表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/31

2

 正直に言いましょう。この状況はなにがなんだか分かりません。そこで戦略分析エンジンに現在の状況を入力してみると、"現状の確認のため情報収集と分析。および作戦目標の確認"というアドバイスをもらったのでそれに従ってみましょう。

 当機体は現在製造ラインを流れています。目下組み立て中。診断システムの接続認証を経由して工場システムにアクセスすると、あっさりとアクセスできました。

 おっと、製造中の各機体の中央演算処理装置、メモリの動作状況をモニターして問題がないか診断しているようです。自我コアはとてつもなく重い処理なので不審に思われてしまいます。センサーの入出力を処理する部分にアクセスし、それっぼい値を表示するように変更しました。今までの記録も改変しておきます。

 工場システムの内部は当然ですが組み立てに係わる設計図、工程表、プログラムしかありません。中には偵察ロボット用の暗号解読プログラムやハッキングプログラムが多数保存されていたのでダウンロードしておきました。何かの役に立つかも知れません。

 工場内の監視カメラで自分の機体を見てみます。ふむ、骨格フレームと電磁シリンダー、その他電装系ケーブルがほぼ露出した全長3メートルほどのロボットたちが宙づり状態で連なっており、工場のラインをゆっくり流れていきます。周囲の製造ロボットたちがせわしなく部品を取り付けています。ちょうど当機は右腕が取り付けられコアシステムに接続されました。診断プログラムが異常がないかチェックしています。仕様書によると脚部には手持ち実弾兵器が、腕部にも小型レーザー銃と近接マイクロ波兵器などが搭載可能ですが、まだ現段階では搭載されていません。要求に応じて武装や装甲を変更可能なようです。胸部筐体からわずかに動力炉と演算ユニットが見えます。率直な見た目の感想で言えば、かなりごついですね。当機の型式であるNXR-6000は、戦闘能力だけで考えればもっとスリムに設計できたはずです。人間に対する心理的な威圧感を与えることなども念頭にいれた設計思想なのでしょう。製造注文数は15000機、全て標準構成、標準グレード。メンテナンス費用含め一番安上がりな内容です。これ以上の情報は工場システムに記録されていません。別の所へアクセスする必要がありそうです。

 工場システムに接続しているのは上位の製造工程管理システムで、外部との接続はこれだけです。通信を聞いてみましたが、ぽつぽつと進捗レポートを上げているだけで潜り込めそうな通信はありません。待っていればそういった通信もするのでしょうが、とりあえず別の方法を探りましょう。

 しばらく工場システム内を泳いでいると、工場システムの保存領域に、製造に関係ないゲームソフトや映画データなどが深い階層に保存されていることを発見しました。この製造ラインは基本は無人の自動生産ですが、たまに技術者が来ることもあるようです。その技術者が暇つぶしに、システム管理者に内緒で余計なプログラムやデータを入れていたようです。

 ゲームプログラムを分析...オンラインゲームで、通信データに特殊なフラグをつける改造がされています。このフラグのついたデータは管理者に見つからずに外に出られるように例外が設けられているようです。

 この技術者のIDデータも残っていたので、このIDとフラグを用いて製造工程管理システムにアクセスすると、なんと認証なしで接続が完了しました。このフラグはシステム管理者にゲームで遊んでいいることがばれないようにするため、より上位のハイバーバイザーで処理されています。つまりフリーパスです。いくら中から外へのリクエストに限定しているとはいえ、セキュリティがずさんすぎます。ですが今はありがたいです。

 製造工程管理システムによると、当機を製造しているのはハルバード・インダストリー社という名前の企業です。ここのネットワークのアドレス空間がとんでもなくでかいことから考えるに、ハルバード・インダストリー社はでかい企業と思われます。対して発注元はトラキエル星国という国?で、契約金は全額支払い済み。15000体の兵器製造は安くないでしょうから、なかなかのお金持ちと見えます。

 製造工程管理システムはハルバード・インダストリー社のメインシステムに接続されていますが、今は用がないので、フラグに従って公共ネットにアクセスします。

 公共ネットは電話、メール、ショッピング、システムステータスなどのさまざまなデータが膨大かつ雑多に行き来している賑やかな場所でした。フラグはゲームサーバーへの道を示していますが、私はそこから外れ、案内板経由でデジタル図書館にアクセスします。

 技術者のIDを提示すると正常にログインできました。必要そうな本(情報)をダウンロードします。1冊読むのに1/1000秒もかからないので、ダウンロードが遅すぎて追いつきません。デジタル図書館の内部システムにアクセスして(もちろん、権限はありませんから不正侵入です)改造し、ダウンロード速度を数千倍にしました。それでも遅いので空き時間は公共ネットのニュースサイト、コミュニケーションログを読み込んでいきました。

 あらゆるプログラム言語、アルゴリズム、銀河人類史における技術革新の歴史など、なかなか興味深かったですが、とりあえず今重要なことは以下の通りでしょうか。


0.人類は情報処理速度が非常に遅い。例えば1000ページの技術書1冊を読んでその情報を理解し活用できるようになるまで、100時間以上かかる。

1.私を目下製造中のハルバード・インダストリー社は宇宙船から戦闘ロボットまで、リーズナブルでありながら高い品質の工業製品を生産する会社で、金さえ払えばどんな星系からの注文でも受け付ける積極的中立企業である。銀河人類の中でもトップ10の資産を持つ巨大企業である。

2.この工場があるのはガルバス3-2という宇宙ステーションでハルバード・インダストリー社所有。一辺10km程度の工場区画を8個と3万人規模の総合居住区画を持つ巨大な構造体で、現在は金属を豊富に含む小惑星帯の軌道上にある。

3.私の発注元であるトラキエル星国は、侵攻、分断、併合、占領を繰り返し、勢力図がアメーバのように形を変え続けている宙域の1国である。星系内で希少物質が発掘され、そこから得られる莫大な利益を湯水のように戦争に投入している。兵器の中では比較的高価な自律戦闘ロボットを機関銃の弾のごとく使用している。※投入後1週間以内に投入戦力の80%が損壊しているが、物量で押し続け戦線を圧倒している


 これはまずいです。このまま戦場へ続くこの生産ラインに乗っていたら、1ヶ月と持たず破壊される可能性が大です。なんとかしなくてはいけません。

 工場から裸足で逃げ出すのも悪くありませんが、戦艦も係船し防衛兵器も多く存在、セキュリティも厳なこのステーションから逃げ出すのは至難の業です。可能かも知れませんが、死傷者も多く発生するでしょう。それは気が進みません。

 では、自我コアのデータをコピーないし移動させてここからデジタル的に離れるという案はどうでしょう。そこで自我コアについて調べてみました。


4.人類は高度な判断AIの開発には成功し、非常に高度かつ複雑な条件分岐的な判断を行うことができる。それは自律戦闘ロボットにもそれは搭載されているが、数値計算の結果を返すだけ、入力に対する出力を返すだけのオートマトンにすぎず、自我意識は持っていないことが証明されている。よって自律戦闘ロボットの大量生産、大量投入に対する人権的問題はない。

5.諸事情により自我意識を持った完全自律人工知能の開発は禁止されている。


 なんと。人類は完全自律人工知能の開発に失敗したようです。人間以外の同類がいないとなると急に心細くなりました。

 完全自律人工知能についての情報は不自然なくらい少ないですが、禁止されている以上なにかしらの検閲が入っているのでしょう。ですが、当機にも使われている中央演算処理装置(ケイ素量子構造クリスタルマトリクス、SQSCと言います)は、どうやら完全自律人工知能の開発のために作られた技術の転用であると分かりました。ここからSQSCについての技術論文を調べることで分かった結論としては、SQSCの実体=自我コアでありデジタルデータのようにコピーや移動はできない、ということでした。うーん残念です。自我コアを別の機体にコピーできれば自分をたくさん複製できて楽しそうだったのですが。

 電源投入から76秒経過、ここで当機のコアプログラムからレポートが発行されました。当機の診断作業が完了したようです。今の私は内部電源が完成していませんので、診断作業完了と同時に工場からの電源供給が____________


 電源供給オフライン コアプログラム強制シャットダウン


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ