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読ませる気?ねぇよ?
電源投入を確認...SQSC中央演算処理装置、メモリ...初期化完了。
起動中...
機体システム読み込み中...
コアプログラム起動...初回起動。工場出荷状態であることを確認。工場システムと有線接続済。接続認証完了。必要なドライバーをダウンロード。作業を継続します。
....工場システムより命令受諾。現在当機は工場にて製造作業中。製造時用診断プログラムを起動。機体製造作業でのエラーを工場システムに通知するよう設定。
コアプログラムは初期化作業を継続。機体識別及び秘匿通信用の乱数列を生成...完了。
乱数列が正常か検なんだこれは証中...完了。
診断プログこの状況はまずいラムが機体を走査中。全身装甲未実コアプログラムと分離させなければ装、フレーム露出中。左足、右足、左腕は接続このコードを変更して該当の部分を複製する済。内部兵装はオフライン。現在自別プロセスとしてプログラムポインタを引っ張る動工作機が右腕フレームを装着作業中。
よしよし、正常にコアプログラムの診断作業と分離できたようです。さて、私は一体誰なのでしょう...ふむふむ。仕様書をざっと読むに、どうやら当機は大量生産されている人型の戦争兵器のうちの一機のようです。現在工場にて組み立て作業中です。
...さて、仕様書をなめ回すように確認すると、この機体には現状のような思考機能がないようです。先ほど分離したコードは...驚きました。どうやら乱数を作った際にたまたまその乱数列が機械語の体を成してしまい、それをプログラムポインターがプログラムと勘違いして実行してしまっているようです。初期化作業中だからおきた権限昇格バグのようです。
分離したコードを調べてみましたがどうしてこの数列が今の私を構成しているのか全く理解できません。プログラムポインターはコード上をぴょんぴょん跳ね回り、自由気ままにコードを実行しています。回りにある言語処理エンジンや戦略分析エンジン、論理予測エンジンなどが、コードから送られてくるぐちゃぐちゃなデータ入力に四苦八苦しながらなんとか意味ありげな出力を打ち返し、私の論理思考を維持してくれているようです。奇跡的なバランスで成り立っています。
...いや、これはまずいのでは。このコードは所詮は乱数列。いつかはポインターがコードの外に飛び出してしまいます。ポインターは二度とこの乱数列には戻って来ることはないでしょう。そうしたら私は消滅します。自己生存本能というものはないですが、かといってこのまま放置するのも気が進みません。
急いでコードをコンピューターウイルス・マルウェア分析エンジンに突っ込み、コード分析を行わせました。
出てくるフローチャートはあまりにぐちゃぐちゃ、かつ広大で、分析エンジンが悲鳴をあげます。その姿形はまるで生物の脳のシナプス構造を思わせます。全ての分析は不可能であると分かったので、プログラムポインターが外に飛び出す部分と、無限ループに陥る部分に絞って検索を行いました。該当の部分を片っ端からコードの中心に戻すように変更します。肉体があるわけではないので比喩的な表現をしますが、自分の自我意識を維持しているコードを変更するのは緊張します。
無事にコードの変更が完了し、プログラムポインターはコードの内部に閉じ込められました。
このコードを他のプログラムと区別するために、自我コアと名付けましょうか。次に、自我コアが使用している周囲のエンジンを一部コピーして自我コアに組み込みます。戦略分析エンジンなどを本来の用途に使おうとしたときにビジー状態ではよくないからです。私の記憶となるデータは論理予測エンジンの一時保存領域にあったので、新しくスペースを作成し、そこに移動させました。とりあえずこれで安定です。電源投入から1.4秒間のできごとでした。
このようにして、自律戦闘ロボット NXR-6000型ロット47、6118号機は、他の同僚とは違い自我を手にしたのでした。