それぞれの就職先
「よくわかんないけど、シーラはきっと料理が上手になりたいのかも。調理実習、致命的な下手くそだったし」
「それ、ラーシャが言うか?」
セルジュに突っ込まれ、ラーシャは頬を膨らませた。
「ただのドーナツを作ったはずなのにクリームドーナツになってたもんな」
「小麦粉の生は危険ですから…あれは食べてはダメですわね」
「わ、私だって!頑張れば上手に出来るって!」
ラーシャは顔を真っ赤にして反論したが、誰も信じてる様子は無くさらに頬を膨らませた。
「そういえば、意外って言えばダルテも意外だよな。まさか、ニアの家の[麒麟商会]に就職するなんてな。てっきりフォルテの実家の貿易商[玉葉]に就職すると思ってたのに」
「ニアの家は竜の国一の貿易商だからな。やっぱり働くなら[麒麟商会]の方がよかったんだろ」
ソルの疑問にセルジュがそう答えると、再び話を聞いていたエルが目を輝かせた。
【それはズバリあ…ぐふっ!!】
先ほど同様、エルはルーキス達に羽交締めにされてベルナデッタに今度は肉の塊を二つほど口の中に捩じ込まれた。
「べ、ベルナデッタ…エルの顎外れないか?大丈夫か?」
ソルが怯えながら聞いてみると、ベルナデッタは鼻で笑い【これくらい大したことではない】と言ってのけた。
先程と同様、訳がわかってない三人を除いてニアだけが少しだけ恥ずかしそうにしていた。
「ニア?」
「な、なんでもありませんわ!」
ラーシャに顔を覗き込まれニアは慌てて顔を逸らす。
卒業式少し前に、ダルテに言われたことを思い出す。
『いつか、[麒麟商会]で一人前になってニアのお父さんに認められたら俺と付き合って欲しい』
あの時、ニアはダルテの告白を『自分にはいつか父親が決める婚約者と結婚する事になっている』と言って断った。
だが、ダルテの告白はすごく嬉しかった。…胸が苦しくなるほどに。
「フォルテはやっぱり実家の[玉葉]に就職したんだよな」
ソルの言葉にニアは我に返ると頷いた。
「ええ、長男ですから跡を継ぐのかと思ったのですけれどどうやら御当主様は弟君に継がせるつもりのようですわね」
「そうなの?フォルテは継ぎたくないとか?」
ラーシャの言葉にニアは首を横に振る。
「そう言うわけではないと思いますわ。…前から後継は下の息子にって言っていたようですから」
「長男ってなんでも跡を継がされると思ってたからちょっと意外だな。俺の家だって親父の跡継ぎは最初から兄貴だって決まってたし」
ソルはキングズリのフライを口の中に放り込みながら言う。
「フォルテも実は苦労してるのかもな」
セルジュは誰に言うわけでも無く独り言のように呟きた。
少しの間、沈黙が流れた後セルジュが困ったように笑った。
「俺のせいで少し話が重くなったな」
「大丈夫、そんな事ないよ。…んー、フォルテ関連で話を進めるならベインも意外だったなぁ」




