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忍び寄る魔の手

「…………」

「…………」

 二人の沈黙に足音だけが流れる。流れるという表現は適切では無いかもしれない。少なくとも、片方のサトウユウタロウの耳にはこの足音が一つ響くたび、寿命がすり減るような緊迫感を感じている。


「私と主従契約をしないか?」


 そう切り出され、ひとまずこれ以上居座れば酒場への迷惑になるとサトウが提案すると、それを承諾し、今は月明かりの下に2つの陰を並べることとなった。


 サトウは先程は月の逆光で見えなかった相手の容姿を今は詳細に視認出来る。もっとも、視認は出来ても、輪郭のない影を見ていた時との情報量の差は微々たるものだ。


 相手は使い古しのマントで身を覆い隠し、顔を虚無僧が被るような藁鼓で外界と遮断している。端的に言えば明瞭な認識が困難であった時のほうが幾分かよかったと、そう思えるような異様な出で立ちだ。


「それで、考えてくれただろうか」


 沈黙を破ったのは、そんな異様な相手だった。考えとは当然、主従契約についてだ。くぐもった声と表情の見えない姿が与える威圧感。それは龍に睨まれる蛙の子。これに対し、サトウは


「え、あ、すみません何のことでしたっけ?」


 と、ただはぐらかし逃げることしか出来なかった。己に降りかかる火の粉を払う事なくしゃがみ込み、見ようとし無いことで無きことと同義にしようとする、無知蒙昧で恥ずべき愚行。それが真綿で首を絞めゆくだけだと、何処かで気が付いていながらそれでもその無舗装の畦道を選ぶ。何とも見事な醜態である。




 だってしょうがないじゃん。怖いよこれ。良く見るとこの人割りと良く酒場の隅の席で飲んでた人なんだ。

 

 前におっさん連中が絡みに言って

「アイツ一人で飲むのが好きみたい……」

ってしょぼくれて帰って来た奴だ。


 ハッキリ言って、話した事は無い。そんな相手が主従契約を向こうから持ちかけてくる。正直マジで初対面の人より逆に怖い。


「ハクシ君、これを」


 今度は手のひらを見せて来る。白いきめ細やか肌の上に、少し色が斑だがそれがかえって美しい金貨がよく映える。

 ん、てかこれ……


「斑金……上から2つ目の階級ですかこれ?!」


「そう、私ならギルドの快速列車の利用が可能だ」


 これはようするに『私と契約すれば列車で何処でも行けるぞ』という誘惑なわけだ。ヤバい、ちょっと惹かれるものがある。


「給料も相場の2倍……いや、君の言い値を出そう。どうだ?自己で名乗るはいささか陳腐だがこれ程の優良物件はそう多くはないぞ」


 そう多く無いどころか、俺の経歴を踏まえれば異例、というか異常な好条件だ。

 だが、世の中にそんな甘い話があるとは思えない。無料程怖いものは無いと先人も語っている。


「俺に求める条件は?正直、好条件過ぎて信用出来ない。貴方は俺の何を欲している?」


「……………」

虚無僧は黙り込んだ。やっぱり俺の内蔵を売りたいとかそういう話なんだろう。間違い無い。


「君がドラゴンを埋葬しているのを見た」


 俺が疑心を抱きまくっていると本当に予想外のところから返答が来て、思わずドキッとした。奴の言う通り、ボロボロになった遺体をせめてもの罪滅ぼしにと台車で運び、森の奥地に埋葬した。

 まさか見られていたとは……


『魔物をこんな丁寧に埋葬したのバレたらヤベーですよ。異端尋問待った無しです』


 受付嬢が埋葬し終えた俺にかけた言葉が脳裏をよぎる。これを聞いちゃったんで街の皆の『ドラゴンはどっかに飛んでいった』説を否定出来ないんだ。


「そのままじゃ往来の邪魔だと思ったんだ。結局倒した奴は名乗り出なかったし俺の手柄にすればよかったって後悔してるよ」

 俺はさも業務的に行っただけでそこに感情は介在しない体を装った。


「……誰が倒したかは知らないが、ならば掘り起こせばドラゴン退治の栄光は君のものだ。何故そうしない?まさか魔物の尊厳のため、等と言う訳では無いだろう?」


 あ、これキレてる。どうしよ。まさにその尊厳のために掘り起こさなかったんだが。正直に言ったらキレるんだろなぁ……


「…………実は通りすがりの剣士が助けてくれたんだ。カッコいい剣士でさ『名声は要らないドラゴンも命だ。土に帰してやってくれ』って、そんな彼の意思を尊重したくてさ」


「では何故酒場では自分が倒したなどと妄言を?」


 あ、聞かれてたんだ。秒速論破。やべ、終わった。


 何をどう言って誤魔化そうと考えあぐねていると俺が初めてこの町へ来た際にくぐった東門へついた。もう、歩く事で沈黙をごまかせない。


「……明日の夜、私はこの町を出る」

 再びの沈黙を破ったのはまた虚無僧だった。


 その一言を残すと、俺を一人残し虚無僧は来た道を戻っていった。

 俺にはその背中を夜の闇が隠すその寸前まで、ただただ見つめることしか出来なかった。







 昼、俺はあれから一睡も出来ずにいた。アイツがあの時あのタイミングで言った言葉は

『明日の夜、共に町を出たいならこの門へ来い』

そういう意味だろう。

 

 俺は悩んでいる。絶対にヤバい奴ではあるが、俺が町を出るにはこの手しかない。その悩みを晴らす為に俺はこうして受付嬢に相談している。


「あの方ですね。実は私の担当なんですよ」

 そう言って受付嬢に一枚の紙を渡される。アイツの履歴書だ。


「いいんですか?本人の承諾無しに」

「承諾頂いていますから。というか貴方の履歴書もあの人に見られてますよ」


 え、プライバシーの侵害!えっち!

「金階級は自分より下の階級の履歴書を自由に閲覧出来るんです。キャラバンのヘッドハンティングだったり今回のケースみたいなことに利用ためですね」


 なる程、そうなるとあの虚無僧俺の履歴書を見てから誘ってきたのか?もう戦力目当てでの声かけの可能性0じゃん。異端尋問したいだけじゃん。


 てかよく見たらコイツの履歴書無記入多すぎだろ。得意魔法が水でメッチャ活躍してる以外名前も来歴も無記入っておかしいだろ。


「貴方の登録の際にお話しした前科者用の登録覚えてます?この人それでいいからって強引に名前も来歴も無記入で通したんですよ」


 はい、クズ確定!!超逃げます!!いや、逃げれんのか?俺はこの町を自力で出れないし、出るにはアイツに付き従うしか無い。

 無理じゃん。今度は辞世の句考えとくか


「だからドラゴンの死体は放置でいいって言ったじゃないですか……案の定怖い人に目をつけられてるし……」

「そのことなんですが……どうして魔物ってそんなに嫌われるんです?なんかしたんですか?」


 俺の何気ない一言に受付嬢は鳩が豆鉄砲を食ったように大きく目を見開いた。え、俺なんかしちゃいました?


「サトウさんって……田舎者とは言いますが流石にものを知らな過ぎですよ……」

 受付嬢は心底呆れ果てるかのように大きく溜息をつくと、いつものように本棚から一冊の本を取り出し、胸ポケットからは眼鏡を取り出すと、それを装着した。



「歴史のお勉強です。今日は『対魔戦争』についてですよ」





 


分かりにくいと思うのでここでザッと纏めます。


『魔法の九九』『無』をベースに説明します。


1 直接攻撃 (魔力をそのままぶつける)

2 防御壁  (魔力を空間に留め防御壁とする)

3 身体強化 (魔力を体に纏わせ鎧とする)

4 探知   (魔力を空間に漂う波とし反射で探知する)

5 回復   (魔力で生命力を補う)

6 攻撃強化 (魔力を身体内部に流し一体となる)

7 斬撃   (魔力を細く高出力で放ち切り裂く)

8 顕現   (特殊。自身の魔法適性を化身とし顕現させる)

9 極    (超特殊。異なる属性で上記の魔法が使える)


イメージはこんなんです。因みに5の段以降は一気に難しいのでこれが使えるとExcel使えるぐらい就職に有利です。

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