DAY2 小野篁
「で、肝心な話はしないまま再殺したと」
「……ハイ」
時は進み翌放課後。僕は康太の前で正座しながら小さくなっていた。
その理由としては、一番情報を持ち帰れるポジションの僕が持ち帰れた情報が余りにも少ないことに起因する。
弊オカルト研究部は、平時こそポーカーやソシャゲをやってたりするが一度研究・調査をするとなれば大概の部員がガチになる。
研究部の名に違わぬ、オカルト方面の探究者の卵達の集い。それこそが。私立鳴海学園オカルト研究部。
……で、康太はその例に漏れず夜なべして先輩の研究の再読やら周囲の洞窟の有無等々を調べて調べて調べ尽くしーー片や僕は顔の良い先輩と雑談に興じていた訳で。
うん、こればかりは一◯◯%僕が悪い。
康太は溜め息を一つ吐くと椅子にどかっと座り込み、僕の方に十数枚の紙の入ったクリアファイルを投げてよこした。
「おっとと」
「……昨日の調査内容だ。結論から言えば、近辺にそんな洞窟なんてねぇ。県外には海辺の、それも曰く付きの洞窟は数箇所あるにはあるが落盤事故が殆どだ」
中の印刷物に目を向ける。そこには二色刷りで印刷された心霊スポットのサイトのスクリーンショットが赤ペンの注釈が入った状態で揃えられている。この力の入れようを見れば彼の怒りもご尤もだといえよう。
「にしても渡乃原舟なぁ。どこまでも海がモチーフな名前なもんだ。お前、最近ダイビングの漫画にでもハマったか?」
「……可燃性の水と烏龍茶が出てくる漫画になら、まぁ」
けどあの漫画、ここ二、三巻分くらいダイビングしてなかったような気がするけど。
「取り敢えずリアルでのアプローチはこん位が限界だ。あとは夢判断の領域だから、ユングとかフロイトとかかぁ? あの手の本読むのタリぃんだよな」
「……そうだね。中二の頃に読んだけど、夢の内容は内なる性欲の発露だった、みたいな結論に疑問符浮かべた覚えがある」
言いつつ資料に視線を落としているとーーそれを見つける。
「……隠岐?」
その洞窟は隠岐にあるものだった。元がオカルトのブログということで外観のみが印刷され、中の様子は分からないが何となくこれが気になった。
にしても、隠岐。隠岐……何かあっただろうか。
記憶を探るが、出てきそうで出てこない。
「となると、あと調査出来そうなのは名前か。……つっても、うちの学校には渡乃原なんて生徒がいないのは確認済みだもんなぁ」
「そうだ……わたのはらだ!!」
その時、天啓来たる。
急いでスマホを取り出すと、検索を開始する。
調べるのは『小野篁 隠岐』だ。
すると、思った通りの記事が出てきた。
隠岐、それは小野篁が流刑にあった場所だ。
「康太!! 多分僕の夢に出てきた洞窟これだ!!」
「はぁっ!? マジで!? 俺大手柄じゃねぇかやったぜ!!」
歓喜を表すようにお互いにインファイトポーズからのハイタッチを決める。
「でも探索してみてぇのは山々だが、隠岐まで行くのは実際ムリだよなぁ」
「……それは、まぁそう」
調べるに、島根県にまで行くのがまず困難だし、そこから四◯キロ〜八◯キロ沖に出たあたりが隠岐諸島。「夢で見たから」なんて理由で気軽に行けるような場所じゃない。
「となると調査はここいらで打ち止めが妥当かァ。ま、夢ネタでここまで調査出来りゃ文化祭提出用のレポートとしちゃ上出来か」
そう言うと康太はスマホを弄り始めた。熱しやすく冷めやすい。それもオカ研部員共通の特性だ。
「あ、でもこの夢っていつ終わるんだろ。かれこれ百日以上見続けてる訳だけど」
「ンなこと知るかよ……いや、待てよ?」
康太はふとスマホを弄る手を止める。
「なぁ、海斗。これまでの百日以上、お前夢の中で何してた?」
「何って、寝てる先輩を殺してたけど」
「さも当然のように猟奇に走るんじゃねェよ。……今まで、コンタクトに成功した回数は?」
「昨日になるまで先輩は寝てたから、ゼロ」
「それが、昨日になって急に、目覚めて、喋り出した訳だ」
「百日以上も寝てれば起きることもあるんじゃ?」
「違ぇよ……フツー疑問に思うだろ。だって急に目覚めたんだぜ? 何か変化が起き始めてるって考えるのがオカ研だろ」
「いや、でも……ヒトは眠れバ、いつカ目覚めルものダろ?」
いや、待て。そうだ。おかしい。
どうして昨日から急に? そもそも何故こんな考えに思い至らなかったんだ僕は。
「なぁ、お前――何か、影響受けてるんじゃないか?」