公園にて
確かに詩織には左の目元に小さなホクロがあった。俺はそれがチャームポイントだと思っていたが、詩織自身はあまりそれが好きじゃなかったようだ。
俺がよく「詩織のその小さなホクロがセクシーな感じがする」と言っていたら、もっと他で色気を感じろと拗ねていたのを思い出す。
「少しは私の話、聞いてみる気になった?」
俺が昔を思い出していると、急に声を掛けられ引き戻される。
「……少しぐらいは」
言葉少なに俺が答えると、鬼龍さんは僅かに口角を上げた。正直オカルト話に興味はなかった。しかし詩織の特徴を言い当てた鬼龍さんには僅かながらに興味が湧いた。
「あの交差点に立ってる彼女ね、凄く悲しそうな表情をしてるの」
「言ってる意味がよく分からないんですが? 鬼龍さんはあそこで霊が見えると、そう言いたいんですか?」
俺がそう言って首を傾げると、鬼龍さんはこちらを向き冷笑を浮かべる。
「まぁそういう事。にわかには信じがたいかもしれないけど、見えるんだから仕方ないでしょ。私にもそれ以上説明のしようがないのよ。小さな頃から見えてたからさ」
「……で? あの交差点に詩織が立ってる。そう言うんですね?」
「あの子詩織ちゃんていうんだ。そうそう、誰にも気付いてもらえず、そして彼女自身も誰も見ようともしてない。まるで暗闇の中を彷徨ってる様な感じかもね」
鬼龍さんの話を聞いてますます訳が分からなくなってくる。仮に霊である詩織がそこに居たとして、普通の人はそれに気付かない。それは分かる。だが、詩織自身も誰も見ようともしていない? よく意味が分からない。
俺が無言のまま暫く考え込んでいると、鬼龍さんは一息ついて微笑み、語り掛けて来た。
「ふふふ、難しい顔して、意味が分からないって感じね。霊ってね必要なもの以外、目に入らなかったりするの。彼女は何かを探してる。それは何か大切な物なのか……」
そう言って鬼龍さんは真剣な眼差しのまま、俺を見つめる。
「大切な者なのか……」
そう言ったまま鬼龍さんは黙り、暫く沈黙の時が訪れた。
「……詩織の霊があそこにいると仮定して、詩織は俺を見つけられないって事ですか?」
沈黙を破り、俺が質問を投げかけると、鬼龍さんは優しく微笑んだ。
「ええ、恐らく。君も彼女を見つけられてないでしょ?」
「当たり前ですよね? 皆が皆、霊が見える訳ないじゃないですか」
「ふふふ、まぁそうよね……」
鬼龍さんはそう言って笑い、再び沈黙の時間が訪れる。
鬼龍さんが言ってる事は本当なのか? 半信半疑なまま時間だけが経っていく。