守るのは簡単じゃない
その光景にその場にいたものは凍りつく。もちろん、セルジュも。
フォルテの顔面に当たった鞄は音を当てて床に落ちた。その音で荷物がかなり入っていることがよくわかる。
「誰だ…!この俺の顔に鞄を投げたやつは!」
「私だけど?」
そう言ってフォルテとセルジュの間にラーシャが立つ。
「ラーシャ、テメェ…!俺を誰だと思ってるんだ!」
「人の心を傷つけて嗤ってるクソ野郎だと思ってる」
顔を真っ赤にして怒鳴るフォルテに怯むことなく言い放つラーシャに教室に残っていた他の生徒がクスクスと笑う。
それにさらに腹を立てたフォルテがラーシャの胸ぐらを掴む。
「ちょ、やめなよ。それはまずいって」
「うるせぇ!!!俺を馬鹿にしやがって!」
シーラの静止の声を無視してフォルテが拳を高く振り上げた。
これはちょっとまずいのでは…!?だけど、ここで怖がったらかっこよく出てきた意味がない!
「馬鹿!」
覚悟を決めて拳を見つめるラーシャの間に叫びながらセルジュが庇うように彼女の頭を抱き抱え、ソルがフォルテの拳を止めた。
「やめろよ」
ソルがそう言ってフォルテの拳を強く握り締める。
「チッ…」
フォルテは乱暴にラーシャから手を放し、ソルの手を振り払うと教室を後にする。
「おい!フォルテ!待てよ!!」
その後を慌てて取り巻きの三人が追いかけて行くのを見送ってからソルが咳払いをする。
「セルジュ、いつまでラーシャを抱きしめてるんだ?」
「…」
ソルの指摘にセルジュはすぐにラーシャから離れ、再び床に散らばる荷物を拾い集めようと座り込もうとすると、目の前に荷物を差し出された。
「どうぞ。これで全部ですわ」
ニコッと笑うニアにセルジュは何も言わずに荷物を受け取ると、鞄を拾い上げ中身を詰めると教室を後にする。
「あ!おい!セルジュ!!何か言うことないのかよ!?」
ソルの言葉はまるで聞こえていないように、セルジュは去って行ってしまった。
「なんだよ、あいつ。お礼も言わないで」
「まぁまぁ。別にいいじゃない。誰も怪我しなかったし!それから助けてくれてありがとうね」
ラーシャに礼を言われて、少し恥ずかしそうに頬を掻きながらソルはため息をつく。
「お前は少し無茶しすぎだ。もう少し考えろよ」
「そうですわ。殴られてしまうかと思ってドキドキしでしまいましたわ!」
「ごめん、つい身体が動いてて」
ラーシャは苦笑して二人に謝る。
その時、ふっとニアが真顔になり、ラーシャを睨む。
「あ、それからラーシャ。クソ野郎なんて言葉遣いは女の子はダメですよ。品格を疑われてしまいますわ」
さすがは、竜の国一の貿易商の令嬢。言葉遣いには厳しい。
「すみません…」
「気をつけてくださいね?」
「はい…」
素直に謝罪をするラーシャにニアは満足そうに微笑む。
ニアの機嫌を損ねずに済んだことに内心ホッとしながら、ラーシャはセルジュにも次会ったらお礼を言わなければと思う。
結局、守るつもりが守ってもらってしまった。ちょっと恥ずかしい…、と内心ため息をつくのだった。