相対的最強へ
今回受付嬢出てこないので書いててつまんなかったです。
アレから数日、ようやく自分が持っていた才を理解した。
俺は無属性魔法の天才のようだ。教会で魔法適性を診断したが俺の紙は真っ白。それを見た受付嬢の見解はオメーの才能ねーから!!という非情なものだった。
しかし、それは誤りだったのだ。
無属性の才を表す色は「白」。その白色で他の色を塗りつぶしていたようだ。これに関しては前例があり以前登場した火の探求書。その著者である「火の賢者」には紙を真っ赤に染め上げたという逸話があるらしい。
俺はそんな天才に並ぶ才を秘めていたわけだ。興奮してきたな。
ところがどっこい、そう上手くはいかない。ここで無属性魔法がボロックソに言われる最大の所以、悲しきまでの燃費の悪さが立ちはだかる。
この世界の魔法は自身の持つ魔力に、自然的に存在する魔素を巻き込んで発現させる技術だ。この巻き込んだ魔素が自身の適性に反応し属性変化を起こす。こういうシステムなのだ。
お分かり頂けただろうか。無属性はこの内の自身の魔力だけで勝負しなければならない。何なら他の魔法なら巻き込む事で浮かせられる魔素の分も自腹を切らなければならない。
そんな魔法の才能を持っているというのはみんながライター持ってる時代に錐揉み式で火を着ける才能を持ってるに等しい。悲しいね。
そんな俺が唯一縋れる最後の城、それが『弱体化』だ。前例の無い『無属性の9の段』。だが俺にはコイツに期待する理由がある。
受付嬢が俺に身体強化系の魔法を勧めていた理由、それは魔力消費が殆ど無いからだ。体に纏わせて使い終わったら再吸収可能のコスパ技。
そんな低燃費技が俺の手にかかれば過剰な肉体への強化による負担で相手を瓦解させる即死技になる。まぁ……グロ過ぎて出来れば二度と使いたくないトラウマ技だが……
そこから発展したのが俺の9の段、『弱体化』。相手に俺の魔力を纏わせる後で回収可能な低燃費魔法。これに期待するなというのが無理だろう。
そういうわけで俺はもう一度因縁の相手、角ウサギ君と睨み合っている。彼は角は滋養強壮、肉は食用、皮は加工品と全身が素材なうえ農作物を食い荒らす害獣という役満なので何時でも討伐&納品依頼が出ている。
睨み合う両者、ハッキリ言えば実力は拮抗している。というかよーいドンで殴り合えばKO負けすらあり得るので拮抗はちょっと盛ったかもしれん。
だが、そこは天下の人間様。奴が強力な脚力を持って産まれたように俺には頭脳がある。
「『無の9×3【鎧装低下】』!」
9の段は特殊で今までの魔法がかけられる数を種別、かける数を出力で表していたのに対し、こちらはかける数が今までのかけられる数に対応している。
ようは『身体強化』である3に対応し、9×3はいわば『身体低下』なわけだ。
さて話を戻す。ウサギ君には俺の魔法がクリーンヒット。しかし気にも留めず俺の顔面に向かって蹴り込んで来る。(角は異性へのアピール部位なので戦闘には使わないと受付嬢が言っていた)
鋭く速い蹴りを既のところで躱す。事前に【全鎧装】をかけておいたお陰だ。やはり、あの時のドラゴンのようには死なないのか。それに関して受付嬢から2つの考察を受けている。
一つは魔法としての在り方の違い説。そもそも3の段系の強化魔法は【鎧装】とつくように防御が主眼で攻撃面は肉体強化による副産物だったらしい(攻撃特化は6の段になるそうだ)
それが殺意を込めて使われたことで肉体に過度な負担をかけ自壊させるヤベー魔法となったのがあの1件だ。ようは想定外の運用によるバグと考えると分かりやすい。
対して【弱体化】は名の通り対象を弱体化させる魔法。その魔法を使ったのに相手が即死したならそれはもうあるのかは知らんが【即死】とかの分類だ。
そして2つ目の理由。それは俺に9の段の才が無い説。
珍しい話ではあるが水魔法の天才が9の段で氷に発展したのでそっちもウッキウキで極めようとしたら氷の才は毛ほども無かったなんて事もあるらしい。
つまり、俺は無の天才でも弱体化では凡人ってことはあり得るわけだ。
「前者ならヨシ、後者な容易な死って感じだな」
再び足に力を込め、跳躍の構えを取る兎に対し抜刀する。もし俺に才能があったなら、奴の防御は紙になっている筈なのでこの剣で真っ二つに出来る。深呼吸し、相手の出方に合わせる。
瞬間、兎が視界から消える。跳躍したことまでは理解出来るが高度が想定より高い。目線を直ぐ様上げたが逆光で姿を追えない。驚いた。ここまで考えていたのか?序盤、人間の武器は頭脳だとイキったがそれすら負けていたか。
頭を守るように、咄嗟に剣を上げる。と言っても脊髄反射のようなもので意識したものではない。この瞬間の俺の脳裏には焦りしか存在せず思わず目を瞑ったままだった。
────いつまでたっても衝撃が来ない。
恐る恐る目を開く。目視可能な範囲に兎はいない。隙に生じて逃げたか?なる程賢い。完敗だな。
そう納得しかけ、安堵の溜息を溢した時にふと気が付いた。顔が熱い。掌で触れるとベットリと血がついた。剣に目を向けるとハッキリと血糊で汚れている。
一つの予感の下、俺はゆっくりと振り向く。
そこには草木を濁った赤色に染め、真っ二つに切り裂かれた兎の骸が横たわっていた。
条件証拠で考えるならこの剣で落下してきた兎を切り裂いたことになるが手応えはなかった。紙を切るとか豆腐を切るとかそういう次元じゃない。虚空に向かった素振りすら超える、そんな切れ味だ。
「……前者だったか」
血振りし、刀を腰へ戻す。よかった。俺は弱体化魔法の天才でもあるようだ。
しかし─────
「……角ごと真っ二つって……これ依頼料ちゃんと全額くれっかな……」
才能だけじゃ駄目だ。ちゃんと鍛錬しなきゃな。当たり前だが大事な事を改めて胸に刻んだ。
これで第1話完ぐらいのノリです。