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Episode2  やがて大きな衝撃へと変わる小さな波紋——— 後編

「てかてか、いつ気付いた感じ?それとも知ってた?」


「…俺もこの世界に来て一か月をある村で過ごしました。このことについて、知っていなかったらきっと絶対気付かなかったと思います」


「あれぇ?一か月前?おっかしいなぁ…そっかぁ、てことはもう一人が…まいっか。そっかそっか、それじゃあ私の事も聞いてるもんね」


 彼女は俺から離れるように、ゴブリン達のいる方へとゆっくり歩きだしながら来ていたローブを脱ぎ捨てる。中からビジュアル系?パンク系?なデザインの中々に際どい服装に、金髪のミディアムボブな髪の中から禍々しい一対の前にうねって伸びた角と、ミニスカの下から出ている黒く細長い尻尾…まさしく悪魔のようないで立ちの巨乳美少女がそこにはいた。


「聞いているとは思うけど私からも改めて紹介するわね。私は現魔人種の証を持つ我が王が統治する魔人種のための国『オズランド帝国』、その魔人種の王を支える72柱家が一つ、スエドムサ家当主が一人娘…ラプスラスト・スエドムサ・フォーリアンよ。ラプラスちゃんって呼んでね☆こう見えても純血の魔人種そのものだから、帝国領土内じゃ滅多にお目にかかれないわよ」


 彼女の名前を聞いて俺の記憶が掘り起こされる。そう…ラプスラストこそ俺がヴィレインさんから聞かされた、この世界に来た異界人が無事に生きていく事を難しくさせている張本人なのだ。正確には彼女の家系が、らしいが、どういう方法か不明だがこの世界にやってきた異界人の元に真っ先に彼女が現れて、所謂【チュートリアル】を実演するとの話だ。その方法は多岐にわたり相手の雰囲気に合わせ異界人の無知と善意を利用し、ありとあらゆる警戒能力を掻い潜って自分を信用させ、彼女の言う『オズランド帝国』に連れ去り、そこで骨抜きにされ最終的に戦争の道具だったり挙句人間爆弾として帝国に送り込むこともあるとのことだ…。彼女に目をつけられれば男も女も関係なく、ほぼ確実に連れ去られてしまうらしい。例外として、俺みたいに彼女と偶然接触することなくその地の領国に匿われればネタが知れ渡り、今回みたいに彼女との接触で騙されることもない。ただそうでなければ…


「やっぱりママの言う通りそろそろ潮時なのかなぁ~、異界人炮烙措置懐柔策なんてのを施行されているせいで異界人をすぐに囲うようになっちゃったし…ま、いっか。こういう時の為に最終プランってのがあるんだから♪」


 そう言ってラプスラストが指をパチンと鳴らすと、さっき俺が蹴り飛ばしたであろうゴブリンが起き上がり身体をほぐす…まるで俺に蹴られた様子もなくただ寝ころんでいただけだったかのように、他のゴブリン達も明らかに先ほどまでと違い野性的な雰囲気から統率のとれた並びを見せる。しかも彼女を取り囲むように…だ。


「私からもアドバイス教えてあげるけど、そもそもこの世界にはね…野生のゴブリンと言うか、人型の野生モンスターってのは存在しないの。文化的能力がある人型の生き物はみんなそういう《人種》なの、この世界はね。人種が凄く大事なの…だからこの《人》達みんなに名前もあるし、そして私の部下って言う人間的立場と人権があるの」


「は、はぁ…えっと、それで…ちなみに、最終プランってのは…」


「決まってるじゃん♪君を半殺しにしてから無理やり連れ去るってプ・ラ・ン☆」


 彼女の合図とともに4人のゴブリンが一斉に襲い掛かってきた。一斉にだ、先ほどまでわざわざ一体ずつ襲ってきたのとは何もかもが違う。しかも先程とは比べ物にならない速さで一瞬にして俺に迫る。彼女の言葉を使えば、もう【チュートリアル】じゃないというわけだ。

 俺は咄嗟に持っていた木の棒で受け止めようとしたが、ゴブリンの棍棒で一瞬にして折れ砕けた。しかもほぼ同時に俺のどてっぱらにも一発入ってしまった。辛うじて先端が少し触れた程度だが、それでも腹部にこれまで感じたことのない痛みが走った。それと同時に…全身に恐怖が走った。本気だ、俺の命を本気で奪いに来ている。俺はみっともなく逃げ出した。

 勝ち目なんてない。だけど、捕まるわけには行かない。向こうはこういう場面にはなれているであろうからきっと俺に勝ち目なんてないに決まっている。それでも俺は…この世界で、こうして様々な幸運の上でここまでこの世界で生きてきたんだ、この世界でもう一度輝けるチャンスを手に入れたんだ!それに、ウルヴァと、トレイスに、まだ俺の我儘聞いてねぇんだ!!まだ…まだやりたいことあるんだ!!!

 俺は後ろから迫る気配に当たらないことを祈りながら走り続けた。俺の全力ダッシュはゴブリン達とほぼ同速なのかぎりぎり追いつけない。そして俺は走り続けて何とか、俺が滑り落ちてきた崖までたどり着いた。ゴブリン達ももしかしたら袋小路にするためにここまで誘い込んだのかもしれないだろう。だが、俺にだって最後の武器がある。


「いっっっ…っけええええぇぇぇぇ!!」


 俺は走る勢いのままに崖に向かって思いっきりジャンプをした、俺の身体は一気に空高く飛び上がり、4m程もあろう崖をひとっ飛びで乗り越えたのだ。着地すると同時に一気に全身に疲労感が流れ込みその場にへたり込んでしまった。急がないとゴブリン達が追いついてしまう…俺はよたつく足をなんとか動かしてフラフラと前に進む。今になって腹部に受けたダメージがズキズキと痛み出した。


「へぇ~、ホントに凄い能力もちじゃん。この子もしかして大当たりだったりする?」


 俺の全身の毛が逆立ち汗が噴き出した。凍り付くような寒さが背後から感じられた。振り返らなくても分かる。後ろにいるのは…ゴブリン達ではない。彼女だ。[ラプスラスト]が崖の外で飛んでいるのだ…。俺は必死に逃げ出そうと走り出したが突然俺の身体が宙に浮いたかと思うと近くにあった大木に体を打ち付けられた。痛みで何が起きたのか分からなかったが、いつの間にか俺が木を背に彼女に壁ドンされているような姿勢になっていたのだ。


「君って本当にすごいんだね。嘘じゃないよ。他の異界人はやれスキルだとかステータスだとか、そういった『飾り』ばっかり気にして、本質の伴わない実力者ばっかりなの。


 彼女の声が、吐息が、振動が…俺の耳元から脳に直接響く。俺は身動きが取れずその言葉に耳を傾け続ける。


「勿論中には本物の化け物とかも見たこともあったりしたけどね。だけどね、そんなもの必要ないの、この世界では当たり前でありきたりな経験と努力で培った個の能力こそがね…この世界の戦いの全てなの。


 彼女の匂いが…柔らかさが…触れ合う体温が…俺の中の警戒アラートをゆっくりと壊していく…


「だから半殺しなんて物騒なことさせないで、私についてきて。君だけは悪いようにしないから…だから


 おれのしこうが…かんじょうが…こころが…すべて[    ]にぬりつぶされていく…


だから、君の名前を…お・し・え




 気が付いたら俺は木の根元でへたり込んでいた。まだ目の前に彼女が立っている。俺に向かって伸ばしていた彼女の腕は自分の顔を覆い、その腕からバチバチッと電気のような火花と小さな黒煙のようなものが見えた。彼女の余裕そうな表情は苦痛に歪み周囲を見渡すと俺達が来た崖の方へと飛んで行った。


「せっかくいいムードで申し訳ないけど、超々ちょ~う豪華アイドル一名様ご案内することになっちゃった。ごめんね、また今度迎え行くからその時は君もメジャーアイドルになっといてね。それじゃまたねミナヅキ君♡」


 そう笑顔を見せて言い残して飛び去って行くと、俺の視界外からもう一人の人物が跳びついて行くのが見えた。俺はそのラプスラストの後ろをついて行く人物の姿が目に焼き付いた。後ろ姿だったが骨格のいい男、短髪髪でバンダナを巻いており、軽装姿でなにより二振りの剣を構えていた。俺は何故かその男に対しどこか不思議な感情を抱いていた。彼女を追うその男の事が…。


「ミナヅキ!!大丈夫か!?」


 今度は聞きなじみのある声が俺の元に届いた。ウルヴィとトレイスが駆け寄ってきてくれた。


「全然戻ってこねぇから心配したぞ!」


「あ…あぁ、わりぃ、大丈夫だ…それよりもボールがまだ見つかって」


「そんなことどうでもいいだろ!それよりも聞いたぞ、この辺りに…」


 なんて会話をしていると崖から何か唸るような声と共に緑色の手が出てきたかと思うと徐々に這い上がってくるのが見えた。ゴブリン達が登ってきたのだ。


「まずい…まだ追ってきやがった!」


「お前、魔人種のやつらに追われてたのかよ、むしろよく無事に戻ってきたな」


「とにかく逃げるぞ!」


 二人が俺を肩に担ぎ走り出す。だけど当然だが全然早く走れるわけなかった。追いつかれるのは明白だ。


「このままじゃ駄目だ、追いつかれる」


「んなこと分かってる!」


「迎え撃つのは駄目なのか!?」


「お前…そんなことしたら一応国際問題だぞ」


「それにお前はまだ帝国の人間じゃねぇ。場合によっちゃ極刑もんだぞ」


「だったら俺を置いていくのも変わんねぇだろ、ここであいつらに捕まるか、帝国に捕まるか、どっちかだろうな」


 ウルヴァとトレイスは呆れたように俺を担いでいる腕を離し、三人で振り返る。すると追いかけていたであろうゴブリン達の姿が見えた。ゴブリンは二体、残りの二体が見えないが、俺達が足を止めたことに驚き警戒して距離を保ったままじりじりと詰め寄る。


「んで、真面目な話どうやって対抗する気だ?俺達に武器になりそうなものなんて…」


「いーや、なくはないぜ。」


 そういうとトレイスは懐から小さな本…いや魔導書を取り出すと、腕を突き出し


「こういう時の為じゃないが、野生動物用の脅し道具ならちゃんと携帯して正解だったぜ。『衝撃を与えよ、火花散らせ、電撃よ』」


 スペルワードを唱えると電撃が飛び出しゴブリン達の目の前で弾けた。その衝撃に驚いている隙に俺とウルヴァで一匹のゴブリンに思いっきりタックルをかました。相手が戦闘慣れしているとはいえこっちもバスケに畑仕事で体を鍛えている。それに2対1なら突き飛ばすくらい難しい話ではなかった。突き飛ばされたゴブリンは木に思いっきりぶつかり気を失った。その隙にウルヴァが棍棒を奪い取る。これであと一人だ。逆に追い詰められた残りのゴブリンは明らかに動揺しつつも俺達に襲い掛かってきた。ウルヴァが奪った棍棒で攻撃を防ぎ、トレイスが魔法を放つがネタが割れてしまったからか軽くいなされてしまっている。


「くそっ、こいつだけどうにかできれば逃げられそうなのに…」


「他に武器になりそうなものはないのか!?」


「そんなこと言ったって車には最低限の道具しか持ってきていないし…」


「…いや、ある!車の中にだけど、もしかしたらなんとか出来るものが、このまま凌ぎながら車の方に!」


 ウルヴァがゴブリンの攻撃を受け止め、トレイスが牽制をしながらそのまま車の方に向かっていく。車まで到着すると俺は扉を開け、中からあれを取り出す。そう、買ったばかりのブルームだ。


「お前!それ!」


「頼む!!いっけぇぇぇえええ!!」


 俺は持てる限りの魔力をブルームに流し込んで全速力でゴブリン目掛けて突撃した。


 どぐわしゃぁぁぁん…。物凄い音と共にブルームに跨った俺とゴブリンは思いっきり木に衝突した。目に見える凄惨な事故(故意)だ。余りの痛さに俺は腕を抑えぶつかった衝撃で折れたブルームを引きづりながら離れ、ゴブリンは明らかに足を持っていかれたような様子でうずくまったまま呻き動けないでいた。正直さっきのゴブリンよりも圧倒的に可哀そうなことをしてしまい申し訳なかった。

 ウルヴァはそんな俺を介抱しながら車に乗せ、トレイスが運転席に乗り込み出発すると俺達は何とかゴブリン達から逃げ出すことには成功した。




……———………


「へぇ…ラプんとこの兵を二人もノすとはなぁ。面白そうだし、ちょっと贔屓させてやるか」


………———……




 なんとか俺達三人クザスの村まで逃げ帰ってきたのは良いものの、今度はこっちでも大騒ぎになった。俺がラプスラストと接触したという事で、なんと俺は村を出禁になり村の外で野宿する羽目に…しかも今日来ていた服も全て処分されたのだ。理由は当然、彼女の細工を警戒しての事だ。いつ俺の身体や衣服に爆弾を仕掛けられたかなんて分からないし証拠もないからな…さらにいえば村の住民との接触も禁止された。

 ヴィレインさんのお屋敷で働いている職員が代えの服や寒さを凌ぐための毛布や温かい食事、簡易的な寝床とテントなど運んでくれた。中にはウルヴァやリーヴさんから受け取ったものがあった。それでも職員さんですらむやみに接触しないように距離を保たれると疎外感や寂しさで今までで一番寂しい夜を過ごす事となった。しかもせっかく俺のために大金を出してくれたブルームをその日のうちにぶっ壊してしまった、その辛さも心に追い打ちをかけてきた…。ちなみにトレイスは親父さんと自分の村に帰ったって話だ。

 しかし一人寂しく夜を過ごしていると、この世界が呑気なスローライフ世界なんかじゃないという今日あった出来事が思い出される。俺はまだこの世界で守られる立場にはいない…言葉では分かっていても、いざ実感して痛感した。今回は生きる事に死力を尽くし運がよかったから助かったが、次は本当に助かるのか?そのうち…俺のせいでこの村にもっと大きな迷惑がかかってしまうとしたら…俺は、これから先この世界で本当の意味で生きていくためには、スポーツをまたやるために必要なことは…俺自身が、戦う事なんじゃないか…?


 …―大丈夫、君は本当に強い。だから自信をもって…きっと立派な戦士になるよ—…


 …物思いに耽っているうちに疲れ果てて寝ちゃっていたみたいだが、気が付いたら朝になっていた。いや正確にはまだ日が昇る前の早朝だ。ここ毎日朝畑の様子を見に行く癖で同じ時間に目が覚めるようになっていたのだ。俺はテントから出るとうんと伸びをして村の様子を眺める。俺が起きるよりも早くから既にフィルさん達は活動しており、起きた俺に気が付いたのか遠くから手を振る。俺も手を上げ返事する。

 しばらくやることもなくぼーっと本を読んでいると、朝飯を運んできてくれたヴィレインさんのお屋敷にいたメイドさんと、ヴィレインさん本人が来ていた。…明らかにまだ寝むたそうな顔をしている。


「…おはよう…、ねむい…」


「おはようございますヴィレインさん…朝は苦手ですか?」


 黙ったまま頷き俺の目の前に無気力に書類を投げ落とした。すっげー眠そう…


「領爵主様に代わり私が説明いたします。ミナヅキさんはご飯を食べながら出構いませんのでお話をお聞きください」


 そういうとおつきのメイドさんが俺に食事を手渡した。中身は所謂フィッシュバーガーにスープ…と、リーヴさんのお手紙がついていた。おそらくリーヴさんが俺のために作ってくれたのだろう。


「ミナヅキさんには今日、この村を出て帝国首都《聖ルーマルコーランド帝都》に向かって頂きます」


 …いつか行くとは思っていたが、こんなにも急に行く事になるとは…、俺は言われた通りフィッシュバーガーを頬張りながら耳を傾けた。


「貴方が帝都でやっていただくことは主に三つ、一つ目は今回の一件をまとめた資料と共に帝国軍本部に報告に行く事、二つ目、彼女が貴方に仕掛けた細工や呪い、魔法の全てを解除していただき貴方自身が安全を保障されること。残念ながらこの村では全ての解呪及び解除作業が完全に行われません。帝都にある最新設備や技術者の元、安全の保障を確立させてください。最後に三つ目…帝都にて爵位叙爵の手続きを正式に行ってください。一応ヴィレイン様の名義でミナヅキさん用の仮の領爵を発行は致しますが…今回の一件を受けミナヅキさんの身分預かりを帝都に置くことが決まりました。隷爵でも兵爵でも構いませんので、どうかよろしくお願いいたします」


「…んっ、分かりました。…もしかして俺のために徹夜してくれたんですか?」


「いいえ、ただ心配で眠れなかっただけですよ。明日朝一番に説明に行くといった本人が夜更かしなんて…」


 はははと苦笑いする横で、いつの間にかヴィレインさんは座り込んだまま眠ってた。俺のためにそんなにも心配してくれたんだと思うと…いや、ヴィレインさんだけじゃない。リーヴさんやマートンさん、フィルさん…子供達、ウルヴィにトレイス。もっと多くの村のみんなが俺を受け入れてくれたのに、こんなことになっちゃって、心配もしている…。それなのに俺はみんなを心配にさせたまま帝都に行かなくっちゃならない。申し訳ない気持ちでいっぱいだった。だけど、もし、もし謝罪を思うなら、俺は一刻も早く帝都に行きみんなを安心させれる状態で戻ってこないと…そう思いながら俺は朝食を全て平らげた。


「ごちそうさまでした。ありがとうございます…すぐ出発の準備をしたいのですが…」


「迎えは呼んであります。もう来られるかと…、と言っていたら丁度いいタイミングでしたね」


 そう言ったメイドさんの視線の先に見慣れた車が走ってるのが見えた。助手席にはトレイスが、運転をしているのは昨日アトネムイゴラグーン共の血抜きをしていた時に見かけた獣医の…確かトーマス先生、だったっけか。二人とも自分の村に帰ったと聞いていたのだが…。車が走れるところで俺の近くまで来ると車を止めて車から降りてくるのが見えた。俺も二人の近くまで駆け出した。


「やぁ、君がミナヅキ君だね。トレイスから聞いたよ。本当に大変だったみたいだね…」


「あ、はい、えっと初めまして…トーマス先生」


 トーマス先生は俺に手を差し出してきてくれたので俺はその手をぎゅっと握った。近くで見ると顔の雰囲気はどこかトレイスに似てはいるが、随分なお年なのか髪や長く伸びた髭は真っ白で、言っては失礼かもしれないがどこか心労で痩せこけたような顔をしていた。


「ははは、私の名前を知っていてくれて嬉しいよ。さて早速だが、私が君達を帝都まで送ることとなった。理由は彼女達から聞いているかな?」


「はい…、たち?」


「あぁ、トレイスも一緒に帝都に行くことになったからな。この世界に来てまだ慣れないことも多いだろう、何かあったら頼るんだぞ」


「ミナヅキ、昨日は済まなかった。爵位もないお前を村の外に連れ出したばっかりに…」


「気にするなよトレイス。手伝うことは俺自身が決めたことだし、それにもしかしたらいつかこんな事にはなっていたかもしれない。それよりあの場所にお前とウルヴァがいたおかげであいつらに捕まらずに逃げれたんだ。むしろ助かったぜ」


「ミナヅキ…」


 俺がへへっと笑うと、しょぼくれていたトレイスの顔もははっと笑いを溢していた。すると遠くから誰かの声が聞こえ、声のする方を見るとそこにはウルヴァが大荷物を手に息を切らしながら走ってきた。


「あ、あっぶねー…間に合った…ぜぇ、はぁ…」


「ウルヴァ!どうしてここに」


「どうしたもこうしたもねぇよ。水くせぇな…俺も一緒に行くんだよ!畑のみんなにも、それから兄貴達にも話した。嫌っつってもついて行くからな!」


 ウルヴァの本気そうな態度に反して俺達はつい笑いがこぼれた。ウルヴァがこっぱずかしそうに小突くと、どつき返し三人での軽い小競合いが始まった。それを見ていたトーマス先生やメイドさんも笑いだす。


「お、そうだ、ミナヅキ、これ。リーヴさんから預かってたぜ。色々な荷物だ。お前の元居た世界の服も畳んでいれてあるってさ」


「あ、おぅ…俺の荷物こんなにもない筈だけど…」


「リーヴさんがこんな日が来るかもって前々から少しずつ揃えてくれてたみたいだぜ。あと足りないものがあれば帝都で買えばいいしな。それと中に一か月働いた分の給料と、村のみんなからの餞別、あとラブレターも入ってるぜ」


「そうか…ラブレター!?」


「へぇ、面白そーじゃん、あけよーぜ」


「いやせめて村出てからだろ、車の中でチェックな」


「な、なんでお前ら二人がちょっと楽しそうにしてんだよ!?つかそんな期待するようなもんじゃないだろ」


「んじゃあ別に一緒に中身見たっていーじゃねーか」


「お?期待してんのはどっちだっつーの」


「うるせー!」「お、やんのか」「鞄奪おーぜ」


「あー、お前等…楽しそうにしているところ悪いが、そろそろ出発してもらうぞ」


 俺達がじゃれあっていると、いつの間にか目が覚めていたヴィレインさんの声に手が止まる。近くで楽しそうにしていたトーマス先生も腕時計を確認すると運転席に乗り込み車のエンジンを吹かし始めた。ウルヴァもトレイスに聞きながら急いで荷物を全て車に投げ入れた。


「クザスの村から帝都まで休憩なしで走り続けてぎりぎり丸一日、トーマス先生にそんな無茶をお願いするわけにはいかないからな。二日かけて移動するか、途中の街で義勇兵爵の騎士団だか国衛兵爵に送ってもらうのを依頼するしかない。どちらにしてもあまりお前を放っておく時間はない。今のままではこの村の住民どころか帝国のどの町にいても国民に被害を出しかねない状況にある可能性のままだからな」


「車でも丸一日かかるのかよ…こうぱっと移動できる魔法や乗り物とかないんですか?」


「一応魔動鉄道があるがそんなものに今のお前を乗せてはくれないだろうし…遠く離れた場所に一瞬で移動する魔法自体はあるのだが、使うのに莫大なお金とエネルギーが必要な上過去に何度も多くの死者を出す凄惨な事故が発生しているため今では帝国上層部の厳密な管理下でしか使用出来ない法律が敷かれている。まぁ他に手はないと思え」


 それもそうか…今の俺が列車に乗れば場合によっては国家テロか…、なんか望んでもいないのに勝手にテロリスト扱いみたいなのに少し気が重くなるが、そもそも自分の車だけでなく命まで巻き込まれかねないってのに運転をしてくれるトーマス先生がいなかったら俺は歩いて帝都まで行かなきゃならなかったし、またラプスラストと出会っちゃうことを考えたら…正直贅沢なんて言っていい立場じゃないな。


「…お前の事だ、この一か月ずっと見てきたがお前ならきっとこの世界でもうまくやっていけるだろう、今回の件もすぐに解決はするし、どうせ三人で兵爵の叙爵も済ませるんだろう。そしたらお前は晴れて自由だ。…だから…」


 さっきからヴィレインさんはそわそわ落ち着かない様子で言葉を紡いでいる。


「…、…お前の好きなように生きていくんだ。この村の事は心配するな。お前の第二の人生、決して誰にも…あの魔人種の女に縛られるなんてそんなへまするんじゃないぞ。お前はこの村のみんなが認めたこの村の仲間だ。クザスの村の代表として、お前の旅立ちを祝福しているぞ」


 くぐもった声と震えた肩で言葉を必死に紡ぐヴィレインさんに、俺はヴィレインさんの潤んだ瞳をまっすぐ見つめて応えた。


「ありがとうございます。ヴィレインさん…俺、この村が大好きです。絶対帰ってきますから」


 そう言い残して俺も車に乗り込む。二人も既に車内で俺が乗り込むのを待っていた。ゆっくりと車が進みだした。最後に窓越しに見えたあの人の顔が、俺がきっとこの村に帰る理由になるのだと確信した


「おい、あれ」


 ウルヴァが村の方に指を向けるとそこには、朝早くだというのに村のみんなが集まっているのが見えた。フィルさん夫婦にマートンさんの家族一同、畑で一緒に働いてきた仲間、リーヴさん、そしてラン、シルク、パオラ、オルスト、エルヴァ…それにウルヴァのお兄さん達、ヴィレインさんのお屋敷の職員方に村の多くの住民が、両手を振り声を張って俺の出発を見送ってくれた。子供達は泣いているのが目に見えた。俺はなんとなく初めて村に来た時を思い出したが、あの時とは全然違うみんなの表情に俺は胸が熱く痛くなるのを感じた。気がついたら俺も窓を開け両手を振りかえした。俺の中にもう不安はなかった。俺達を乗せた車は明るい未来のような輝く朝日の方角へと走っていった。




 …———…


「…行っちゃいましたね。あーぁ、お嬢様のいーくじーなし~」


「…うるさい」


「なーにが、『お前の好きなように生きていくんだ。この村の事は心配するな。』ですか、昨日夜遅くまで考えていた告白内容はどこいったんですか?事がすべて片付いたら村に帰って来いって言うって話でしたよね?」


「…おまえ、くびにする…」


「そんな泣きべそ顔で言われても怖くないでーす。あーぁ、ミナヅキ君かっこよかったし、村のためにいっぱい頑張ったし、勤勉だったし、彼が今後のこの村のリーダーになって欲しかったですねぇ~…、誰かさんの籍に入るだけで叙爵問題も解決出来ただろうし、正直事故だったとはいえ勿体ないっちゃ勿体なかったね」


「……きらい…」


「はいはい、領爵主様は今日もお仕事があるんですからさっさと帰りますよ。それと、彼が帰ってきたときの為の準備もするんでしょ」


「…分かってる、さっさと帰るぞ」


「畏まりましたお嬢様」


本投稿を読んでいただきありがとうございます。SKMRでサキモリと申します。


ついに一応10本目の投稿にして、Episode2も終わらせることが出来ました。そしてそしてこれを最後に一旦クザスの村のお話はここで終わりとなります。ここまでまぁまぁ長かったですが…むしろこのお話の本筋には全く関係のないお話と言われればそうなのでこれから長い長い本筋をがっつり書いていきたいと考えています…が、実はまだプロローグ自体はまだ済んでいないので、もうちょっとだけこの世界の下地を丁寧に書きつつ皆に楽しんでいただける内容を頑張っていこうと思います。


また今回も誤字脱字、文章構成などまだまだ課題がありますのでよかったらアドバイスなどしていただければ幸いです。


次回は6/28に、以前もやりましたようにEpisode1のExストーリーを投稿しようと考えていますので、もし少しでも面白かった、続きが待ち遠しいと思えたら嬉しいです。次回もよろしくお願いします。

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