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所謂、波乱の幕開け。ならびに探偵

縦読みオススメです!

私はその方が読みやすいと思います。



*もしも、以前私が言っていた暗号物だと思って読もうとしている方がいましたら申し訳ありません。

これは全く別の物になります。

私の平和な日常を破ったのは、男が助けを呼ぶ悲鳴交じりの声。

場所はある集合住宅の5階、3LDKリビング。

1週間近く続いた雨も終わり、リビングに面したベランダからは太陽が顔を覗かせ、空は快晴。

休日の午前10時。

久しぶりの行楽日和に何をしようかなとウキウキしているその時に、"あの男"が現れた。



パンケーキを焼いてちょっと遅めの朝ごはん、いわゆるブランチの準備をしていた私は不審な物音に眉をひそめた。

嫌な予感がする。すぐさま警戒心を強めて周囲の異変に目を走らせたのは恐らく経験が成せる技。

しかしそんな私もまさかそんな光景を目の当たりにするとは、、、驚きのあまり初手が遅れてしまった。

「助けてくれ!!」

男の形相は必死でまるで殺人鬼から逃げているよう。

まあ、瀕死の状態であるっていう点では間違っていない。

なんてたってそいつはベランダの柵にしがみつきながら助けを求めているのだから。

前述したようにここは5階だ。

そして、男の下半身__と言うより肩から上以外はそのベランダの外にあるわけだ。

柵にしがみつくその手を「えいやっ!」と叩き落してやれば、地上15メートルからコンクリートの駐車場に真っ逆さま。

私は慌ててベランダへ駆け寄った。

しかし、パンケーキが丁度くるりと一回転している時だったためとさっき言ったように状況を飲み込むのに数秒を要してしまったために、動きが遅れてしまったのだ。

一歩だった。

あと一歩早ければ。

私がカーテンの端を掴んだのと、パジャマ姿の兄が寝室から出てくるのは同時だった。

「先生!」

眠気眼ねむけまなこだった兄は男の窮地に気付くと俊敏な動きでベランダへと駆け寄り、ガラス戸を開けると男をベランダの内側へと引き上げた。

兄に見つかる前に不快なモノを視界からしめだそうとした私の努力はタッチの差でもろく崩れ去ったのである。うらめしや。

「どうしたんですか、あんな危険な場所で」

兄が四つん這いになりながら苦しそうに息を吐く男の背中をさすりながら問いかける。

「どうせ、家賃滞納から逃げてきたんでしょ」

私は見切りをつけてガスコンロに放置していたフライパンに戻った。過ぎた事を悔いても仕方がないのだ。兄の目に触れさせてしまった以上、今度はどれだけ早く追い出せるかにシフトチェンジするしかない。腹を満たしてやれば棲み処(すみか)に帰るだろう。

私は食器棚から皿を新しく取り出すと、案の定焼けすぎて黒く焦げたパンケーキをそこにのせる。大丈夫、表から見た感じはとてもおいしそう。

「もしかして、殺人鬼に追われているんじゃ」

兄の耳には私の現実的で可能性の高い説は届かなかったらしい。

私の兄は家族想いで優しくて文武両道、眉目秀麗びもくしゅうれい、無理に欠点を挙げるとすれば超が付くほどのお人好しである事だが、それゆえに広い人脈を持っている、5つ星どころか夜空に散らばる全部の星を溶かして合成したトロフィーを贈らなきゃ正しい評価とは言えないような、私の自慢のお兄ちゃん。

そんな兄がこの男と関わると、途端に正常な思考が出来ずにいつもは明瞭めいりょうな視界が一気に狭まり、耳は都合の良い所しか拾わなくなる。そしてその日の予定なんか投げ出して兄の言う「探偵の助手」役にてっするのだ。__なんなら探偵に合わせて知能も低下している気配がある。

息を整えた男は兄を見上げると、「水を、、」と図々(ずうずう)しくも所望した。

すぐさま氷の入った冷たい水が男の下へと運ばれる。

受け取ったそれを一気に呑み込んで、男は大きく溜息を吐くと額の汗を拭いた。

そこへピーンポンとインターホンが鳴る。

男の肩がびくりと揺れた。

「しまった!もう来てしまった」

その表情は作り物じゃない恐怖に支配されている。

インターホンは何度も繰り返し押されているようで不気味なメロディーを奏でている。

慌てて男は立ち上がる。「誰に追われているんですか?殺人鬼ですか?」殺人鬼であってほしそうな兄。そして私。

「実は殺されそうなんだ」

目をまん丸に見開く兄と私。まだ中身が残っているコップを荒々しくテーブルに置いて、ベランダへと戻ろうとする男「頼む!なるべく時間を稼いでくれ!!その間に逃げるから」男の後をパジャマ姿で追おうとする兄。

「待ちなさい!」

男とベランダの間に立ちふさがった知らない女の人。

玄関の扉、とそれを開けた私。


彼女は言った。

「このろくでなし!人でなし!冬樹をどこにやったの!誘拐犯!!」


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