非公式任務・制圧
『真の勇気とは恐れることであり
とにかく前に進み
自分の仕事をこなすこと
それこそが勇気です』
ノーマン・シュワルツコフ
アメリカ合衆国陸軍軍人。最終階級:陸軍大将。
19:20
日本 東京都目黒区 自衛軍基地 特殊作戦室
「日本政府及びアメリカ合衆国政府からの依頼だ。先のアメリカ諜報員救出作戦の敵はやはり、テロ組織である"カチューシャ"だった。その敵の一部は韓国の街の隠れ家いることがCIAの調査で判明した。」
自衛軍特殊作戦部隊STF。自衛陸軍特殊部隊デルタフォース、海軍特殊部隊ネイビーシールズの指揮官と隊員が揃っており、彼らの前には特殊作戦室長の神居美郷と自衛軍司令官の白河美那が説明していた。
「韓国陸軍特殊部隊と合同で隠れ家の敵を全て無力化。情報があれば回収する。」
「韓国なら第707特殊任務大隊か。彼らとは3週間前に演習したばかりだから丁度いいな。」
「そうだ。21:30。輸送機にて出発し、在韓米軍基地、烏山空軍基地に向かい龍山基地にて自衛軍、米軍、韓国軍特殊部隊が集合する。」
出発開始1時間45分前
自衛軍基地 特殊作戦部隊武器庫
自衛軍特殊作戦部隊STF 機関銃手 STF2-1 原柚木陸曹長
「機関銃の出番なしか......。」
「一応持っていくことになるが、出番はないだろうな。」
初めまして、こんにちは。自衛軍STF所属の原柚木です。
私は機関銃を使う機関銃手で......ん? 女が機関銃手? 舐めちゃいかんよ。
「そうそう。こいつ機関銃だけは射撃が上手いのよ。」
心の声が聞こえている!? いや、武器庫の人と話しているのか......。びっくりびっくり。
自分は機関銃が好きなのよね。あの弾幕と音。機関銃は全てを解決する。実際、訓練でもいい成績が残せているしね......。
「機関銃の代わりがSCARですね。どうぞ。」
「ありがとう。」
機関銃手でも流石に小銃の訓練もする。軍隊では基本ね。
弾倉に弾薬を入れ、マガジンポーチに入れていく。地味な作業だけど、これもいいのよね。
「ユズ、指揮官とは上手くやっているのか?」
「どうでしょうね。」
自衛軍軍内でも恋人や結婚している隊員は多い。私もその一人だ。
自衛軍基地 空軍エプロン 第1航空機動航空団 C-17 グローブマスター1 パイロット
*エプロンとは
(乗客の乗降や貨物の積み下ろし、給油、駐留または整備のために航空機を駐機させることを目的として指定される区域(駐機場))
「車両の固定完了! 1番機、準備完了。」
『2番機、車両固定完了。燃料等補給完了まで5分。』
『3番機、リトルバード2機固定完了。ヘリの弾薬等の積載には20分だ。』
「準備が整いつつあるな。」
韓国にも走行している車種のピックアップトラックを計4台積み込み、支援用のAH-6リトルバードを積載した計4機のC-17が出撃準備、待機している。
昔は航空自衛隊でC-1輸送機のパイロットで、ここまで巨大な航空機を動かしたことはなかった。難しいと思うかもしれんが、しっかり訓練をしてきた。何度も作戦に導入されているしな。
「夜間での移動だ。近いかもしれんが、無事に届けるぞ。」
「了解です。」
実際に作戦に従事し、完遂するのは特殊作戦部隊らだ。簡単で安全なことだと思う方もいるだろう。
だが、そんな彼らを送り届けることは我らの重要な役目であり、誇りである。
「一応、機体と積荷の固定確認と行おう。今回は輸送任務だが、一応やっておかなきゃな。」
「「了解!!」」
特殊作戦室
STF指揮官 海千救一
「韓国軍特殊部隊からの情報だ。出発準備ができ次第確認しておくように伝えてくれ。」
「建物の構造に、そこにいる人間の写真か......。よく確認できたな。」
「数日前から調査していたらしい。」
陸軍、海軍特殊部隊隊長、特殊作戦室長の神居美郷と共に情報共有を行う。
このような作戦にて建物の把握、人間といった情報が重要になる。
勿論、情報が何もない状況よりはいい。
それでも、想定外のことはある。想定するから、想定外のことが起こる。だから俺達は想定外のことが起こっても対応できるように日々訓練するのだ。
「米軍は韓国でのテロが他の場所で起こった場合に対応できるように待機するそうよ。自衛軍と韓国軍と合同作戦ね。」
「シールズは?」
自衛軍海軍特殊部隊ネイビーシールズ。
元海上自衛隊特別警備隊、海上保安庁特殊警備隊に所属していた隊員がほとんどを占める部隊。勿論、それ以外の部隊に所属していた隊員や元一般人の者も多く在籍している。
アメリカ海軍特殊部隊ネイビーシールズから名前を借り、自衛海軍では最強部隊として海上での作戦、海上からの作戦行動等、多くの作戦に従事している部隊だ。
「君たちの部隊は海上にて自衛海軍空母、"舞鶴"に乗艦。イージス護衛艦"清水"、汎用護衛艦"嵐山"、ミサイル艇"鴨川"が待機する。日本海上にて緊急事態が発生すれば対応してくれ。」
「デルタチームは? この建物の構造上、STFと韓国軍だけで対応できる。」
自衛陸軍特殊部隊デルタフォース。
元陸上自衛隊特殊作戦群、第1空挺団、水陸機動団、中央即応連隊中央特殊武器防護隊、対特殊武器衛生隊。元海上自衛隊特別警備隊。元警視庁、警察特殊部隊に在籍していた隊員たちが所属している。
陸軍部隊だが、自衛軍では特殊作戦部隊STFに並ぶ精鋭の特殊部隊だ。上記の部隊にいた隊員のみがこの部隊に所属することができる。
「デルタもSTFと共に行って。最悪の場合もある。」
「規模が1個中隊にはなるぞ。目立ちすぎている。」
「STFは分隊。韓国からは2個分隊。デルタからは増強1個小隊が出ることにする。敵の人数は調査では約20名前後。非戦闘員、5名前後。武装はAKや拳銃レベルだと思われるが、何が起こるかはそこでしか分からない。でしょ?」
「そうだな。」
建物は3階建て。非戦闘員は勿論、周辺は住宅地ということもあり、空爆で一掃することは非現実的だ。
静かに侵入し、敵を排除していく。そして、捕虜や確保ができ、情報があれば回収する。
21:30 出発
C-17 グローブマスター1-1
海千救一
『こちらグローブマスター指揮官。これより、作戦地域に向かい手紙を送り届ける。繰り返す、手紙を届ける。』
愛用品として保管しているM4A1 GL/SSC RIS IIを横の席に立てかけ、軽く目を閉じる
情報では、敵は20名前後。状況によっては、敵の数は前後する可能性もあるが、20名は俺たちが殺すこと
になるだろう。
時々見る夢がある。
俺が撃たれる夢。つまり、死ぬ夢。
撃たれた後は、顔や身につけている戦闘服は血塗れである自分を鏡で見ている夢だ。
『離陸した。到着まで少しは休め。』
『特殊作戦室より作戦部隊へ。追加情報だ。敵は爆発物を所持している可能性あり。繰り返し伝える、追加情報として...。』
耳は傾けるが、目は閉じたままだ。
......正直、疲れた。
今回の侵入経路は様々だ。窓、正面玄関、裏口。
戦術。連携。判断。指揮。士気。
22:15
大韓民国 龍山基地
自衛軍STF 海千救一
「つまり、敵は大方武装しているが、警備は緩いと。」
「あぁ。こちら側が事前に偵察しに行った時に敵の警戒が緩いことが分かったんだ。」
俺ら、自衛軍STFは韓国の在韓米軍基地、 龍山基地に到着した。
自衛軍STFメンバー、アメリカ陸軍第8軍ジョセフ・D・ジョンソン司令官に、アメリカ陸軍第1特殊部隊デルタ作戦分遣隊・デルタフォース1個分隊長と分隊員。そして、韓国陸軍第707特殊任務大隊大隊長、1個分隊長の南白一が揃っている。
「政府は早急な制圧を望んでいる。報道にも市民にも悟られずにな。」
ジョセフ司令官やデルタ分隊長は何かと自衛軍と関わりがある。信頼は十分だ。
韓国特殊部隊の南白一も合同演習をしたばかりなので部隊の隊員らとも仲が良い。
「今回の作戦では事前に伝達したように3階建ての建物だ。住宅街のため派手な行動はできない。UAVやドローンは数機飛ばす予定だが、火力支援はできないからな。」
「そりゃそうだ。」
こんな所でドローンにヘルファイア(対戦車ミサイル)をぶっ放すバカはいない。
「ハハハッ!」
司令、笑っているけど。
......え? そうだよね、俺がおかしい訳ないよね? 市街地にミサイルをぶっ放すヤツ、いないよね。
「冗談は抜きにして下さい、司令官。本当に誤射で死んでいる人も中東にもいるんです。」
「ああ。あれは酷かった。やってはいけないんだよ。」
この世界の軍も闇が深い。何しろ、一部の軍隊にテロ組織が潜入している可能性があるからだ。
「本題に戻るが、敵の装備は基本的にテロ組織が持つAKやUZIといった武器だ。爆発物の有無は不明だが、ある可能性が高い。家には20名との情報があるが追加情報だ。敵は20名。非戦闘員が5名程はいる。子供も2名いるとの情報がある。」
「了解。爆発物は自爆用の可能性もある。誤射には注意、武器を持つ敵は全員無力化しろ。非戦闘員、子供には撃つなよ。」
「じゃ、始めよう。移動開始。」
23:24
敵テロ組織"カチューシャ" 隠れ家前
自衛軍STF 海千救一
『こちらデルタ、準備良し。』
『白虎準備良し。』
「STF、準備良し。」
『総員へ、作戦開始だ。』
基地から持ってきたピックアップトラックから降り、突入場所に向かう。
M4A1を構え、庭に通じる門まで進む。
隣にはブリーチング担当の鎌木真輝一等陸尉がチェーンカッターを持ち進む。
(OK?)
(やれ。)
目配りで確認する。
同時にチェーンカッターでチェーン及び閉鎖している南京錠らをカットしていく。
STF3-1 鎌木真輝 カマキリ
いや、厳重過ぎるだろ。ここまでやるか、普通?
さ、これで終わりだ。
「行くぞ。」
『こちらデルタ指揮官。正面入口に到着。STFを待つ。』
『こちら白虎。こちらも待機中。各窓についている。』
指揮官を先頭に家の裏口に到着する。
裏口に指揮官の救一がつき、メンバーを率いて突入する。
「こちらSTF。突入する。」
まだ敵には気づかれていない。静かに扉を開く。戦闘は盾を持つ隊員、STF3-2が侵入する。
STF3-2 杉山由花 二等陸尉 イージス
「STF3-2は一階、屋内に侵入。」
「何かいる。前方のドアの先。女性の声。」
後ろから続く隊員STF3-3は援護する形で入ってくる。
ドアは一つ。盾を構え、ホルスターにあるM17に手を置く。
『地図を取ってきてくれ。机の上にある。』
『取ってくる。』
女性と思わしき声と足音。
ドアの前には立たない。おそらくこの部屋にくる女性は武器はないが、銃撃を受けた時にドア越しに撃ってくることもあるからだ。
3人の隊員がドアを囲むように立つ。
「ハッ!」
武装した敵が何人もいるのだ。驚いて声を出そうとするが、女性が気付いた隊員の後ろにいた隊員が口を抑える。
「黙れ。」
「ここはクリアだ。前進。」
盾を構え、廊下を進む。
「4人いる。右だ。武装しているのが2人。」
STF3-3 水瀬春奈 三等陸尉 サムライ
「了解。」
部屋には男2、女2。男はどちらも拳銃がある。近くにはAK。
「次のターゲットは?」
「デモ集団に混ざり混乱状態にさせる。何しろ、この国のデモ集団は使える。」
作戦会議に夢中になっている。
......息の根を、止める。
『全員始末しろ。』
「勿論。」
ホルスターからサプレッサーが付いたM17を取り出し、撃つ。
1。 右にいた男。
2。 その左にいた男。
3。 拳銃を持っていた女。
4。 AKを取ろうとした女をナイフで息の根を止める。
以上
最後に無力化した女。よく見たら少し前に世間から消えたインフルエンサーじゃない。この組織に入ったのね。いいスタイルで人気だったのに。
「クリア。」
「総員へ。一階はクリアだ。」
『こちら白虎。一階正面玄関より侵入する。』
ホルスターにM17を戻し、M4A1を構え階段に集合する。
デルタチームは周囲に陣地に布陣し警戒している。そのため、制圧はSTFと韓国特殊部隊合同で制圧していく。
先頭は由花。次に指揮官、私、韓国部隊の隊長と隊員が続くよ。
「STF0-1は二階に移動する。」
『何の音だ?』
『敵だ! 武器を持って構えろ。』
敵にこちらの存在が気づかれた。ここからは激しい戦闘が予想される。
左右のドアに張り付き、突入の準備をする。
『くるぞ!!』
「突入する。」
ドアを開き、部屋に入る。
真っ先に見えたのはAKを構えた男だった。
「出ていけ!」
こちらよりも先に攻撃してきた。
ドアの前には立たない。これは、鉄則。前に立って撃たれる可能性も捨てきれないからね。
近くにいた韓国部隊の人がこちらを向いて負傷していないか確認する。
(大丈夫か?)
サングラス越しだが、そう言っている感じがした。
(当然。)
頷いてから、M4を構え部屋にいた敵を倒す。
正面にいたAKをぶっ放してきた男。次に、慌てたため行動が遅くなった男。
二人の敵だけのようだ。
「サムライ。3-4が後ろにつく。」
「了解。」
倒した敵兵はしっかり脳天を撃ち抜いていた。一応、心臓に二発ずつ撃ち込む。
命中場所によっては動き続けることもあったり、残り少しの力を使って爆弾のスイッチを押したり銃を使い後ろから攻撃し、その部隊が壊滅。なんてこともある。
「クリア。」
STF2-1 原柚木 ユズ
『総員へ。上から足音。』
韓国特殊部隊の隊員が三階からの足音を報告する。
だが、ドアに背を向けている。
「白虎2-1、ドアから離れろ!」
後ろから攻撃されかねない。
『敵だ!!』
案の定、撃たれた。
機関銃の音だ。機関銃の音なら一発で分かる。
でも、どういうことだろう。この音は......。
「一人やられた! マンダウン!!」
「フラッシュバンを使え。」
「フラッシュバンを使う。」
『0-1より、STF2-0、2-2、2-3。STF4、きてくれ。」
後ろにいた白虎隊長がフラッシュバンを投擲する。また、前にいた指揮官がドアを蹴り、ドアを開ける。
起爆と同時に突入。
正面。怯んでいる敵。
右。 機関銃の敵。
左と左奥にいた敵は後ろから続いて突入してきた白虎隊長と指揮官が無力化した。
「クリア。」
「ルームクリア。」
STF2-2 海千零士 陸曹長 メディック
「ぐぅ。クソクソクソクソ。痛い痛い!」
「大丈夫だ。俺が一緒にいる。踏ん張れ。......メディック!」
「見せろ。」
兄の海千救一の弟で、STFの衛生兵−メディックとしてこの部隊にいる。
衛生兵は、負傷した味方の応急処置を行う役割だ。戦いつつ、救うという部隊の中でも動き回ることが多くなるが、これもまた、いい。
「被弾したのか。背中から攻撃されたのか。......何とか、プレートで守れているが、数発弾が貫通しているな。 直ちに応急処置するが、病院に送る準備を。」
『メディック、こちら指揮官。状況を報告可能であれば報告せよ。オーバー』
「こちらメディック。状況は最悪に近い。チョッキで弾を防いでいるが、数発貫通していやがる。急ぎ、病院に運ぶ必要あり。オーバー」
STF0-1 海千救一
「了解した。白虎隊はここに待機。三階の敵は少ないと思われるが、こちらで対処する。白虎は、ここを確保。負傷者を運べ。」
「分かった。気をつけろよ。」
合流した、STF2-0・山内考尚らと共に三階に向かう。
爆発物の警戒から、自衛陸軍特殊部隊デルタフォース所属の軍用犬"デルタ"を借りた。考尚が、引きつている。
由花、俺、柚木、春奈、公平、考尚の編成で三階に向かう。残りのメンバーも後ろから続く。
勿論、零士は負傷した白虎隊の隊員に付き添っている。
『こちらアルファリーダー。急げ、先程の銃声で近所の家が騒ぎ始めた。』
『こちらアバター3-2。近くの警察署からそちらに向けてパトカーが向かっているぞ。オーバー』
「こちら、STF指揮官、了解。」
不味いな。ここまでの騒ぎになるとは。
M4を階段上に向けつつ、縦隊で三階に侵入する。
「STFは三階に侵入した。」
『こちらSTF2-2。 負傷者を病院へ搬送した。二階にて待機する。アウト』
作戦前の情報確認でもあったように、建物の構造は把握したいた。しかし、情報とは違うところもあった。
三部屋あるという情報だったが、四部屋であった。
「情報と違う。三人、ここで待機。」
俺と考尚、由花が最初に突入する。
「GO。」
ドアを開き、由花が突入。続いて、考尚、俺と続く。
由花が左に行き、考尚が右に。俺が正面に行く。
「クリア。」
「クリアだ。3-3、突入しろ。」
『ラジャー。』
廊下に出ると、春奈らが突入しており銃声も共に響いた。
サプレッサーを付けていても音は完全に消えるという訳ではない。
『3-3。こちらはクリア。』
「了解。残りの部屋も制圧するぞ。」
銃口をドアに向け、パイを切るように移動していく。
遅れてやってきた真輝らも合流し、残りの二部屋を制圧する。
俺が制圧する場所は鍵がかかっていた。
STF2-0 山内考尚
(突入まで3、2、1。GO)
合図と同時に突入する公平に続いて突入する。
機関銃手である俺はMINIMIといった機関銃を普段は使っているのだが、今回のような非公式の作戦であったり隠密に行動する時には基本はSCAR-Lを装備している。
左、右、左。
右に入ると、左についた公平が叫ぶ。
「爆弾だ!!」
敵はいなかった。しかし、爆弾が大量に積まれていた。
軍用犬のデルタも、吠えはしないが警戒している様子だ。
「クソ野郎が。総員へ、こちらSTF2-0。三階のベットルームに爆弾を発見した。起爆装置等の装置は確認できないが、自爆用の恐れもある。」
STF0-1 海千救一
「アバター3-2。こちらSTF0-1。警察車両はどこだ?」
『こちらアバター3-2。警戒中だったそちらのデルタチームが足止めをしている。急げ。オーバー』
「了解した、アバター。」
こんなに余裕に話しているのは、この部屋は制圧しているからだ。
敵はいなかった。非武装の女性と子供だった。
「アルファ及び白虎、こちら0-1。爆発物処理のできる隊員を送ってくれ。オーバー」
『ラジャー。』 『了解。向かわせる。』
本来ならば制圧完了した時点で少数の人員を残した状態で撤収する。
しかし、爆弾を発見した以上、万が一の場合に備えて無力化する必要があった。
「3-4、どうだ?」
「これ。あれですね。まだ起爆装置はないです。ここで爆発する危険性はない。」
爆発物に関する知識は公平程ではないが、これでも元自衛隊特殊部隊だ。知識はある。
一応、爆発物に対処できる資格を持つ隊員らが対応する。
『こちらアバター3-2。デルタの妨害を抜け警察車両が20分後にそちらに到着するぞ。オーバー』
「こちら0-1了解。総員へ、情報を回収後、直ちに撤収だ。」
爆発物を危険物回収用のトラックに積み込む。遺体に関しても遺体袋に収納、非戦闘員も回収する。
副産物というわけではないが、ここの隠れ家は敵テロ組織に関する情報の宝の山だ。
「指揮官、こっちに来て下さい。」
「すぐに行く。」
「どうした?」
部屋には副隊長の山内さんや通信兵のSTF2-3・黒川樹、白虎隊隊長がいた。
......ちなみに。白虎隊とは、韓国特殊部隊・第707特殊任務大隊のことだ。
「これを見てくれ。」
一台のパソコン。何があるんだ?
ふむふむ。
「......。これは、不味いな。」
パソコンには閲覧していたようで、そのままになっている文章があった。
内容は、次のテロ計画だった。
「本部には送ったか?」
「はい。送ってます。返答は撤収後に。」
内容は、地獄そのものになろうとする計画だった。
7月7日
06:10
自衛軍基地 中央指揮所
「作戦完了、御苦労だったな。申し分ない働きだった。」
司令官の白河美那がSTFメンバーに対して言うが、顔が死んでいる。
作戦中に見つけた敵の情報に驚いているからだ。
「この情報はカチューシャらを知っている一部の政府と軍事・諜報機関のみ。」
「ただ黙っていては意味がない。もう一度情報を確認しよう。」
昨日
韓国 敵テロ組織"カチューシャ" 隠れ家
「読み上げろ。」
「イエッサー。」
【同志よ】
獣たちにより我ら同志は減っていってしまった。
だが、我らの目指す世界は近づいている。
もう少しだ。そう、もう少しだ。
最後の駒は、"日本の首都東京"だ。
現在
「まさか、最終決戦はこの国でやるとは。」
「まったくだ。しかも、日本の東京都。だが、詳細な場所は不明。」
「まぁ、恐らく東京23区。そして、主要な機関がある"霞が関"であるだろうな。」
司令官や各軍司令官、作戦室室長、部隊長といった幹部が指揮所に集まり、この緊急事態の対応について会議をしていた。
計画している場所が場所なのだ。他国ならば警察機関、軍事機関は勿論、政府機関や法律、制度が整っている。日本については、法律や制度が整っていないのが現状である。
「警察庁、警視総監、警備部第1課。警視庁特殊部隊。統合幕僚監部、陸海空自衛隊の関係機関、部隊には通達済みです。」
「政府には?」
「防衛大臣には通達済み。ですが、今の首相に言ってもな......。」
「あっ......。」
だって、あの人。
「可愛いとか思っていないよね?」
日本初の女性内閣総理大臣。世間では可愛らしい首相として一躍有名である。
「思っているわけないでしょ。あの人は他にいい人間がいなかったから自動的になってしまったからな。」
「しかも、各国政府機関には敵のスパイがいる可能性がある。無闇に連絡すると、こちらが不利になる。」
敵味方、スパイという存在はいるものだ。今も昔も変わらない。
自衛軍にもスパイという存在はいる。実際に潜入もしているが結果は言いたくないものだ。
「本日、7月7日、10:00。09:45より、移動開始。警視庁と合同でテロ警戒・警備行動を、独断で行動をする。なお、防衛省自衛隊とも合同で警戒、待機をする。」
「「了解。」」
7月7日 10:00 自衛軍 独断行動開始
東京都 国会議事堂前
自衛陸軍 ストライカー戦闘団第1中隊 中隊長
「指揮所、こちらストライカー1-1。目標地点に到着、国会議事堂周辺を警戒する。オーバー」
『こちら指揮所、了解した。ストライカー1、そちらから警視庁の屋上に人がいるが見えるか?オーバー』
「こちらストライカー1。スタンバイ。警視庁の屋上を見てくれ。」
ガンナーに搭載している重機関銃、12.7mm重機関銃M2の照準器を利用し確認させる。
モニターには、複数の人影が確認できた。
「こちら1-1。確認した。」
『彼らは自衛軍第1特殊作戦部隊(1TF)及び警視庁特殊部隊のスナイパーチームだ。万が一の時はそこから狙撃支援が行われる。コールサインは、1TFは、ソルジャー。SATは、チャーリーだ。』
「ラジャー。こちらストライカー1-1。ソルジャー、チャーリー、感度どうか?」
『こちらソルジャー。及びチャーリー。感度良し。』
狙撃部隊の姿が見える。彼らの後ろにはヘリも駐機している。戦闘になれば、屋上から狙撃による支援を行ってくれる。
「了解した。」
東京都 自衛軍基地特殊作戦部隊待機所
自衛軍特殊作戦軍 特殊作戦部隊STF STF0-1 海千救一
『第1、第2飛行隊展開開始。』
『国会議事堂周辺、展開完了。』
無線を横耳にしながら基地待機組のSTFや特殊部隊の隊員らは、隊員によって行動は異なっていた。
少量で体力を回復できるくらいの食事を摂取したり、装備の点検をしていたり、寝ていたりしている。
自分は、装備を横に置き寝ていた。
「疲れるな。」
「致し方ない。」
隣であぐらをかき、HK416の点検をする陸軍デルタフォース指揮官の千崎龍介一等陸佐。
普段から帽子を被り、黒いサングラスをかけている男だ。
「これが最後の戦いということだが、本当に終わるのか?」
「無駄な詮索はしないことだな。」
「そうだな。」
千崎の言う通りだな。
ポケットに入れていたサングラスと目出し帽を取り出す。
「それは?」
「教えん。」
赤黒いシミのようなものが付着している紺色の目出し帽に、いかにも厳ついサングラス。
今のメンバーは、非公式の自衛隊特殊部隊に自分達より前にいた隊員らを、知っている隊員は自分ともう二人のみ。
「いつ、話すんだ?」
こいつも知っている。協力していたヤツだし。
「まだだ。その時になったら教える。」
今は、俺らが国民の前で銃を撃つことがなければいいのだがな。
XX:XX
東京都 東京港 コンテナ船
テロ組織”カチューシャ”
「自衛軍と思われる部隊が動き出したと偵察部隊からの報告だ。」
「どういうことだ? 情報が漏れた?」
コンテナ船には、武装した戦士や計画に使うものが積まれている。勿論、この船だけではない。
船だけではない。日本の東京、目標である国会とその周辺には、同志が待機している。
「もう少しで、我らの目標が達成されつつある。」
XX:YY
防衛省 防衛大臣室
防衛大臣
「そうよ。自衛隊全部隊に警戒態勢を。海上自衛隊には海上保安庁長官からもあったように海上警備行動を発令する。陸上自衛隊及び航空自衛隊は自衛軍に混じりつつ警戒、待機を命じます。」
「お待ち下さい。海上警備行動はまだ弁明の余地はありますが、陸自と空自の行動の許可は出ていませんよね。勝手な行動をすれば自衛隊の信用を失うことになります!」
統合幕僚長は顔こそは冷静だが、声は慌てていた。
無理は承知。反対することも分かっていた。だが、
「ここで日本の意地を見せるときだ。今まで自衛軍のみが対応してきて自衛隊は舐められている。"役立たず"ってね。自衛隊全体に迷惑かけることになるかもしれない。でも、自分の国は自分たちで守る必要がある。」
「ですが......。」
「それに、自衛隊は防衛出動以外にも出動できるでしょ?」
自衛隊が出動するのは、他国からの攻撃を国民の生命と財産を守るために出動する"防衛出動"。警察が対応不可能であるテロ・ゲリラ等に対応する"治安出動"。災害発生時における災害支援"災害派遣"。大まかに分けると、だいたい自衛隊の出動は以上となる。
「そうですが。......。まさか。」
「えぇ。災害派遣を命じます。自衛軍が待機している場所に自衛隊も待機させて下さい。災害派遣部隊以外にも訓練目的という名目で出動をして下さい。」
「名目ですか。昔から変わりませんね。」
「これに関しては申し訳ないと思っているわ。政治家が変えなければならないところを変えていない。」
自衛隊もまた、大変な組織である。今も、昔も。
11:25
自衛軍基地 中央指揮所
「全部隊、配置完了。警戒レベル5、発令中。」
「了解。全部隊の無線を繋いで。」
司令官。白河美那が机に手をつき、全部隊に訓示を述べる。
「自衛軍創設というものは、元々自衛隊の非公式部隊であったものを民間軍事会社に発展した組織だ。創設後、ここまで大きくなった。これは、貴官らのおかげだ。ありがとう。」
嬉しい、怒り、悔しい、悲しい、苦しい。様々な感情がこみ上げてくる。
ここまで多くの犠牲を出しているのも事実である。
「この独断行動により、どのような結果が我々に降り注ぐか。迷惑をかけるかもしれない。だが、この国を守る。今は、第1優先事項である。全隊員の働きを期待とし、訓示とする。幸運を。」
7月8日
05:20
東京都 東京港
自衛海軍 第1沿岸警備艦隊 "海風"
「おい、あのコンテナ船を見てくれ。」
「あれですか?」
「ああ。あのコンテナ船は海保と海自の立検開始前に港に到着して、立検がまだだったからな。できれば、海自と海保の立検部隊とここで乗艦しているシールズが検査したいな。嫌な予感がする。」
指揮所から送られてきた東京港に停泊、到着する全船舶に関する情報が入った端末を確認する。
「うむ。R国船籍か。あの有名な会社が保有しているんだな。」
「テロ組織の名前もカチューシャでしたね。確か、ロシア製の兵器を由来としているらしいですね。あの自走ロケットランチャー。敵からすれば恐ろしい兵器ですね。で、あの会社はカチューシャ好きの社長が"カチューシャ"と名付けたとか。」
「え? マジ?」
カチューシャ好きだったのか、あの社長は。あの女の子の髪飾りが好きなのか? え? どういうこと?
「混乱するな。にしても、同じ名前か。なんか、嫌だな。」
「ハハハ......。ん? 艦長、コンテナ船、後方付近を見て下さい!」
「あん? どうした?」
双眼鏡で言われた場所を見る。
何があるというんだ。
「? あれは、戦車?」
「いや、まさか。ありえないだろ!」
そうだ。ありえない。だが、
「総員、対艦戦闘用意!指揮所に直ちに戦闘になることを報告しろ。また、付近に展開中の艦艇、航空機に連絡しろ。」
「イエッサー!」
『全自衛軍及び、警察、海上保安庁、自衛隊部隊! こちら自衛陸軍特殊航空戦闘旅団、戦闘ヘリコプター隊。コールサイン、ガーディアン1-1。東京港停泊中のコンテナ船に戦車や装甲車、無人機、ヘリコプターを確認!』
偵察飛行中だったガーディアン、AH-64Eも確認したようだった。これはやばい事態だ。
コンテナ船は、巨大であるために軍艦よりも沈めにくい。第十雄洋丸事件がその一例だ。護衛艦を使っても沈めることはできなかった。
だからこそ、コンテナ船は武装はしていないが、コンテナ船そのものを破壊、沈めない。多くの敵装備や部隊がいるだろうから、それを破壊し、奴らの出鼻を挫く。
海風・CIC
砲雷長
『こちら自衛軍指揮所。全武器の利用を許可する。奴らを倒せ。』
「砲雷長、全武装を使用許可する。コンテナを破壊する必要はない。敵コンテナ船に積んでいる敵装備を破壊するぞ。対艦戦闘、目標、敵コンテナ船の甲板上、敵装備。主砲、撃ち方始め。」
アメリカ海軍の沿海域戦闘艦(LCS)のインディペンデンス級沿海域戦闘艦を元に設計、建造された自衛軍の一番最初に配備された。Mk.110 57ミリ単装速射砲や対艦ミサイル、魚雷、対空ミサイルといった艦隊と共に行動できる装備から対戦車ミサイルや機雷、対機雷装備という沿海域まで対応できる仕様となっている。
その装備の一つである、主砲を利用する。
「艦長、コンテナを盾にされて上手く狙えないです。」
「雑に撃て。コンテナを倒して破壊することもできる。とにかく、撃て! 撃ちぃ方、始め!」
「主砲、撃ち方始め!!」
陸軍特殊航空戦闘旅団 戦闘ヘリコプター隊
ガーディアン1-1 菊池将人/鷲村美憂
『海軍による攻撃が開始された。ガーディアン隊も攻撃を開始せよ。』
自衛軍には多くの戦闘ヘリコプターが配備されているが、その中でもAH-64D・AH-64Eを配備している。
そして、凄腕パイロットも勢揃いだ。その中でもガーディアン1-1は、AH-64Eを扱い各種任務を遂行するが、パイロットの菊池将人とガンナーの鷲村美憂の二人は精鋭だ。
『こちら指揮所。海軍による海上からの攻撃は難易度が高い。そちらから甲板上の敵及び敵装備を一掃せよ。これは命令だ、いい狩りを。』
「ガーディアン了解。総員へ、ガーディアンは接近、攻撃を開始する。ガーディアン1-1より1-2、1-3、1-4は各自援護しつつ掃討しろ!」
『ガーディアン1-2了解。』『1-3、了解。』『1-4、ラジャー。』
ガンナーの美憂が撃てるように機体を動かし、コンテナ船に接近する。
ガンナー/美憂
「ガーディアンは目標確認。攻撃開始!美憂、攻撃しろ!」
「了解。」
将人さんとコンビを組んで、いい意味で長い。いつも楽しい時間を共に過ごさせてもらっている。
さ、さっさと片付けて帰ってデートだっ!!!
30mm機関砲の発射スイッチを押す。
「発射!!」
「ガンズガンズガンズ! ガンズガンズガンズ!」
コンテナの影で隠れている戦車をも破壊する。
他のガーディアンによる攻撃もあり、コンテナ船甲板上にはコンテナが倒れ、火の手が上がっている。
「命中命中。」
『リーダー、ブリッチ後方付近にミサイル確認。』
「1-1と1-3が対応しよう。美憂、目標、敵ミサイルだ。」
「了解!」
まったく。どんだけ持ってきたのよ。ちょっとした軍隊の部隊や装備の輸送くらいよ。
ま、関係ないけど。
「ミサイルを使え。破壊しろ。」
「了解。ミサイル発射準備良し!!」
「撃て。」
次回に続く
次回予告
現代の防人
『ルールを破るべき時がある』
伊藤 祐靖
元海上自衛官。海上自衛隊特別警備隊創設メンバーの一人