ダイナミックエントリー
【ダイナミックエントリー】
迅速性を要する場合・犯人が複数箇所にいる場合。
部隊はそれぞれ担当を定めてドアや壁を爆破、窓を破って突入する。
12:45
東京都某区 現場本部
自衛軍特殊作戦部隊 STF 指揮官 海千救一
指揮所で神居美郷が叫んだとほぼ同時刻。
立て籠もりが発生した銀行付近にある警察署で自衛軍STFは待機していた。
STFは先の作戦で負傷者が発生しており隊員数は少ない。作戦参加ができる隊員もいるが、絶対安静だ。
STFメンバーは指揮官である海千救一、副指揮官 山内。原、海千零士、黒川、鎌木、杉山、水瀬、東雲、新井、新座、佐藤、中村、奈良、根本と15名編成。内、鎌木、杉山、水瀬が入院中。また別の作戦で負傷した中村、奈良、根本がリハビリ中。そのため、9名で対応する。
勿論、作戦規模で他部隊と人数調整もある。
「了解。状況は理解しました。」
「SITと銃対との連携が必要不可欠だが、さっきからSIT連中が見えない。管理官もいないし。おい! 一課の連中、管理官見てないか!?」
「それが、こちらも探しているんです。警察署にもいないそうですし、ここら近辺にもいないみたいで。」
管理官がいないという馬鹿みたいな状況だ。警察側もだが、俺達もいないと困る。人質救出、敵制圧のためにはSATの代わりできた俺らでも勝手に動くというわけにはいかない。
こういう事件では、各組織や部隊間の連携が不可欠だ。誰かが勝手に動くことで危険な状況になる可能性も十二分、ある。突入、制圧時は状況によりある意味勝手に動くことは重要だろうが、今みたいな状況では連携が必要だ。
「2-3、オーバーロード宛で連絡を。管理官及びSITがいない。作戦行動不可。隊の応援要請と警視庁に問い合わせをするように伝えろ。」
「了解。」
「2-0、俺と2-3はここで待機する。2は準備待機を。」
「サー。」
指揮官である俺と通信である黒川は指揮本部で警察と連携。副指揮官の山内さんらは待機。因みに、スナイパーである新井、新座はSIT狙撃班がいる建物屋上へ移動中だ。
付近は第3機動隊や地域課といった警察官が規制している。突入、救出が役割となっている俺らや銃器対策部隊は準備できている。SITがいることで突入もしやすい。
『こちらシールズチーム3。到着まで5分。』
「こちらSTF了解。こちらの状況は最悪だ。そちらは警察署で待機を。ここだと、不味い。」
『3、ラジャー。』
新しく用意できたM4A1。弾薬相互性から5.56mmで統一しているが全員がM4やM249というTHE US ARMYみたいだ。まぁ、装備自体がほとんどアメリカだが。
すると、部隊無線でスナイパーの新井から無線に叫ぶのが想像できるほど大声で連絡してくる。
『指揮官! STF4-1から一方通信。狙撃位置に到着したが、銀行前にSITと思わしき部隊発見。SITが独断行動をしているようだ。どうやら捜査一課課長が独断でSITを動かしている!』
「クロ、今すぐシールズとコマンドを呼べ。2-0、ダイナミックエントリー準備。スナイパーは、援護用意。こちらSTF0-1。オーバーロード、状況を一方通信で報告。SITが捜査一課課長独断で行動を開始した。SITは何も知らされていない状態らしい。今すぐ突入する、許可を。」
『こちらオーバーロード、了解したわ。武装を使用許可。何としてでも全員を生きて家に帰らせろ! そして、全員生きて帰って来ること! アウト』
「STF総員、行動開始。銃対小隊、ついてこい!」
「しかし、勝手に動くわけには。」
民間軍事会社である自衛軍。ある意味勝手に動くことが許されている組織。
しかし、警察は当然そうはいかない。漫画やアニメ、ドラマといったものは勝手に動いて解決しているものがあるだろうし、理想だ。上下がある警察といった組織は、"許可"や"上から指示を待つ"ことが必要だ。
「君なりの職務を全うすればいい。」
M4のコッキングレバーを引き、薬室へ弾を込める。ヘルメットを被り、テントから出る。
機動隊銃器対策部隊の小隊長が迷った顔をしていた。さぁ、どうする?
STFらがSITの行動を気づいたとほぼ同時刻
銀行 出入り口
警視庁特殊犯捜査係 SIT 東城咲 巡査
「突入許可は?」
「俺が出している、いいからやれ。」
私の前にいる巡査長が後ろにいる管理官が怒鳴る。
少し前までSATの応援がないことに怒り、交渉で解決すると言っていたとは思えないな。
MP5Kを握り、突入に備える。
「突入まで、5、4、3、2、1、ゴー!」
閉じられていなかったドアから突入。閃光手榴弾が投擲され、防弾盾を持った人達から突入、私も続く。
すると、被疑者と思われる2人を発見した。
こ、こういう時は......。
目の前にまさか被疑者がいるとは思わなかった。それに、閃光手榴弾で気絶していない!? どういうこと?
「武器を捨てろ!!」
ベテランでSITでは長い年月を過ごしている警部が被疑者に向かって言う。
被疑者は慌てず、こちらを見てニヤリと笑う。
確か、情報では被疑者は武装した4人組。もう2人は?
「! 逃げろー!」
横にいた巡査長が叫ぶ。カウンターの上には銃を持った2人!
や、死ぬ。
「ぐぉ!」
「あああぁぁーーー!!」
横にいた巡査長が私を押し倒したため、被弾はしなかった。
でも、ほとんどが銃撃で倒れている。
銃声と共に、仲間が倒れる音と苦しむ声。人質と思われる人達の声と悲鳴。
被疑者が発する不気味な声。
「おい、まだ生きている奴がいるぞ。」
「どうする?」
「こいつを連れて行こうぜ。とっとと脱出だ。」
仰向けに倒れている状態で、天井にある大きな窓が見えている。
そこに、目出し帽を被った被疑者が覗き込む。
「ぁ、ぁ。」
声が上手く出せない。
ホルスターにある拳銃を取り出し、向けた。
でも。
「遅い、無駄無駄。」
被疑者が持っていた拳銃が向けられ、撃った。
「ゔ、あがッ!」
「ハハハ。あがッ、だってよ。」
肩付近を撃たれた。拳銃を奪われた。もう、動けない。
誰か、助けて。誰か。
「女だったのか。残念だが、お楽しみは無理か。じゃあな。」
こんな筈じゃ。死にたくない。死にたくない!
すると、天井の窓が綺麗に割れた。
音的に、横から。駐車場の窓ガラスも割れた。
被疑者らも混乱しているようだ。
そして。
「特殊部隊だ!」
数分前
銀行 屋上
自衛軍特殊作戦部隊 STF STF0-1 海千救一
「ロープ、準備良し。」
「安全装置解除。突入したら、発砲しろ。」
前には強力になったゴム弾を装填したM870を持ち、窓際に立つ黒川が相棒だ。人が少ないからこそ、普通は3人で援護していきたいところだが、仕方がない。
銀行 駐車場
STF2-0 山内考尚
「車両、後退よーい!」
装甲が付けられたピックアップトラックとL-ATVがバックの姿勢で待機している。やっと到着したシールズ・チーム3が乗っている。
自分は、空砲を装填しているM249を持つ2-1、原柚木の前で自衛軍特別製という盾を持って待機だ。
どうやらこの盾。指揮官が勝手に持ってきたらしいが。大丈夫か? まだ実戦での使用は渋りたいとオーバーロードが言っていたと思うが。まぁ、いっか。
『総員へ、こちら4-1。SITが壊滅。しかし、まだ生き残っている捜査員あり。敵はそいつに夢中である。こちらは命令通り行動する。オーバー』
『こちらチャーリー3-1。目標場所を確認。STF指揮官より命令されたように行動する。アウト』
『指揮官より総員へ。行動開始まで5、4、3、2、1 ---。』
現在
銀行内
SIT 東城咲
「おい、どうなっている!?」
「くそ!」
撃たれると思っていた。死ぬと思った。
天井の窓ガラスが割れ、バイザーやヘルメットにとても小さなガラス片が降り注いでくる。
上を見る被疑者と同じように私も上を見る。
同時に横。駐車場側の窓も割れた。
「特殊部隊だ!」
黒い服で纏っている人らしきものが降ってくる。
自衛軍海軍 特殊部隊 ネイビーシールズ
チーム3 チャーリー3-1
『GOサインだ、やれ!』
「よし。後退!」
L-ATVを動かす。ギリギリまでバックする。
「くそ、加減しろよ。」
後ろに座るチャーリーと数名のエコーの隊員が目線は銀行に向いているが、声は不安があった。
ハンドルを握りしめ、この馬鹿でかい車両をバック。銀行の窓を突き破る。
そして後方ハッチを開き、隊員が突入する。
STF0-1 海千救一
ハンドサインで合図。黒川と共に突入し、敵を捕捉する。
SIGのP320を使い、敵を無力化する。
俺はSITを殺そうとした敵を排除する。黒川はM870で俺が狙っている敵の後ろにいる敵を無力化する。
そしてカウンター上で立っていた敵も無力化する。
P320をホルスターに戻し、M4に持ち替える。
「......。クリア!」
「クリア。」
「オールクリア!! 総員へ、STF指揮官だ。敵2名確保。敵2KIA。人質確認だ、行動開始。」
SITの隊員が......。
「2-2及び衛生は直ちに合流。死傷者後送を急げ。救急車、ヘリ、車両をフル運用だ!」
多くのSIT捜査員が死傷している。こういう時こそ、スピーディーで。
しかし。ダイナミックエントリーしすぎたか。
次回 AAR
内容が薄い? いや、特殊部隊はスピーディーだよ。
現実は薄くて良い。いや、このようなことがないことを。被害者が増えないことを祈る。
AAR--After Action Review
兵士、部隊自らが、訓練中に実際に行動したことを冷静に分析し、練度を向上させるために、訓練実施直後に行う討議