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迷探偵の脅迫

「なるほど、つまり僕が靴を履き間違えたと言うんだね、君たちは」

新木場は顎に右手を添えつつ、思案げな表情で言った。

「そうよ、だから靴を履き間違える可能性のある場所を探すの」

「つまり靴を脱ぐ事がある場所ってことだね」

「さすがに靴を脱がないで他人の靴を履き間違えるなんて事、議論してもしょうがないでしょ」

「靴を脱がずに靴を履く。

盾と矛、パラドックス__ふふふ、面白い!

僕はこの難問を解いてみせるぞ!!」

「それはひまな時にでもやってください」

1人盛り上がる新木場に上野さんは淡々と言った。

あまりの反応の薄さにちょっとしょげた新木場を兄さんが慰める

「逆説と言えば、チェスタトンですよね」

「ああ、僕はポンド氏の逆説から読み始めたんだっけなぁ」

「赤い鉛筆のようなものだから黒い印が書けたんだ」

「影は人を欺くものだ。特に実物通りでありうることが」

「しかしながら、一番の逆説はポンド氏は逆説ばかりを口にするが、その実彼は逆説を生まれてから一度も言った事がないらしい事でしょうね」

「しかり!僕も一つそれに賭けよう」

きゃっきゃと盛り上がる男二人を無視して上野さんは私に向き直った。彼女も大分慣れてきたようだ。

実際、二人に構っていたらいつまでたっても先には進まない。

「じゃあ、新木場さんが今日までの間に行った場所の中から該当する場所を尋ねれば」

「もしかしたら、浅草さんがどこに居たのか、それからどこに行ったのかが分かるかもしれません」

「いや、待て!

その前に、僕が靴を履き間違えたというのは確定なのか?

僕がそんなおっちょこちょいをしでかすとでも?」

小説談義から戻ってきた新木場が私達の方針に異議を唱えた。が__

私「大いにあり得るでしょ」

上野さん「ありそうですね」

兄「先生、時に探偵というのはとんでもないミスをしでかして窮地きゅうちおちいるものです。そこからの巻き返しが大切なんですよ」

誰1人からその可能性を否定されなかったメイ探偵新木場は何故なぜか信じられないという風に目を見開いていた。

私からすると、誰かが援護してくれると思っているその思考回路の方が驚きである。

「新木場さん、銭湯の後はどこに行きましたか?」

「え、いや、風呂入った後にそんな活動的に行動しませんよ。普通に家に帰って寝ました」

新木場にしては珍しい常識的な行動に上野さんは肩をがくりと落とす。

「じゃあ、昨日、一昨日は?」

「え、いや、何してたかなぁ。よく覚えてないんだよなぁ、ねぇ、友孝ともちかくん」

「そうですね、先生」

何故私の兄に肯定を求めるのか。

「あやしい、、、」

「ええぇ、、、アヤシクナイヨォ~」

両手を胸の前でぶんぶんとふる様は腹が立つほどあやしい

なんで突然カタコトになるのか。トルコアイスのおじさんだってここまで露骨ろこつじゃない。

しかし、奴の言動にいちいち付き合っていたら本当に気狂いになってしまう。

「3日前の事はあんなにすらすら言えたじゃないですか」上野さんが言った。

的確な突っ込みに「ひぃっ!」という声が似合いそうな表情と飛び上がった肩。

取りつくろいだす男。

「え、いや、そういうこともあるじゃないですか!

例えば、楽しかった記憶を思い出してください。

小さい頃に行った遠足、あぁ、アリゲーターの群れと過ごした夜の星の美しさ!

それから、悲しかった出来事。

巨大ケーキのイベントで、砂糖と塩を間違えてみんなに火あぶりにされたあの日!!

では、その次の日のことは?その一週間先にあった日の出来事は?覚えていますか??

そう、記憶の寿命とは時間の問題ではないのですよ。

どれだけその日に思い入れがあるかなんです」

「買い物して銭湯に行った日がそんな思い入れのある日だったの」

私の突っ込みに新木場は何か言おうとして何も言えずに池の鯉のように口をパクパクした。

ずっとパクパクしているもんだから兄がトントンと肩を叩いて、やっと口を閉めてもいい事を思い出した。舌を仕舞い忘れる犬猫と同じ感覚なのだろう。

「と、とにかく!もう僕と浅草君が無関係なのはとうに証明されているんだ!!

これ以上僕の休日を拘束するというのならこっちだって考えがあるぞ!!」

そう言って、その考えが何なのかを説明しないまま新木場は兄をお供に身をひるがえして去っていた。

去り際だけは無償に型にはまっているのは、恐らく経験の多さじゃないだろうか。

「どうしよう」

私と残された上野さんがぽつりと呟いた。

次回更新5月18日木曜予定

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