Episode0 神の話、そして人の話へ——— 前編
[主はこの世界を創った]
[この世界創りし主はありとあらゆる命を創った]
——……ぉぉ……———
[この世界創りし主は最後に人間を創った 11回創った]
—…ぉぉおおおぉぉ…——
[この世界創りし主は人間に言った]
おおおおおぉぉおお!!!
[11の類する者達よ 王をたてよ 11の王集いて 神の門を開かん 真なる平和の世を築く也]
「うぉおおぉぉ!!」
「うわああぁぁぁ!!!」
「きゃあぁぁぁぁ!!!」
飛び交う怒号、響く叫び声、そして一つまた一つと失われていく声…そこには燃え広がる炎と瓦礫の山、まさに戦火の渦中と言えるだろう…様々な姿の力を持たない弱い『人間』が逃げ惑い、瓦礫の下に隠れ声を殺し息をひそめて震える体を小さく縮こませ、遥か後方より迫る武器という強い力を持つ、こちらも様々な姿を持つ『人間』達が弱い人間達を…一切の命乞いすら許さず1人また1人と仕留めていく…
その中でも一際ガタイの大きい、銀色の毛皮を持つ狼の頭を持つ男の『人間』が近くにあった大きな瓦礫に登り、赤い大きな布…軍旗のようなものを高々と掲げて雄叫びをあげる
「よく聞け、ムロコナル大国の愚かな人民共よ!!この地区は我らティストレイ・トシヴェ連合国家の領地とする、命が惜しくばこの地を捨て去れ!!」
「った、隊長!!」
狼の頭を持つ男…隊長と呼ばれた男は自分の足元へと駆け寄ってきた、同じように頭が狼の男を睨んだ
「南西より敵影を発見。おそらくスタッド率いる雇われ傭兵団と思われます!」
「…増援か。ムロコナル大国の軍勢はほぼ壊滅状態だ、もはや手遅れと知らず…」
「どうしますか?このままではすぐにでも交戦となりますが…」
「……、…前線を下げ適当に戦いを長引かせろ。こうなった以上敵兵探しの意味がない、それより戦いに巻き込まれた市民が逃げられるよう我々の方が離れてやるべきだ。この瓦礫の下にまだ何人もいるからな」
「了解しました!」
指示を受けた男はすぐに伝達に動く。隊長と呼ばれた男も武器を持つ人間達…ティストレイ・トシヴェ連合国家の軍隊に混ざり瓦礫の山から離れていく。軍は既に多くの兵が既にとある方向に向け盾と弓を構え待機していた。そう南西から迫る雇われ傭兵団を迎え撃つ準備だった。隊長も軍の後方にて交戦に備えていた。
だが、状況は一変した。隊長の背後を高速で駆け寄り何かが飛び上がる。隊長は咄嗟に振り返り旗槍の柄で身を護ると、ガツンッッと鈍い音とぶつかる衝撃で周囲はどよめいた。そこには2mもの大剣を振りかざした若い大男が隊長に斬りかかろうとしていたのだ
「っは!完璧な不意打ちのつもりだったんだがな。やっぱそう簡単にはいかねぇか」
「これは驚いた、貴様はたった一人で何度も我らの進軍を邪魔し続けてきた悪名高き英雄ヴァイルハン殿ではないか。」
隊長がヴァイルハンと呼んだ男の大剣を振り払うと、その直後隊長の部下と思われる男数名がヴァイルハンに一斉に襲い掛かった。部下達の容姿は様々で先ほど伝令した男と同じ狼の頭の男達の他、体の大半にトラや象、鹿、熊の特徴を模した男たちが多く、動物らしい特徴のない男や耳のとがった男も数人混じっている。男達はみな剣や槍を手にヴァイルハンに突撃していくが、ヴァイルハンは手に持った大剣を軽々と振り絶妙な力加減で受け流していく。部下たちは受け流された程度では大したこともなくむしろヴァイルハンを取り囲むような陣形を取る。お互いの武器がぶつからず、且つ一歩踏み込めば武器同士がぶつかり合う絶妙な距離だ。そんな状況でもヴァイルハンはニヤリと笑みを浮かべる
「…恐ろしい男め、単独で敵軍勢の中に飛び込むなど自殺同然の行為。だというのに貴様はそんな死地を何度も繰り返し我々の作戦を悉く邪魔し尚生きて帰還する…その笑みが我々には脅威なのだ!!」
「ははは!それが俺の生き甲斐だからな!!楽しくてやめられねぇぜ!!」
「貴様ぁ!」
部下の一人が剣を片手にヴァイルハンに仕掛ける。大きく剣を振りかざす部下に対しヴァイルハンは大きな体躯を小さく縮こませ、さらには手に持つ大剣すら部下の持っている剣よりも小さいと錯覚するくらい体の陰に隠すように密着させ、大剣とは思えない小さな動作だけで鮮やかに部下の胴を一閃する。部下は大きく縦に伸ばした身体がゆっくりと下に崩れ落ちる
「っ!1人で戦おうとするな!いくら奴がいくつもの死地を潜り抜けた英雄だろうが単独という事実には変わらない!!波状攻撃で奴の体力を奪え、タイミングを合わせろ」
「ですが隊長!そうこうしてる間にも傭兵団が!」
「くっ、時間をかけさせるのと集中を分散させるのが狙いだ。分かってはいるが…くそっ、伝令を走らせろ!この場を凌ぎ合流を図るぞ」
隊長は旗槍を持っていない腕を上げハンドサインを行う。後方から翼の生えた男達が空を飛びながらヴァイルハンに弓矢を放ったり、何かを唱えると手から炎の球を作り出しそれを撃ち出した。ヴァイルハンはその放たれた矢や炎の球を持っていた大剣を片腕で支え盾のように弾きながら、取り囲んでいた部下達からの侠撃をもう片腕で捌いていなす。その間に隊長は先ほどの伝令の男に指示を飛ばしてから、旗槍を地面にさし部下達の波状攻撃に加わるように一気に踏み込み、ヴァイルハンの懐に飛び込んで腕に付いていた手甲鉤で下から切り裂こうとした。
「っつぶねぇ!?」
ヴァイルハンは咄嗟にたまたま片腕で掴んでいた槍を引っ張るとそのまま隊長とヴァイルハンの間に部下が割り込んでしまい、その部下が隊長の爪で引き裂かれてしまった。それでも隊長は止まることなく部下を突き飛ばしヴァイルハンに距離を取らせまいと踏み込む。だがその突き飛ばした部下の陰からヴァイルハンの膝が隊長の頬に命中、大きく顔をひしゃげ一瞬視界がゆがむ隊長に対し今度はヴァイルハンが盾に使っていた大剣を振りかぶる…だが寸でで隊長は咄嗟に距離をとることで直撃を避け肌の毛を数本斬る程度で済んだ。ヴァイルハンはそのまま振り被った勢いで周囲の部下を蹴散らし包囲を緩めさせた。
「隊長!ご無事ですか!?」
「…全隊員に告ぐ。スタッド率いる雇われ傭兵団の対処にあたれ、この男は俺が足止めする」
頬を腕で拭い血唾を吐き捨てる隊長の言葉に部下達は戸惑い動揺するも即座に行動に移り、取り囲んでいた部下達は陣形を崩し南西と思われる方角へと走っていく。
「…ははっ、参ったなこりゃ。俺が頑張って戦力分散させるって算段だったんだがな」
「あまりこちらを舐めるな。貴様らの残された戦力は把握している。だから今日、今このタイミングこそ我らの侵略を成功させなければならないのだ!!『繋げろ 死が別つまで 呪の鎖』」
隊長は言葉を紡ぐとヴァイルハンに何かを投げつけた。ヴァイルハンは咄嗟にその物体を防ごうと大剣を盾にするがそれは大剣に巻き付きながら徐々に腕の方に伸びていき、まるで枷のように腕に取り付いた。隊長の方にも同じように枷がついており二人が鎖で繋がれたような形となった。
「強制デスマッチの魔法か。ならお前を引きずって…なんてのは厳しそうだな」
「俺一人で貴様に勝てるとは思ってはいないが、応援が間に合うまで足止めするくらいはどうという事はない!!」
隊長は力いっぱいにまで鎖を引く。ヴァイルハンはガタイのいい大柄な男ではあったがそれでも力負けしたのか鎖で引っ張られると咄嗟に踏ん張ったが2歩3歩と前に歩かされる。
「うぉぉぉぉぉおおお!!」
「おおおおおぉぉぉぉ!!」
魔法が、矢が、血飛沫が、声が飛び交う。スタッド率いる雇われ傭兵団と赤い軍旗を掲げる狼の頭の男が隊長をしていた連合軍が今まさに衝突をしていた。
「駄目ですスタッド団長、敵の数で押されています!こちらが50人の精鋭に対し敵は数百の軍勢です。」
「くそぅ!ヴァイルハンのやつ何やってやがる!あいつが注意を引いての挟撃だっただろ!!」
怒りを露わにしているスタッドと呼ばれた傭兵団の団長は団員達と共に敵軍隊からの遠距離からの攻撃を凌ぎつつ突撃の機会を伺うが敵前衛も守りの固い布陣でじりじりと距離を詰め寄ってきており、こちらからの魔法や矢などは相手の遠距離で相殺したり前衛に防がれたりと頭数の差で衝突の兆しが見えず後退することしかできなかった。
「団長!敵側から伝令が抜けたと情報が、おそらく増援が来ます!!」
「くっそぅ、敵影が見えるまでにあのやろーが裏から引っ搔き回さねーならさっさと撤退するしかねぇ」
じりじりとお互いの距離が短くなっていく…そして敵軍隊の前線兵が一斉に突撃を開始した。傭兵団は全員が散開しこちらも突撃を始めた。お互い一気に距離が埋まりついに両軍が入り混じった大混戦となった。
「いいかお前ら!とにかくやられねぇ事を意識しろ!こんだけ入り混じって戦えば後衛支援の奴らは手出ししにくい!下手に倒すことより生き残る事を意識しろ!!」
他の団員に聞こえるように声を荒げて叫びながら目の前の敵を相手取るので精一杯なスタッド、だが指示とは裏腹に敵との混戦状態だというのに敵後方からの魔法やら矢やらがおさまる気配はなかった。しかも的確に傭兵団のメンバーを中心に狙ってきているのがわかる。圧倒的人数差に集中砲火、各個の無事が確認できない状況という不安状態がさらに精神力を削いでいく。味方は無事なのか、もう自分以外全滅してしまったのか…そんな考えが思考をかき乱しながらなんとか敵の攻撃を必死にしのぐ
「くっ…くそぅ!もう駄目だ!!せめて俺だけでもっっ…っ!?」
諦めかけたその時、敵兵が戦いそっちのけでざわつき始めたのに気が付いた。敵兵の目線に目線を向けると、傭兵団側後方より巨大な竜巻のようなものが突如として現れその竜巻は物凄い速度で混戦中のエリアに接近している。そして竜巻が混戦エリアにぶつかると物凄い風撃を防ぐために全員戦いそっちのけで身を固め、外からの後方射撃などは全て竜巻が弾き飛ばす…まるで傭兵団への助け舟のようだ。スタッドは咄嗟に剣を高く掲げて
「て、『敵を焼き撃て 飛べ 火の球よ』」
ドンッ!!っと剣先から赤と青の入り混じった炎の球を竜巻の内側で撃ちあげる。その火球を合図に傭兵団の面々は一斉に竜巻が来た方角へ走り出し次々と竜巻の壁にぶち当たり突き抜けていく。勿論敵兵も追いかけるが敵兵が竜巻の壁を抜けると遠くから少し大きめな光球を当てられ竜巻の中にはじき返され大きく吹き飛ばされていく。何人か飛ばされた後敵兵は竜巻からでなくなった。ほぼ傭兵団の全員が脱出できると走っている先に無数の光球が浮かんでおり、その下に5人の人物がいた。
「どうやら間に合ったみたいだな」
「い、イヴァンさん!?どうしてここに…全員南部からの強襲のために離れてたはずでは…」
イヴァンと呼ばれた全身が硬い緑の鱗に覆われたトカゲのような、まさしく衣服…淡い小麦色のを着たドラゴンのような見た目の男の『人間』が背丈ほどの大きな木の杖を持ったままスタッドに近寄る。
「ヴァイルハンの勘…らしいですよ。こっちに戦力を集中させた方がいいと」
「あ…あのヤロー!また勝手なことを…」
「ですが、どうやら予想は的中みたいですね。応援を含めおそらくティストレイ・トシヴェ連合軍の主戦力がここに集まることになるでしょう。もう南部で待機する必要はありません」
スタッドが怒りを露わにしているのをよそに、イヴァンの隣からイヴァンより背が高く背中に大きな白い翼の生えたエメラルドグリーンのロングストレートの女性がイヴァンと同じような杖を振るうと、上空に浮いていた無数の光球が一斉に竜巻に向かって飛んでいく。その後イヴァンが杖の石突で地面を二度叩くと途端に竜巻は晴れ中には疲弊した敵兵が何人か見つかった。
「ふむ…キャミリーの『光球』の魔法で既に殆どの兵は撤退済みだったか。混戦時よりも数が少ないな」
「撤退援護をしなければもう少し大打撃をいれれたかもしれませんでしたね。申し訳ございません」
「いやいや、撤退援護優先したのは間違ってないさ」
キャミリーと呼ばれた白い翼のはえた女性とイヴァンが軽く言い合っていると、竜巻と光球による攻撃に巻き込まれていない敵の後方本体が明らかに騒がしくなっているのに気が付いた。本隊の一部の人材が攻撃を受けたであろう疲弊した敵兵を介抱しに動いてはいるがそれにしては混乱してる様子が目に見えてはっきり確認できた。
「な、なんだ…?こっちの応援がそんなに想定外だったか?」
「なーにバカなこと言ってんの。ほら、《計画通り》突撃してこい。アタシんとこの連中も追いつき次第突撃させるつもりだからさっさと行け」
「がっっ!?い、いってーよニーヤ…お、お前らいくぞー」
敵陣営をぼーっと眺めているスタッドの背中を思いっきり蹴り飛ばす肌が文字通り青白く長い耳を持つニーヤと呼ばれたグラマーな体型の女性。蹴り飛ばされたスタッドはよろめきながら慌てて剣を掲げながら傭兵団を率いて再度突撃する。傭兵団に続きイヴァンやキャミリー、ニーヤ、それと大きな弓を背負った金髪で戦場に似付かわしくないお洒落なドレス姿の豊満な胸の女性と、この中で一番背丈が高く頭が黒い毛に覆われた犬の頭を持つ長い棒を持った男も共に突撃する。敵軍勢は先ほどとはうって変わりかなり混乱した状態で、迎え撃とうとする者もいれば撤退しようと下がるもの、その場で狼狽えたり近くの者と口論する者もいたが衝突までにさほど時間はかかることなくまたも混戦となった。
先ほどとは戦局は大きく変化し敵軍勢の連携はあまり取れず、さらに後方からの援護射撃が殆ど飛んでくることはなかった。さらにキャミリーがその背中の大きな翼で空を飛び先ほどと同じ『光球』で的確に撃ち落としながら、交戦中の敵兵に向け空爆を行った。だが敵軍勢もそれを黙っているわけにはいかなかった。様々な翼を持つ兵士達が一斉に飛び上がりキャミリー目掛けて様々な武器を構えて突撃していく。キャミリーは持っていた杖で受け止め弾くが数に圧倒され空中で押されていく。だが突如地上から三本の矢が撃ち上がると敵兵の翼に刺さり、三名の兵士がうまく飛行できなくなり墜落していく。キャミリーが地上を見ると共に突入した金髪ドレス姿の女性が弓を手にしている姿が見えた
「あら、ごめんあそばせ。援護は不要だったかしら?」
「いえそんなことはありませんよ。フォローありがとうございますアリーチェ様」
アリーチェと呼ばれた金髪ドレス姿の女性とキャミリーが見合ったままふふふと笑う。キャミリーは持っていた杖をくるくると空中で優雅に全身で回して構えると迫りくる一人の敵兵を杖で攻撃を捌き、まるで杖を支えにしたかのように空中で敵兵の腹に強力な蹴りを入れ地面に叩き落とした。他の敵兵は今の様子を見て警戒し、うち一人が鎖を勢いよく投げ杖に巻き付かせ引っ張るが、なんと杖が空中で留まり、杖に巻き付いて伸び切った鎖の上に乗りそのまま走り鎖を持った敵兵の横顔をその勢いのまま思いっきり蹴り飛ばした。蹴られた敵兵は気を失い、空中で留まる杖に鎖で繋がれているため宙吊り状態となったがキャミリーが再度杖を持ち鎖を外すとそのままその敵兵は真下に落下した。キャミリーは残った敵兵の警戒をしながら視線を下に移す。
先ほどキャミリーに援護をいれたアリーチェは得物を弓から二振りの剣に変えており、くるりくるりとまるでダンスをするかの如く華麗に攻撃を捌きながら周囲の複数の敵兵を同時に相手していく。
「誰か私とご一緒に踊ってくださる素敵な殿方はおりませんこと?」
明らかに踏ん張りの利かない体勢な上華奢な女性が屈強な男性の兵士の攻撃を捌けるわけがない。筈なのに、その攻撃のすべてがアリーチェの剣が当たるだけですっと軌道が彼女から逸れ、そのすきにカウンターの一撃をいれられる。さらに一切の隙がなかなか見つからない事に敵兵はたじろぎ距離を取ることしかできない。だが一人の背の低い敵兵がその身をさらに縮こませてアリーチェの足元を狙おうと彼女の剣よりも早く素早い動きで彼女に急接近する。だが次の瞬間その敵兵は彼女よりも高く宙を舞った。ドレスのスカートの中が大ぴらに、アリーチェの足が、ハイヒールが頭よりも高く敵兵を蹴り上げたのだ。
「レディのお足元に近づくなんて、失礼ですことよ」
何人かの敵兵は赤だ…と小さくつぶやいた。
「…レディがそんな風に足を高々と上げるのははしたない事ではないのか…」
アリーチェの近くで黙々と長い棍で敵兵を倒す黒い犬の頭を持つ男。服装は敵兵の獣姿の人間達とは異なり、敵兵は統一された国紋の入った軍服鎧に対し黒い犬の頭を持つ男は布が腰布くらいしかなく、ほぼ裸の上に黄金の装飾品がついているという格好だった。そんな黒い犬の頭の男に対して獣の特徴を持つ敵兵は明らかな苛立ちを見せていた。
「貴様、我らと同じ『獣人種』なのに何故我らと共に来ない!」
「私は砂漠の街ワルダイースに古くから生きるアヌビスの一族の一人ジュセル。ワルダイースはアーテュール殿と共にお前達ティストレイ・トシヴェ連合国家と戦う道を選んだのだ。」
そう言うと高身長と長い棍のリーチを生かし敵兵の得物の射程の外から薙ぎ払い蹴散らしていく。
「ふふっ、ジュセルさん。パーティでそんな堅苦しくなくてよろしくてよ。本音で言ってあげたらどうです?お前たちのやり方は気に食わない、と」
「…アリーチェ」
「あーら、ごめんあそばせ♡」
アリーチェがおちゃらけて戦うのに対し、ジュセルと呼ばれた黒い犬の頭の男は淡々と敵兵を相手していく。そして一人の敵兵と組み合っている時にその敵兵の声が聞こえた
「気に食わない、か…そんなことは我々も分かっている。だがこの侵略はやめることは出来ないのだ。そうじゃなきゃ俺達はみないつまでも苦しいままだ…」
「…仲間が失礼なことを言ってしまった」
「気にするな、同情で腹は満たされないからな。それに…俺達の中にも納得してないやつもいる。ま、納得していなかろうが死にたくなきゃ参加せざるを得ないしな」
「…」
ジュセルは黙ったまま棍で敵兵を弾き飛ばす。先ほど話していた相手を地面に叩きつけ継戦不能に陥ったのを確認する。そんなジュセルの背後に音もなくニーヤが急に現れそっと背中を撫でる
「ジュセル、あんたは無理にこの戦いに参加しなくても…」
「ニーヤ…俺の故郷ワルダイースもまたこの侵略の被害者でもあるんだ。たとえ我が種族の『王』がいるとしても、俺は受け入れるわけにはいかないんだ。同種でも戦うことを決めたのだ…」
「そう…ま、あんたの勝手にしな」
そう言い残してニーヤはジュセル達の戦域から離れるように敵兵の中を走り抜けていく。ニーヤはそのまま混戦エリアから抜け出すと敵軍勢の後方部隊まで一気に駆け抜けてきた。そこには先に敵集団から抜け出していたスタッドが3人の部下を引き連れて戦っていた。
「ちっきしょー!あのヤローはどこに居やがるってんだ!おい!聞こえてるなら返事しやがれ!!」
スタッドが交戦しながら怒鳴り散らかしているのをよそにすっと敵兵の間をすり抜けていく。少し突入すると敵兵が散開しているのがわかる。その中央に…ヴァイルハンがいた。ヴァイルハンは腕に鎖がついておりその鎖の先には狼の頭の男がいた。いい装いから階級の高い…おそらく軍隊長を任されているものと繋がれた状態だった。
「おぉニーヤ!丁度いいところに、これ解除してくれねぇか?」
ヴァイルハンがニーヤに気付き、交戦しているにも関わらず片腕で大剣を振り上げブンブン振る。ニーヤは呆れたように溜息をついて敵兵の攻撃をひらりひらりとかわしながらヴァイルハンに近づく
「…ヴァイルハンさん、その手の魔法の解除ならあんたでも十分出来るでしょ?」
「はははっ、きつい事言うなよ。わりぃけどちょっとこいつ外す隙が無くってな」
そういうと鎖の先に一気に走り、敵兵の隊長に大剣の一閃を浴びせるが、隊長はそんな直線的な攻撃は見透かしてるかのように太刀筋に対し真横に大きく飛び避ける。そんな隊長はヴァイルハンを鋭い眼光で睨みつけている
「…外すことが出来ないからと俺を誘導し、隊から貴様を離すことさえもさせないとはな…。少数ですら勝つための布石に抜かりない貴様の采配は恐ろしい限りだ」
「おいおいよしてくれよ。こっちもあんたのせいで負けるかもしれなかったんだぜ。ひやひやもんだったんだぞ」
周囲の敵兵を大剣で薙ぎ払い、その剣をニーヤはひらりとかわし、一度に複数の敵兵が一気に弾き飛ばされる。その隙を狙って隊長が仕掛けようとするが既にヴァイルハンは応戦出来る状態で隊長を睨みつけると諦めて再度距離を取る。だが距離を取った隊長の背後に一気に回り込み密着距離から大剣を今度は小さく振るい仕掛けるが隊長は咄嗟に手甲鉤で受け止めるが力負けして、先ほどヴァイルハンがいた場所まで大きく弾かれる…いや、自分から飛んだようにも見えた。その場所にはニーヤが残っておりニーヤは持っていたナイフで隊長に斬りかかるがそれも手甲鉤で防がれ、背後から敵兵が襲い掛かってくるのを躱し離れヴァイルハンの傍まで華麗に飛んで移動する。
「…な、逃げられちまった、解除する隙もねぇ。」
「やはり、貴様の解除は俺を直接掴むことで可能にする。貴様がやけに視界を奪う攻撃や片腕でその重剣を振るっているのがなによりだ」
「ほら、バレバレだ…っつーわけで頼むよニーヤ」
「へいへい、分かりましたよっと…、『食い尽くせ 魔を覆い 全てを熔かす愛よ』」
けだるそうにヴァイルハンの腕に繋がれた鎖を掴み、小さな声で呟くと鎖に黒い靄が、まるで侵蝕するかのように覆い広がり隊長の腕近くまで徐々に進む。隊長はそれを見て焦り咄嗟に腕に力を込めるとまだ浸食されていない鎖部分が弾け飛び、そのまま地面に落ちた黒い靄もまたゆっくりと風に乗るように分散していった。
「…咄嗟に自分から強制解除したわね。ま、当然ね」
「ふぃー、よーやくこれで思いっきり暴れられるぜ」
嬉しそうに大剣を持ったまま両腕をグリングリン回すヴァイルハン、その傍らでナイフを構えるニーヤ、その二人を警戒しどんどん距離を離す敵兵達、隊長も焦りとさえ取れるような緊張した空気を醸し出して要警戒する。すると敵兵で囲っている二人とは反対に外側から大きな衝突音に怒声のような叫び声、そして敵兵の悲鳴と共にどんどん迫ってきている人影…先ほど後衛部隊の前線と戦って置き去りにしていたスタッドだった。スタッドは敵兵を警戒しながらもずかずかとヴァイルハンに急接近する。
「見つけたぞヴァイルハン!てめぇなに呑気に作戦に遅れてんだ!危うく全滅しかけたじゃねーか!!」
「ははは、元気そうで安心しましたよスタッド隊長。大丈夫だって信じてましたよ」
「ヴァイルハンさん、こんな奴に敬語なんていらないよ。ほっといても死なねーんだから」
「るっせぇ!つかお前はもっとちゃんと年上を敬えニーヤ!!」
笑い、怒り、呆れる異様な三人に痺れを切らした敵兵達が一斉に襲い掛かるが、三人はほぼ同時に三方向に散開し、ヴァイルハンは大剣を盾に突進し3人程の敵兵を大剣ごと手離して突き飛ばすと近くにいた槍持ちの敵兵の頭を鷲掴みにして片腕で持ち上げ背中から一気に叩きつける。意識のない敵兵から槍を奪うとその槍を軽々と振り回して穂先に近い柄部分で殴り飛ばしたり、石突で背後の敵を突き飛ばしたり、敵の攻撃を防いで蹴り飛ばしたりと暴れまわり、5人程槍で殴り倒したあたりでボキリと折れてしまった。折れた槍を見た敵兵達が一斉に襲ってくるがヴァイルハンは驚き呆気にとられつつもすぐに冷静に折れた槍で様々な武器を受け止め弾き返し、穂先の方を敵兵に投げつけて倒し石突側は捨てて、先ほど手離した大剣を拾い上げてお互いににらみ合った。
ニーヤはぼそりと呪文を唱えると、口から先ほどと同じような黒い靄を吹き出し敵兵に纏わりつく。途端に纏わり付いた敵兵は悶え苦しみながら倒れ、必死に助けを求めようとした他の敵兵にしがみつくとその靄はその敵兵にも侵蝕し、その様子を見た無事な敵兵は靄のついた敵兵から離れていく。
「安心しな、ただの魔力を喰らうだけの魔法だからね。命までは取らないさ…ま、魔力欠乏症で死ななきゃの話だけど」
靄で混乱している間に敵兵達の上空に飛び上がるニーヤ、持っていたナイフを一振りすると触れてもいない筈なのに複数の敵兵が同時に切り傷を受け、敵兵の形を踏み台に再度飛び上がりさらに何度もナイフを振り回すとどんどん敵兵達が切り傷まみれになっていく。だが切り傷だらけの敵兵の一人が構わず突撃槍でニーヤを突き貫く。だがその瞬間ニーヤの身体が揺らぎ、その揺らぎが徐々に大きくなるとニーヤの身体そのものが虚空に消える。敵兵が驚きのあまり固まっていると突如前に倒れ込み、その敵兵の後ろにニーヤがナイフを手に立っていた。その一部始終を見ていた敵兵達は困惑し武器を構えながらニーヤから距離を取った
本投稿を読んでいただきありがとうございます。そして初めまして、SKMRでサキモリと申します。
こういったものへの投稿も、そもそも小説を書くのも初めてで何から何まで初めて尽くしではありますが、急に思い立ってやってみようと考え始めて筆を執ってみました。
実は4月頭に投稿をしてみようと思いながらも自分なんかが…なんて考え全然投稿に至らないままずるずると時が経ってしまったことはここだけの話です(笑)
完全初心者ながらも一生懸命書いて行こうと考えています。誤字脱字や執筆方法などのアドバイス等なんでも受け止め改善し、自分も一人前の作家となれると嬉しいです。
昼日中は仕事をしていて夜にちょっとずつ書き進めていくつもりで考えており、毎週土曜に1万文字程度のものを投稿していけるように頑張っていこうと思ってます。
今作品は元々昔から温め続けていたもので、Episode1以降は一応主人公にスポットを当てて話を進めていくつもりではあるのですが、主人公よりも主人公たちが達が生きる独特な世界観を可能な限り楽しめるようなそんな書き方を意識して書いていきたいなと思っています。
その独特な世界観ゆえの世界観説明や設定説明と、主人公たちを中心とした物語としての描き方のバランスが偏らないように頑張っていくつもりです。
今回はEpisode0の前編分のみの構成となっており、一応全エピソードは前編・中編・後編の三部構成合計約3万字で投稿していくつもりです。まぁ理由としましては継続的な投稿をすることと、一週間で書ける文章量が多分1万字が限度かなと思い、1Episodeを3万字で纏めるように心がけたストーリー構成が綺麗かなと…素人考えですがもしこのやり方がお勧めですよというのがありましたら教えてください。
次回は4/26にEpisode0の中編を投稿予定です。もし少しでも面白かった、続きが待ち遠しいと思えたら嬉しいです。次回もよろしくお願いします。