!!」


「おおお、お世辞はやめろ!!」


「ほ、ホントですってば!」


 なんてぎくしゃくしたやりとりをしている陰で受付をしていたメイドさんはものすっごくにっこにこないい笑顔でヴィレインさんに見えないようにこっそりと俺にだけサムズアップを送ってきた。俺はヴィレンさんも、メイドさんも直視できずにずっと目を背けることしか出来ないよ…


「え、えっと…それじゃあ、行きますか?」


 俺は立ちあがるとすっとヴィレインさんに手を差し出してた…ヴィレインさんが俺の手を見つめるとハッとして俺はすぐに手を引っ込めた。すると黙ったままヴィレインさんが頬が赤いまま不機嫌そうに俺の顔を睨みつけるので、俺は再度手を差し出すと、ヴィレインさんはゆっくりと、そっと俺の手を握った。




 どうしてこうなったかは分からないが、俺はお洒落したヴィレインさんと手を繋いだまま村の中を歩いている。さっきまでいろんなとこを案内すると言っていたこの人は今ではしおらしくなってしまい、案内どころかこれでは俺がエスコートしてるみたいになっている。だが勿論やぶさかではない

 それと意外なことだが、俺とお洒落したヴィレインさんが手を繋いで歩いているってのに村の人は俺達の事を見かけてもあまり気にもしていない様子だ。もっと余所者が~とか、領爵主が~とか客観的に考えたら色々波風立ちそうな状況だと思うのだが…領爵主だからなのだろうか、それともまだ一か月だけどもう俺の事を信用してくれてるのか…なんて考えて歩いていると、曲がり角でランとばったり会ってしまった。しかもしっかりと目が合った。あってしまった


「…あ、あーっ!!!ミナヅキの奴デートしてる!!みんなに言わなくちゃ!!」


「うおおぉい!!こらぁまて!!!行くなー!!」


 案の定だよ!!!こいつならやりかねない行動をマジでそのまましやがったぜ!!しかもよりによってヴィレインさんと手を繋いだままなせいであのクソg…ランの奴を追いかけることが出来ない。ランは大きく翼を広げて走り助走すると一気に空に飛び立ち畑の方へと向かっていったのだ…。しかも余計なことにわざわざ思っても絶対に口に出さなかった事を大声で叫びやがって、おかげでヴィレインさんは真っ赤な顔がさらに真っ赤にしながら


「デッ…デッッ…」


 意識しすぎてもうまともに話せなくなってしまった。…ヴィレインさんがこんなウブだったとは思いもしなかった。俺は言ってしまったランを見送り、顔を合わせてくれないヴィレインさんの手を引いて近くにある茶屋の店先にある席に二人で腰かける。でも俺そう言えばお金持ってないんだっけ…


「…すまないミナヅキ、も、もう…大丈夫だ。もう慣れた。もう慣れた…」


 座りゆっくり息を整えて顔の赤らみが落ち着いてきたヴィレインさんが表情がまだ硬いままで会話を続けた。


「ミナヅキは…その、あ、甘いものは好きか…?というかこの店には来たことあるか?」


「いや、ないですね…いつもリーヴさんが準備してくれて、その、他で食べるのが申し訳なくて」


「そうか、そうだったな。リーヴは料理も上手だし、そう言った面倒見もいいもんな…私もリーヴに料理を少し習っていた時期もあったんだが、…それだったらもっとしっかり聞いておくべきだったな」


 まぁ、確かに…ヴィレインさんの料理はなんというか独特というか、奇抜というか…初日のイメージが頭から離れないというか…なんて考えているとお店のお婆ちゃんが顔を出すとすかさずヴィレインさんが指二本立てて見せ、すぐにお婆ちゃんは奥へと戻っていった。しばらくするとまたお婆ちゃんが出てきて、今度は俺達の間に商品を置いて戻っていってしまった。少し甘いお酒の匂いのする栗あんみつ?みたいなものだ。


「お前に連れられてここに来たが実はこの店は私の行きつけなんだ。この店のこのシロップビーンズが私のお気に入りでな、凄くうまいのだ。お前も食べてみてくれ!」


「んじゃぁ、いただきます!…っうっま!!」


「そうだろうそうだろう!自慢ではないがリーヴの手作り菓子にも勝ると思ってるからな私は」


「まぁ…それがお店だと思うからね」


 口の中で求肥のような柔らかい食感のものが甘味シロップに絡み、というかめちゃくちゃ甘い。でも癖のない甘さで満足感が凄い。確かに病みつきになるのも分かる美味しさだ。俺達は無心にこのシロップビーンズを頬張った。一気に食べ終わり空っぽになった容器を置き俺達は見合うと無性に笑顔になり笑い出した。




「さて、それじゃあ次に行くか」


 すっかり元気になったのかヴィレインさんは意気揚々と立ち上がりフラフラと言ったり戻ったりしてはそわそわした様子でちょっと手を差し出している。ちょっと考えてから、あ、手を繋ぐんだと気づきすぐ立ち上がり手を取った。


「えっ、次って…てか支払いは」


「あぁ、構わん。もとより私の家に直接請求しに来るように頼んでいるしな。税金の事もあるし…」


「ぜ、税金…」


「っと、今日は勉強禁止だったな。とにかくお前は気にしないでいい。まぁもし気にするって言うんだったら…私にツケでもいいんだぞ?」


「うぐっ…」


 この人にツケでもしたらこってり絞られそうだと思ったが、ヴィレインさんがそんな格好で俺と一緒に村中徘徊とかもはやこれだけでまるっとツケになりそうだし、というか断る方が後で何言われるか分からないから俺は諦めて今日はこの人のいいように動くしかないみたいだ。なんてしょうもない事を考えながら手を引かれていると、不意にヴィレインさんの足が止まる。何事かと思って様子を見ると…俺らの進行方向に見慣れた人達が立っていた…


「あらあら、お二人でどこに行くのかしら?随分楽しそうね」


 そう、俺がいつも寝食をお世話になっているリーヴさんと、それからマートンさんと一緒に畑仕事を手伝い、俺とは畑仕事仲間のマートンさんの娘さんである獣人種のイリナさんとナタリーさんの三人がいたのだ。そんな三人をヴィレインさんは明らかな不機嫌顔で睨みつけていた。


「えっと、リーヴさん。どうしてここに…?」


「ごめんなさい、ホントはさっきラン君から聞いちゃってね」


「面白そうだし、私達もご相伴に与ろうかなって~」


「ね~」


 そう言うとイリナさんとナタリーさんの二人が俺達の後ろに回り込むと背中を押して歩を速めさせる。


「おいお前ら!畑仕事はいいのか!?」


「モッチ~、パパが行ってきていいって言ってくれたし~」


「パオラもシルクも今一緒に他の男の子たちと遊んでいるだろうからね~」


「だ、だけど私達は私達の行きたいとこが…」


「どーせあっこ行くっしょ―」「あっこしか遊ぶと来ないもんねー」


 結局ヴィレインさんの抵抗虚しく俺達五人はやたらと看板やら変な道具…というかまるでレトロアーケードゲームのようなものが置いている広い建物の中へと入っていった。というかまさしく中は一昔前というか田舎のゲームセンターというか遊技場みたいな感じだ。派手な電灯とかでなく普通の明かりで照らされているし音楽でやかましいとかは一切ない。しかもお客も殆どいないガランとした場所だった。いや正確には仕事休憩中のおじさんみたいな人がちらほら遊んでいるのが見えた。


「す、すげぇ…こんなとこがあったなんて…」


「別にこんなん全然すごくないよ~、帝都にはもっと凄くて人がたくさんいる遊技場とかあるし」


「悪かったな。この村が貧乏で」


「まーまー、ほらほら、折角だし楽しみましょ♪」


 そういうと急にリーヴさんが俺の腕を抱きしめるようにくっついてきた。というかこの人今朝着ていたおとなしめな恰好の筈だったのにいつの間にかデニムジャケットにスポブラみたいな攻めた格好に着替えてきてるし、一応年下であるイリナさんナタリーさんの二人もいつもは長袖長ズボンの作業着なのに今は年相応というか中高生の私服じみたダウナー系みたいなカッコいい感じのお洒落をしているし…こうなると逆に俺が普段と変わらない格好しているのが逆に恥ずかしくなるんだけど…


「ミナヅキさ~、もしかして異界ってこういうとこない感じ~?」


「い、いや…めっちゃあった、かな…?男同士で行ったりしてたけど」


「まじー、やばば~」「つかめっちゃあったって、ここより派手?」


「そりゃ、まぁ」「「えー、やばー、いーなー」」


 なんて喋っているがいつの間にか俺がヴィレインさんと繋いでいた手の方にいたのはイリナさんとナタリーさんで、いつの間にかヴィレインさんは俺の後ろで物凄い怖い顔で睨んできていたのだ。俺は申し訳ないと感じながらリーヴさんに捕まれている腕側を離してもらって、後ろのヴィレインさんに手を差し出した。


「ほら、ヴィレインさんも来て」


 ヴィレインさんは驚いたような顔を見せ、するとまたすこし恥ずかしそうに戸惑いながら俺の手を取った。

 それから俺達五人はしばらくの間遊技場をめいっぱい満喫した。とは言っても俺の世界にあったようなデジタルアーケードゲームなどはなくモグラたたきのようなものやピンボールにバスケのフリースローやボーリングゲームのようなもの、そして五人でビリヤードやダーツといったものなどで競い、二人一組でエアホッケーのようなもので勝負し合った。笑い合い楽しい時間はあっという間に過ぎて行った。

 突然ごぅーん…と村中に響く程の鐘が鳴り響く。勿論それは遊技場の中にも聞こえる程強く響いた。そしてそれは俺達の楽しい時間が終わりを告げる合図であった。


「えっ!うそぉ!もう5時!?いっけない…シルク迎えに行って晩御飯の準備しなきゃ…、ミナヅキ君はもう少しゆっくり帰ってきていいからね!!」


 リーヴさんが慌てた様子で懐中時計の時間を確認してバタバタと帰ろうとする。


「だ、だったら…俺がシルクの迎えを」


「だぁーめ、ミナヅキ君はちゃあんと…最後まで責任もって、送り届けるまでが男の子の役目なんだから」


 なんて言いながら俺の肩をポンポンと叩くと、急いで遊技場から出て行ってしまった。俺はそんなリーヴさんが行ってしまうのを呆然と見届けていると、イリナさんとナタリーさん達もなにやら帰る準備を始めていた。


「んじゃあきりもいーし、うちらも帰るわー」


「ミナヅキっちもまた明日、…あ、それとさ」


 すると不意に二人が俺の顔にぐいっと近づいてくる。二人分の吐息や匂いに俺もつい顔を真っ赤にしてしまう。


「「ミナヅキもさ、どっちがいーか決めといてね♪」」


「お!おいお前ら!!ミナヅキに近づきすぎだ!!離れろ!!」


 真っ先に反応したのはヴィレインさんだった。ヴィレインさんも顔を真っ赤にして二人を俺から遠ざけようと腕を振り回す。二人は笑いながらまたねーと手を振って帰っていった。…なんとも嵐のような二人だったな。俺もまだ顔の赤いまま二人に手を振るがヴィレインさんにはもう挨拶する元気もなさそうだった。


「…んじゃあ、俺達も帰ろっか…?」




 遊戯場から出るとすっかり空が真っ赤な夕焼け色に染まっていた、街の人達は仕事を切り上げ帰る準備を始めていた。俺はヴィレインさんの手をしっかり握ったままゆっくりとした足取りで歩きだした。


「…きょ、今日はその…す、すまなかった。ゆっくりさせると豪語しておきながら、結局気を遣わせるざまだったな」


「そうですか?俺は楽しかったですよ。…まぁ疲れは貯まりましたけどね」


 ふふっと笑うヴィレインさん。すっかり満足しきったのか陽気な足取りではあるが少し疲れたのか気の抜けたような表情をしている。


「…ところでなんですが、最後にあの二人が言ってた…どっちがいいか決めておいてって、一体何のことですかね…」


「あぁ、なんてことはない…付き合うならどっちがいいかって話だろ?」


「つっ!付き合うって…」


「まぁマートンさんにも気に入られているからなお前は、そりゃあ娘を任せれる男だって感じればあの二人のどっちかとはくっつけさせようとも思うんじゃないか?」


 うーん…何というかどことなく感じる田舎の風習みたいな感じ…決して悪気とかっていうよりも100%の善意なんだろうなぁって…まぁ確かに、仕事では頼りになるって言うかいつもお世話になる年下先輩の二人だし正直こっちとしても嬉しい…なんて表情に出したらヴィレインさんに見抜かれそうなので俺はとにかく平常心を保った。ヴィレインさんのお屋敷まであと30分…そんなつもりだったがあと40分、いや50分と、だんだんヴィレインさんの足取りがゆっくりになっていくのがわかる。そして握る手がさっきよりも強くなるのを感じた。俺はそんなヴィレインさんの歩幅に合わせる。


「…なぁミナヅキ、私はお前に謝らなければならない」


「どうしたんですか?いきなり」


「お前はいっぱいこの村の事を知ってくれた。私はすごく嬉しい。…だが、私はお前の事を聞いてこなかった。いや、自分の事を、この世界を、この村を知ってもらうことで精一杯で知ろうとしなかった。今思えば、ホントに余裕がないと思っていたのは私自身だったのかもしれない」


「…ヴィレインさん」


「だから、その…もし話したくないのなら、話さなくてもいいから…お前の」


「いいですよ。勿論…でもあんまりおもしろい話は出来ないかもしれないですけど…


 それから俺はゆっくりなペースで俺の元の世界の話を始めた。俺の高校までの生き方、俺の街、俺の親や同級生、恩師の先生との出会い、そして青春の全てを捧げたと思っていた高校の3年間、レギュラー争いを競ったチームメイト、そして辞めていったチームメイト、同じ地区にいる強豪校のライバル。悔し涙で引退していった先輩たち。そして俺を信じてキャプテンの座を託してくれた俺達の先輩キャプテンと監督…全国に行った二年と違い、夢半ばで潰えた選抜での敗退…俺の中の思い出が自然と言葉になってあふれ出る。そしてそんな俺の話を聞き喜び怒り悲しむヴィレインさん。こんなにもまっすぐ俺の話を聞いてくれたのはこの人がきっとこの世界で最初で最後かもしれない。そう思うと次第に俺まで足取りが重くなる。いくら喋ってもまだまだ話したいことはたくさん出てくる。それなのにさっきまで真っ赤だった空はゆっくりと蒼く黒く残酷なほどに俺達に終わりを告げようとする。まだ10分、まだ5分だけ…そんな思いすら叶わずもうお屋敷は目の前にあった。明日も会える、今生の別れでもないのに…俺達は握った手を離したくはなかった。


「…ミナヅキ、面白い話をありがとう」


 俺の話をぶった切るようにヴィレインさんが切り出した。それは今日が終わりを告げる合図だった。


「話を聞いていたら、私もお前と同じそっちの世界で一緒に会いたかった。…いや、そもそも年齢が違うから同じクラスメートにはなれないか」


「そんなことないですよ。きっと同じクラスメートになれていましたよ」


「ふっ、それも悪くないな…。…ミナヅキ」


 ふと俺達は自然に目が合う。しばらく沈黙のままに見つめ合うとゆっくりとヴィレインさんが近づき…ぎゅっと俺の身体に抱き付いた。真っ先に感じたのは胸板に当たる柔らかい感触、そして鼻に触れる髪の感触と香り、ヴィレインさんが俺の背中をぎゅっと自分の身体に押し付けるように抱きしめる。俺も優しくヴィレインさんの背中に手を振れる。するとヴィレインさんの身体が小刻みに震えているのが感じる。唇が、目元が執拗に小刻みに動いているのがわかる。動悸や吐息が激しくなっているのがわかる…でも俺がヴィレインさんにしてあげれる事は分からなかった。俺はさらにぎゅっと強く抱きしめることしか出来なかった…

 しばらくしてお互いの腕の力が緩まり、ゆっくりと離れ、ヴィレインさんはそのまま俺の方に振り返ることなくまっすぐにお屋敷へと向かっていった。


「…あ、明日からは…また、いつも通りのメニューだからな!覚えておけよ!!」


「はいっ、勿論…俺、もっと頑張りますから!!」




 …———……


 お屋敷の一室、おそらくヴィレインの自室であろう部屋に到着すると、中でお茶と茶菓子を準備して待っていたメイドさんを無視して、まっさきにソファーにダイブした。せっかくのお洒落服がしわになるのも気にせず寝転がった。


「…はぁ、すっごく疲れた…」


「お疲れ様ですお嬢様。デートは楽しかったですか?」


「…タノシカッタ」


「それは何よりです。…彼がこの村に残ってくれるためにも頑張りましょう。なにせ、今や帝国は未婚男性がほぼおらず婚活市場は壊滅的ですからね」


「…あぁ…、帝国の軍が打ち出した出生率を高めるための一家主多家内制度。そして独身税の納付義務。これによって帝国は今や結婚ラッシュで多くの人口増加を図り比例的に軍兵の数を増やした。だが…」


「アンダルハーグの女性貴爵による男性の囲い込みブーム。一家主多家内制度の制約で家内の数だけ子供を産まないといけないが、逆に子供さえ生んでしまえば仕事も家事も育児も全部婿家内に任せ、自分は婿家内を管理すれば稼いだお金で自由に遊び三昧なんていう嫌な流行り。このせいで多くの男性がアンダルハーグに流れ行ってしまいましたからね。しかもアンダルハーグの女性出生率の高さから来る女性あぶれで逆にどんどん帝都や他の都市に結婚相手を探しに女性が増える一方」


「…さらに男性の出兵参加率が女性よりも高い事、そのせいで帝国には家主でない男性がそもそも少ない状況。いやいたとしても帝都から出てこんな田舎に住もうなんて物珍しいこと考える奴は誰も居ないだろう。ただでさえ都心部で取り合うだけに留まらず各市町村も競合している状況だ」


「アルヴァ君ご兄弟達は家族の問題や家の借金返済のために今後は村を出てアンダルハーグや出兵を選ぶみたいですし、マートンさん、いえアレクサンダー家の男の子たちはマートンさんのご意向などで結婚相手を探されるみたいですし…そんな時になーんのしがらみもなく素直で真面目に働く彼がこの村に来てくれましたからね。あ、彼氏(予定)でしたね」


「…うるさい」


「とにかくお嬢様。この村は人気も無ければ魅力だってありませんが、領爵主として彼を引き留めないと次のチャンスがいつ来るか分からないのですよ。マートンさんの娘さんやりーヴさんと協力して彼に家主譲り好きにやらせてでも、お嬢様の体張ってでも頑張ってくださいね」


「…ヤダ、マジムリ。タエラレナイ………」


「…お嬢様?」


 ソファーにダイブした女性はいつの間にかすぅすぅ…と寝息を立てて眠りについていたのだ。メイドはそっと彼女に毛布を掛け、すっかり冷めてしまったお茶を下げて部屋の電気を暗くした。


「…お休みなさいませお嬢様…、きっと大丈夫ですからもっとゆっくり頑張っていきましょうね…」


 ぱたりと扉の閉まる音。彼女に残されたのはまだ身体に残る微かな彼の温もりと、そして握り続けた手の感覚こそ彼女の眠りを満足させる全てだった…

本投稿を読んでいただきありがとうございます。SKMRでサキモリと申します。


今回はがっつり味変、ということで思い切ってデート回…というかラブコメ回?を描いてみました!!

正直こういう甘酸っぱいのは個人的には超苦手です!!ア、ケッシテコウイウケイケンニトボシイトカソウイウノジャナイデスヨ。基本的に恋愛ドラマとかにあるあたかも台詞回しみたいな言葉を使った恋愛が超苦手で…なんというか、むずがゆくなるのですよそういう言葉を聞くと…

ですので今回は全身に鳥肌を立てて頑張って書きました。どういうのが皆様に喜んでもらえるかなと色々試行錯誤頑張っていきたいと思います。あ、でも恋愛系をもっと供給してほしいとかは…ちょっと…


また今回も誤字脱字、文章構成などまだまだ課題がありますのでよかったらアドバイスなどしていただければ幸いです。




次回は7/5にEpisode3の前編を投稿しようと考えていますので、もし少しでも面白かった、続きが待ち遠しいと思えたら嬉しいです。次回もよろしくお願いします。

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