旅路へ
受付嬢いっぱい出てくるので書いてて楽しかった。
俺は元来旅行が好きだ。別に自分探しにインドに行くとかそういう大げさなやつじゃない。そもそもインドに自分はいない(事実)
知らないものを見て「へ〜」と思う。これが大好きだ。シンプルな知的好奇心だがそれが俺の旅路を進む燃料になる。
そんな俺だから正直異世……都会に来て胸が高鳴ったし、この世界のあちこちを回りたいとも思っている。君と離れるのは寂しいがその束の間の寂しさも、人生を盛り上げるスパイスだ。
そうして色んな人と出会い、別れ、時には深い関係を築く。それが人が生きるって事の本懐だ。そうは思わないか?
「……ポエミーなこと言ってますけど要約すると『旅に出たいからキャラバン紹介してくれ』であってます?」
「うん」
この異世界に来てから、俺はそれなりの戦力になれると自分で自信がついた一ヶ月だった。ここらでこの町『イラミザ』を離れて色んな町を見てみたい欲求が高まって来た。
「うーん、ちょっと難しいですねぇ……」
しかし俺の提案に受付嬢は難色を示す。そんなに俺と過ごす日々を気にいってくれていたのか……ちょっと照れるな。
「……チッ……そうじゃないんですよ。これ、書いてみてください」
軽く苛立ちを見せた受付嬢は一枚の紙を渡して来た。その紙は異世界に来てもう二度と出会わなくて良いと思っていた大嫌いなアイツにそっくりだった。
「り、りりりりりりりrrrrrrrrrriiiriririri履歴書ォ!?」
「え、ここそんな驚くとこじゃないでしょ……」
鳥肌が立ち過呼吸気味になっていた俺を心配するように、俺に渡した紙を一旦自分の方へ引き寄せ説明を始めた。
「まず、旅に出るとなったら方法は2つあって自力かギルド経由です。自力は文字通りですが、ギルド経由は馬車や列車、何なら飛行船なんかの手配をして貰えるんですね」
なんて魅力的なんだギルド経由。ぜひお願いしたい。
「ギルドも商売ですからね……そう優しくはないんです」
そう言って彼女は俺の胸元に手を突っ込むとガサゴソと何かを探し始め、暫くすると「あった」と呟き手を引き抜いた。
「コレ。覚えてます?」
彼女の手のひらで光を反射させている金属。覚えている。俺が登録当初に貰った銅貨だ。確かギルドでの階級に等しいんだったか
「そうです。コレが最低レベルでギルドから活躍が見込まれると半銀、斑銀、純銀、半金、斑金、純金と階級が上がってくシステムです」
「それでこの階級に応じ半銀なら馬、斑銀なら馬車とギルドの手当が厚くなるんです」
なるほど?つまりこの前ドラゴンを倒した俺はまぁ一歩前身で半銀級ぐらいに昇格したと。そういうわけだ。
「あ、あの……それは……」
その事に出来れば触れて欲しく無かった。とでも言いたいのか受付嬢は急にしおらしくなり目線を反らし始めた。
「え、あ、そうですよね!俺がもっと早く気がつけば町の被害も、負傷者だって出なかったんだし……すみません……不謹慎でした」
冷静に考えれば分かった筈だ。幸いにも死者は出なかったがそれはこの事件を茶化して良い理由にはならない。調子に乗った自分を恥じ奥歯を痛い程噛み締める。俺は馬鹿だ。
「あ、いや謝らないでください!!寧ろ……ごめんなさい……私が……」
そんな俺の反省を感じ取ったか、今度は逆に謝られてしまった。俺が不出来だった事はあれど彼女は街とそこに住む人々を守る為、最前線に立った人だ。何を恥じる事がある。
「そうじゃないんです!貴方の言うとおり、というか半銀じゃ足りないですよ!半金級になっても可笑しく無いんです!だってドラゴン!!しかもかなりの上位種ですよ!?」
「なのに、私の信用が足りないせいで本部からは貴方の活躍は『ドラゴンが病気だったんだろう』で済まされちゃって……」
心底悔しいと、そう思ってくれているのが伝わってきた。本当に優しい人だ。俺が中学生だったら惚れてたな。
「話の腰を折っちゃってすみません。続けてください。」
「あ、いえごめんなさい……声荒らげちゃって……」
エヘヘと笑いながら目元に僅かに溜まった水滴を拭い終えると、話が再開された。
「兎にも角にも、貴方は銅階級ですし角ウサギ狩りじゃ対してお金も貯まってないでしょうしで選べる道は一つです。」
「それが、最初に俺も提示したキャラバンですよね?」
何でもキャラバンに所属すると自身の活躍がキャラバンの評価になる代わりに、安定的な給料の保証と個人ではなくキャラバンの階級で特権利用が出来るんだと酒場のだる絡みおじさんが教えてくれた。
「その通りです!そこでこの紙に話が戻るんですね」
そう言ってペラッと薄い紙を指で摘み上げ、こちらに見せて来る。
「この紙に自身の経歴や使用魔法、武器なんかの強みを記載してキャラバンに送るんです。そしたら大抵通達があって即採用か面接か……即戦力と見込まれたらヘッドハンティングもありますが……」
なんてことだ……まんま就職じゃないか。異世界に来ても俺に就活しろってのか?今から終活したくなってきた。
再び過呼吸になりかける俺を無視し、受付嬢は話を続ける。
「ですが……貴方はキャラバン滞在経験無し、田舎出で使用魔法は無属性で剣術検定も無ければ騎士院や武術場卒でもない……」
「待って、もういい。ちょっと今フラッシュバックで死にそう」
この世界の俺は中卒の無免許、検定、資格無し履歴書大半空白期間のヤベー奴なわけだ。なる程。どんなキャラバンも取ってくれんわ。
「いや、貴方の目的が特権利用なので自身より評価が上のキャラバンでの話をしてるだけで選ば無ければ入れますよ!?」
受付嬢の慰めにならない慰めが俺を痛めつける。そうやって入れりゃいいやで決めたのが俺のかつての就職先なんだ……
「いや、待ってください。俺には俺にしか使えない固有の『弱体化』があります!これは売りになりませんか!?」
「うーん、実は固有魔法の偽造とかが良く問題になってですね……例えばどっからどう見ても雷なのに『違う!俺のは『電魔法』だ!!』とか言う人が多すぎて今は基礎4大魔法の高位段を使える人が高評価ですね」
「……無魔法の高位段は?」
「オリジナル偽造魔法以下です」
草。
俺は今酒場の前にいる。
何故ならたった一つの光明を得たからだ。受付嬢曰く
「個人での採用はいかがですか?従者という形であれば主人の特権を用いて活動出来ますよ?」
との事だ。尚、彼女がその後続けた使い潰し問題やただの奴隷問題はこの際気にしない。イラミザを出れたら即効契約破棄してやる気まんまんだからだ。
履歴書には残るがキャラバンと異なり契約破棄に面倒な手続きが要らないってのがいい。それに俺の実力ならいつか素で階級も上げられる筈だ。そう信じなきゃやってられん。
「まさか異世界に来て誰かの従者になるとは思わんかったなぁ……」
別に無双とかには興味は無いがもうちょい悠々自適な生活を送りたかったなぁ。そういった不満を飲み込み、俺は酒場の扉を開いた。
後暫くすると冒険が始まります