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2日目の出来事 前編

「ねぇ、一体どういうこと?」

場所は例の新木場の違法住居の中の居心地のよいキッチン横のダイニング。

私と兄は新木場の招待を受けて昼食を奴の家でいただいたところだった。この男が人をもてなす行為をすること自体が珍しい。何か後ろめたい理由があるに違いない。

(と、言っても食事自体は食べられずにラップをかけて放置されていた今朝私のつくったパンケーキである。新木場は表情一つ変えずに美味しそうにオセロパンケーキを食べきった。味覚もどうにかしているらしい)

新木場は私の問いかけに手にしていたカップの底を見つめながらおもむろに口を開く。

「あれは不当だったんだよ」

「え」

「まず買収されていたのは間違いない。

奴ら、甘くなけりゃ認められないと言いやがったんだ。フランスの食文化を否定する気かね。まったく」

新木場は「やれやれ」というように首をふるとまた一口紅茶をすする。

「友孝くん!これ粉砂糖じゃないよ、重曹だよ!!」

「すいません、間違えちゃったみたいです」

「もう、しっかりしてくれよ。粉砂糖は上の抽斗ひきだし、上の抽斗、下の抽斗、下の抽斗、左の抽斗、右の抽斗、左の抽斗、右の抽斗、後方に下がって、立ち上がった抽斗の所に入っている。いいか、最後はバック&アップで覚えるんだ」

「先生、アップのスペルの頭はUです

だから俺、つい手を叩いちゃって」

「なんだと?」という顔をする男。それに対してうやうやしく頷く兄。

「食器棚に拍手してどうするんだ!」なんでUpを間違える奴がApplauseは知っているのよ。

「、、、って、そんなことどうでもいいの!誤魔化さないで!

あんたが嘘をついているのはお見通しよ」

某少年探偵のようにびしりと指を突き刺す私。

「嘘なんかじゃない!!あれは現在認定されているインドの記録の千倍はあったね」

どこにそんなケーキを置く場所があるんだ。万里の長城の胸壁を調理台代わりにでもしたのだろうか。

「そうじゃなくて、なんで上野さんに嘘を吐いたの?

浅草さんの靴がここにあってあんたの靴がない以上、どこかで交換がされたことは間違いなんだから」

「あやか君。前から思っていたんだが、年上である僕にあんた呼ばわりはないんじゃないかね

敬意を払わんかね、年配者に対する敬意を!」

「そう言う事言う奴ほど、敬意を払う価値のない小物なのよ。

本当に尊敬される人だったら、そんなしきたりを言い出さなくても向こうから態度を改めるものよ」

「なんだって、つまり僕が尊敬されているって言いたいのかい?」

なんでそうなるのよ。

「だって、自ら進んで助手になるっていう人がいるくらいだし」

兄を参考にしても仕方がない。

私の兄はパーフェクトすぎて、多分あんまりにも出来上がっているが為にちょっと道を間違えてしまっているだけだ。大丈夫、いつか私がちゃんとこの男との縁を切って見せるんだから!

「あやか君は見事なブラザーコンプレックスをこじらせているねぇ」

「いやぁ、俺にはもったいない妹ですよ」

人の心の声と普通に会話をしないでほしいし、二人でまったり食後のティータイムを始めないでほしい。

「それで?一昨日は本当はどこへ行っていたの?」

気力を取り戻して新木場に尋ねた。二人の様子からして兄はもう行先を知っているようにみえる。

新木場はまたカップの底をじっと見つめ__かっこいいと思っているのだろうか?中身が空だからおかわりを催促しているようにしか見えない__それから私に理由を説明し出した。

「実は、、、よく覚えていないんだ」

私の表情に慌てて新木場は続ける。

「いや、本当にそうなんだよ。ほら、一昨日はこの1週間の中で一番酷い天気だっただろ?だから部屋にこもって本を読む事にした。

もうたまらないぐらい面白い推理小説でね。心臓がバクバクし出して目は爛爛らんらん、口角が上がってきているのが自分でも分かった。最後の数ページをめくる度に心拍は上がり、無意味な呻き声がれる」紅茶のおかわりを注ぎながら兄がうんうんとうなづく。

「読み終わった後のあの余韻よいん__いや、余韻なんてものじゃない。あれはもう爆発だよ。何かしなくちゃいけない気分、がむしゃらに走り出したくなるようなあの高揚感。気づいたら、僕は知らない山の中にいた」

「は?」

「どれぐらい走っていたのかは分からない。なんせ僕は車を持ってないから、行けたとしても近所ぐらいなものなはずなのに、恐らくどこかで電車に乗ったんだろう」

「は?」

「急に寒いな、と思って腕をさすりつつ周囲を見渡すと、木しか見えない。体中が痛くて重くて服はびしょぬれだった。人工物っていうものが何一つ見えなくて体の底が急激に冷えていくのを感じた。」

「は?」

「これはまずい。ここはどこだ?近くに民家はないのか?舗装された山道とかは?僕は半狂乱で山道を彷徨さまよった。でもまるでそういった気配はない。古い切り株に座り込んで僕はどうしたものかと頭を抱えた。」

「ねぇ、ちょっと待って」

「いくら歩いても何故かその切り株の元に戻ってしまうんだ。その時、後方からガサガサ、ガサガサ、、、何か生き物の動く音がした」

次回更新5月22日月曜予定

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