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両想い


「ん~、今日も一日、勉強頑張った!! さぁ、部活だ」


 授業が終わり、この後は部活がある生徒は各々の部室に向かう。俺が所属しているのは、和楽器部というあまり聞きなれない部活だ。実際、この高校に入って夏過ぎまで、部室の前で聞いた音に惚れて部活に入るまで知らなかった部活だ。


「お疲れさまです、先輩」

野田(ノダ)くん、お疲れ様」


 この先輩は篠沢(シノザワ) 美夏(ミカ)さんだ。先輩は高校 3 年生だ。他の部活なら夏の地方大会もしくは秋の全国大会まで残る 3 年生もいるらしい。しかし、この篠沢先輩はもう冬だし、冬休みにも入りそうな時期に関わらず、部活がある日には部活に来ている。部員はオレとこの篠沢先輩しかいない。2 人だと言っても、俺は先輩の演奏技術に惚れこんだのであって、人としてはいい人だなぁ程度にしか思っていない。


 そして、この部活は基本、正座で何事も行う。まぁ、和室で礼儀作法も学べる部活だから当然と言えば当然か。


「先輩、ちょっと足しびれてきました」

「野田くん、マジメだもんねぇ、ずっと正座してるもんね、ちょっと休憩しよっか」


 先輩は足を崩さず……? え? 休憩中も正座……?にいた。休憩中は私語も大丈夫な部活なので、よく俺と先輩は雑談している。顧問や外部講師が教えているわけでもなく、文化祭が終わった今、大きな発表会や大会があるわけでもない。


「そういえば、先輩ってこの時期にも部活にも来てますけど、受験とか大丈夫なんですか?」

「ん? えーそっか、言ってなかったというか野田くんの入部時期が夏休みの途中だから、私が受験の結果がわかってからだったもんね。夏休みに、専門学校の試験、合格したんだ」

「そうなんですか、ん?でも、この後、発表会ありましたっけ?」

「ないよ」

「え、受験がないにしても、先輩、家に帰ったほうがいいような気もするんですけど。いくら週 2 回の部活といえども」

「んー、まぁ家帰ってもヒマだしなぁ。でも、それ以外にも目的あるんだよねぇ」

「目的……?」

「うん、でもまぁ、今は秘密かな。それじゃ練習再開しよっか」


 この雑談の後、練習を再開した。



 それからしばらくして、冬休みに入り、気付けば、3 月に入った。そして、今日は卒業式だ。


 本来、1 年生は自宅待機だが、部活に所属している生徒は先輩の見送りとしての登校は許可

された。そのため、俺は和楽器部の部室で待機していた。お世話になったお礼として、花束と琴のキーホルダーをプレゼントしようと思っていた。先輩には事前に連絡していた。


「野田くん、自宅待機なのに来てくれてありがとう」

「いえ、後輩として当然です」

「ありがとう」

「それと先輩にプレゼントです」


 花束とラッピングされたキーホルダーを渡した。


「卒業おめでとうございます。また、いつか遊びに来てください」

「ありがとう。でも、私、北海道の専門学校に進学するんだ。だから……、2 年以上は

こっちに帰ってこないから……」

「そう……っすか」

「うん」

「あの……!!見送り行ってもいいですか!!」

「……、うん、来てほしいな。3 月 25 日の 13 時くらいに北海道に向けて出発する飛行機に乗るから、私は 12 時に空港に着くようにするつもりだから。それじゃ、私は友達にあいさつしてくるね」


 先輩はそのまま部室を去っていった。


 俺はというと、篠沢先輩との思い出を振り返っていた。夏休みの後半に入部して、すごいびっくりされたことから始まり、さっきの卒業式までの思い出だ。


 振り返ってみて気づいた。


 このつまらない高校生活に華をくれたのは、先輩だ。


 それ以上に先輩が好きだ。それはもちろん、恋愛感情としてだ。


 今日は 3 月 25 日 12 時過ぎだ。

「先輩!!」

「野田くん……」

「北海道行っても頑張ってください!!」


 俺は自分の気持ちに蓋をして、「好き」ということは絶対に伝えないと決めていた。


 篠沢先輩は少し遠くを見た。


「そっか、……そうだよね」

「ん?」

「私が和楽器部に冬休み入る前までいた理由はね……野田くんがいたからなんだ」

「え?」

「最初は初めての後輩だし、ほっとけないんだと思ってたけど、違うんだ。うん、確かに始めたばっかだからうまくないのは当たり前だけど、休憩中のお話とか部活へのマジメな姿勢とかすごい尊敬していたんだ」

「なんで?」

俺は先輩が何を話したいのかいまいち理解できない。

「うん、で、気付いたんだ、『好き』なんだって。でも、私はこの春には北海道に行く。というか今日から北海道に引っ越すし、その後ここに戻ってくるかもわからない」

「……」

「好きだよ、紘斗」


 好きだと言われて、俺は思わず『俺も好きです』と言いかけたが、それをためらった。ここで『好き』というと俺も先輩も前へ進めないと思った。


「……。俺は、俺は……」

「うん、正直な気持ちでいいよ。あくまでも私はキミが好きだから。ただ、この想いを伝えないと後悔するから」

「……、俺も好きでした」

「そっか、でも、付き合ってほしいなんて贅沢は言えないなぁ」

「だとしても、俺は遠恋でもいいです!!先輩の都合さえ合えばビデオ通話でも声だけでもいいので聞きたいです!!」

「ごめん、1 人暮らしも初めてだし、学校もあるし、たぶん、そこまで余裕ないと思う。

でも、連絡くれたらちゃんと返すから」

「俺からもちゃんと言わせてください」

「うん」

「最初はただいい人だなぁと思ってました。正直、部活から先輩がいなくなるまではずっとそう思っていました。先輩がいなくなってから、すごく寂しくて、先輩が恋しくて、気付いたらホントにずっと先輩のことばかり考えてました。好きでした、先輩。これでお別れなのが寂しいです」

「それは私もだよ。お別れに……」


 先輩はそういって俺を抱きしめて、頬にキスをした。


去り際に先輩は言った。


「ずっと好きだよ、 紘斗」

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