才華開花
戦闘します
接戦だった。
剣に強化かけた上で右腕にも強化をかけて振りぬく。当たれば確かに大ダメージだがそもそも俺の剣の腕がへなちょこ何で全然当たんない。
まぁそれでも【全鎧装】のおかげで受けるダメージを大幅にカット出来るので泥沼試合に持ち込めば勝てるのだが。
「ハァ…ハァ…俺は……ゲホッ…やっぱり……チート転生者…だったのか」
転生時に神様に何かを授かるパートが無かったので正直駄目だと思っていたが、天は俺を見放していなかった。ありがとう神様。今日からは信じるよ。でももう少し贔屓して欲しかったよ。
さて、嬢ちゃんから貰ったのはトゲ兎の数匹討伐クエストだが、想定よりは早くに終わってしまった。まだ日も高いし薬草納品の方もついでにやっとくかな。
そう考え立ち上がると同時に大きく伸びをする。ゴキゴキいう背骨の音が疲れた俺には心地良い。その瞬間にふと気がついた。何やら焦げ臭い。
臭いの方向へ注意を向けると町の方角だ。黒煙が上がっているのが1km程離れたここでもハッキリ目視できる。祭りの篝火?にしては大きすぎる。シンプルに火事だろうか?思考を巡らす俺の脳に鼓膜から新情報が流れ込む。地響きのような唸り声。
「なるほど、ドラゴンか」
ドラゴンの鳴き声なんて23年の人生で初めて聞くが怪獣大国日本に産まれた俺はなんとなくアイツらの声に近い物を感じ取った。
「まったく、俺のスペシウム光線(極細指ビーム)が効くといいけど」
自分に何が出来るかは知らない。
だがどうせ2度目の人生だ。派手に散るならそれはそれでアリだろう。そう結論した町へ向かう俺の足取りは軽かった。
町は一瞬で炎に包まれた。突如現れたトカゲの怪物が私達の日常を踏みにじる。銃も剣も通さない固い鱗、容易に鎧を切り裂く爪牙、羽ばたくだけで人を吹き飛ばす両翼。
全てがケタ違いだ。
そもそもこの町は、魔物の発生数が年間を通じて低い平和さが売りだ。当然駐屯する冒険者の強さもそれに比例して大したことはない。
それは別に悪い事では無い。適材適所だ。寧ろ急にこんな弱っちい町を襲いに来たクソトカゲサイドに問題がある。
だから私は受付嬢として冒険者に市民を護衛しながら逃げるように通達を出した。彼らが戦い、命を落とす必要はない。
私はこれでもギルドの受付だ。冒険者を死地へ送る役職の人間が自分は命が惜しいなどと言えるものか。唯一の心残りはサトウさんに初めての討伐クエストの報酬を渡せなかったことか。
あの人は田舎生まれというが賢い。きっとこの炎を見たら逃げ出してくれる。
あ、こっち見たなクソトカゲ。よぉし、こう見えても子供の頃は男の子に混じって冒険者ごっこしてたんだ。その時培った剣の腕を……あれ?ちょっと、火吹こうとしてない?え、遠距離攻撃?おまっ、ちょ、ふざけ……やめろって、いやいやいやそれはない!って─────
「喰らえ!!」
俺の渾身の指ビームが直撃する。鱗が僅かに焦げているが絶対に効いていないのをヒシヒシと感じる。
「サトウさん!?」
「あ、無事!?良かったぁ。亡くなってたらこの世界は火葬なのか土葬なのか知らないんでどうすべきか迷ってたんですよ」
「今火葬寸前でしたよ!!」
ドラゴンの眼光が受付嬢からこちらへ移る。見られるだけで刃を突きつけられているようだ。おしっこチビリそう。
「……『無の3×2』『無の3×3』『無の3×6』同時発動!!」
【腕鎧装】【全鎧装】【他者干渉】を重ねがけする先程兎を切り裂いた現状の俺の最高火力だ。しかし兎と違い直接斬りつけるのは難しいだろう。
「2度目の!喰らえ!!」
そう判断した俺はそこらに転がっていた明らかに俺の剣より良さそうな誰かの忘れ物を思いっきりぶん投げる。
学生時代のボール投げの記録は14mとかのへなちょこだが強化魔法のおかげで草野球なら名ピッチャー扱いぐらいの肩になっているようだ。ぐるぐると回転しながらドラゴンへ向かう剣はやがて首下に狙いを定め、直撃する。
サクッとドラゴンの鱗を裂き、突き刺さる。命中だ。
ところが寧ろ痛みで目が覚めたのか翼を大きく広げ、凄まじい雄叫びを天に轟かせている。どうやら痛いには痛いようだが致命傷でも何でも無いようだ。
「あれぇ〜?」
「あの巨体ですよ!?針が首に刺さったら貴方は死ぬんですか!?」
なるほど。あ、これ詰んだか?畜生神様め明日から信じないわ。
ドラゴンが瞳孔をかっ開き俺を睨みつけ、反撃に出ようとしている。何が来る?爪か?牙か?火か?悩む暇はない。何か対抗策を打たなければ目の前が真っ暗になっちまう。取り敢えずこの攻撃をどうにか凌いで……
いや、凌いでも俺の腕じゃ倒せないし、逃げるのも無理だろう。だってアイツ飛べるんだぞ?
──ならば、ここで奴に一発噛ますしかないな。
「よし、『無の3×3【全鎧装】』……」
「馬鹿!!受けられないよ!避けて!!」
分かってる。受けたらこっちがミンチだろう。何が来てもギリギリで避ける、その為の全身強化だ。次に敵の動きを確認する。
奴は巨体に似合わぬ速度で空中に飛翔、そのまま重力を味方に俺を潰す気だ。だが、
「それは悪手だったな……羽付きトカゲ!!」
「『無の3×6!【他者干渉】』!!」
無の3×6。自分以外の存在に強化を掛ける魔法。普通は剣や鎧、味方に使う魔法だが今回の対象は敵であるドラゴン君だ。
(弱っちい俺ですらお前の首に剣を刺せる程の強化幅だ。メッチャ強いお前に使えば突然のことに制御出来ず地面に追突するはずだ!!)
それが俺の狙い、『ドジっ子ドラゴン』大作戦だった。
結果から言えばこの勝負は俺の勝ちだ。なんなら圧勝した。
だが、俺は想定していなかった。あんな勝ち方になるなんて……予想すらできなかった。
次回戦闘終わります。