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足枷の才

戦い終結&世界観掘り下げ

 俺の魔法は確かにドラゴンを捉えた。これで地面に追突しそのまま土へおかえり頂けるならそれ以上の幸せは無い。


 だがコイツはドラゴンだ。正直この程度の衝撃でくたばるとは思えない。取り敢えずのその場凌ぎ。逃げる時間を稼げれば御の字。


 そんな俺の思考を妨げたのはけたたましいドラゴンのうめき声だった。つい先刻までの覇気は何処へ行ったのか、身を捩らせ、地面へ力無く墜落するとビクビクと痙攣を続けている。


「な、なんだ?魔法アレルギーか?」


昔給食中に海老食ってぶっ倒れた親友のスズキが脳裏をよぎる。あの時のアイツにそっくりだ。


「い、いや……そんなもんじゃないですよこれ……」


受付嬢は絶句していた。無理もない。


明らかに、異様だった。


 双肩の筋肉が異常に盛り上がり皮膚を切り裂き肥大を続けそのうちブチブチと血管が千切れ血が滲み、肋骨が鱗を跳ね除けド根性大根のようにミシミシと引き出される。

 顎は限界まで開かれ何かに哀願し、すがるようにうめき続ける。それも何かには届かず、伸び始めた牙が上下の歯肉を強引に縫い付け長くは続かなかった。


 苦しみに喘ぐ痛々しいその姿に受付嬢は目を反らし、俺は思わず口元を覆った。何だこれは?何が起きている?俺の魔法の効果か?


 馬鹿な……強化魔法だぞ??唱えたのはバイキルトであってザラキじゃない。ドラゴン側に問題があるんじゃないか?感受性豊かか?


 必死に脳内でドラゴンへの意味のない弁解をこねくり回す。しかし、肝心のドラゴンは不自然な呼吸音を響かせるだけで動かなくなった。死前期呼吸という奴か……初めて聴いた。


 俺は腕に抱きついていた受付嬢の手にそっと触れる。何かを察したのか受付嬢は静かに頷き、両手を解いた。


 俺はドラゴンに近づきながら剣を引き抜く。


「悪い……せめて最後は……」


…………ウサギを殺した時にも感じた鈍い感触が掌でジンジンと響いている。あの時は一発で仕留められた事で上手いこと喜びに置換されていた事を今になって思い知る。

 

 この世界にそんな文化があるのかは知らないが両の手を合わせ冥福を祈ることにした。何かしないと手の震えが取れそうになかったからだ。


 その直後、不意に脳味噌に言葉をたたきこまれた。

 

『無属性 極 弱体化』


 声が聞こえた訳では無く、ただ脳味噌というページに新たにペンを入れられたような、不思議な感覚だった。






「天啓ですよ、それ」


 辛うじて雨風を凌げる程度の面影を残す受付で、先程の不思議な体験について話をした。


 度々登場する魔法の九九。その九段には『極』とある。何でも、魔法習得度MAX時のボーナスみたいなもんで今までの魔法の発展系が揃っているのが9の段らしい。

 その習得は何故か直感で理解出来る事から人々はその現象を『天啓』と呼んでいるそうだ。


「人によって『極』は千差万別ですけどまぁ、風が雷になったり水が氷になったりがメジャーですね〜」


 その言い方だと俺の『弱体化』はメジャーでは無いように聞こえるんだが


「メジャーじゃないどころか……私はそこそこ本の虫ですけど聞いたことないですね」


 えぇ?ルカニが珍しい世界?


「前にも話しましたが無属性ってホンッット人気無いんですよ。弱っちいので」


 そう言って、彼女はこれまた生き残った本棚から一冊の本を引き出す。


「これ、火の探求書って言うんですけど火魔法がどういった『極』をするのかとか火の優位性を説いた本なんですね」


「そしてこのシリーズはこんな人を撲殺可能な厚みでありながら16号まで発行されてます」


「で、別属性でも類似シリーズがあって水も16、風は13……土はちょっと人気無くて8までなんですがまぁこんだけ発行されてんです」


「さぁここでクエスチョンですよ!」

「お、やっと俺が喋る機会が来たな」


「無はシリーズ何冊出てるでしょう、か!!」


 ……無難に考えれば3とか4かな?いや……問題にしてくるぐらいだし……


「……1冊……とか?」

「……ハイ!残念でした~!」


受付嬢はこれ以上無い程の満面の笑みだ。まぁこの笑顔が引き出せたって事で手打ちにしよう。流石に2冊ぐらいは出てたか。


「んにゃ、0です」

「は?」

「1の下。無。無属性だけに」

「いや、0の概念を知らない訳じゃない」


 驚いた。この衝撃は俺に何の魔法の才もないと突きつけられたあの日以来か


「そんなことある?」

「あるんですね~世の中面白い!」


 そう笑いながらポンポンと背中を叩かれる。その手からは微かに同情の優しさが伝わってきた。


俺は何も面白くない。辛い。






もうちょっと世界観掘り下げたら次行きます

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