切り離された世界で
セルジュはロベリエに連れられ、人混みから離れた路地へとやって来ていた。
祭りの喧騒から離れ、静かな路地はまるで世界には自分達しかいないのではないか、という錯覚さえ覚える。
「ロベリエ?どこまで行くんだ?」
こちらに背を向け、黙々と路地を進んで行くロベリエにセルジュは声を掛けた。
「もう少し」
振り返ることもせず、ロベリエはそれだけ言ってなおも歩き続ける。
セルジュは首を傾げて、肩に留まるニクスに視線を向けた。
【向こうには特に危険なものは無いから安心していいよ】
闇の力を使って、進む先の安全確認をしてくれたらしいニクスにセルジュは苦笑すると、そっと耳打ちをした。
「ロベリエが俺たちに危害を加える事は絶対に無いから、心配しなくても大丈夫だ」
【だけど、一年も姿を現さず急に現れたと思ったら、何も言わずに人から離れた場所まで連れてくるのは怪しいと思わないかい?】
ニクスはまだ怪しんでいるようで、周囲の闇を使って安全確認を怠らない。
確かに、いつもの様子が違うのは背中から伝わってくる。
だが、ニクスが心配するような事は絶対に起こらない、とセルジュは信じている。
しばらく進むと、ようやく路地の出口が見えて来た。
その先に何かあるのだろうかと思いながら、セルジュはロベリエの後をついて路地を出る。
路地から出るとそこは街外れだったらしく、少し離れた場所に森があった。
木々の隙間から見えるのは、光を一切通さない闇のみ。
光溢れる祭り会場にさっきまでいたせいか、今日は一段と夜の森が不気味に見えた。
闇はいつも寄り添ってくれる優しい存在なのに、どうして…。
ニクスがいつもよりも警戒しているせいで、闇も騒めいているのだろうか?
そんな事を考えていると、ロベリエが森に入る事はなく、そこで立ち止まるとようやく振り返った。
薄暗く、建物から漏れる光が無ければロベリエの表情が見えないだろう。
「こんな所まで連れて来てごめん。誰にも邪魔をされたくなくて」
ロベリエは申し訳なさそうな顔をすると、頭を下げた。
セルジュは微笑むと首を横に振る。
「大丈夫。何か深刻な悩みとかあるのか?」
セルジュの言葉を聞いてセツは、呆れたようにため息を吐くとロベリエの頰をペチペチ叩く。
【あいつ、全然気付いてないぜ?】
「そうね。…でも、いいの。ここで、わからせるから」
ロベリエは強い意志を持って真っ直ぐ、セルジュの顔を射抜く。
だが、決意とは裏腹に心臓は馬鹿みたいに脈打ち、自分の鼓動が耳にまで届きうるさい。
緊張で手に汗が滲む。
「ロベリエ?」
セルジュが心配そうにロベリエの顔を覗き込む。
「大丈夫か?」
セルジュの顔が思ったよりも近く、ロベリエは後退る。
「だ、大丈夫…!!」
そう言って、ロベリエは小さく深呼吸すると鞄から小さな箱を取り出すとセルジュに差し出した。
その箱を見てセルジュは目を見開く。
「受け取って欲しいの」
ロベリエの声は緊張で震えている。
セルジュは少し戸惑った後、箱を受け取った。
「開けても…?」
セルジュの言葉にロベリエは顔を真っ赤にして、無言で頷く。
ロベリエの了承を得て、セルジュは蓋を開ける。
中には、装飾部分にセツの真っ赤な鱗を使った美しいブローチが入っていた。
ブローチは建物から漏れ出た光を受けて、淡く煌めきを放っている。
ブローチの意味を正確に理解したセルジュは息を呑んだ。




