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竜使いのラーシャ  作者: 紅月
恋と友情と建国祭
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秘めた想い

「お茶、ありがとうね。空になったのもらうわ」

「ああ、悪いな」


 セルジュはそう言って、お盆ごとシーラに渡すと首を傾げた。


「ところで、何でわざわざ俺にお茶を持って行かせたんだ?俺は別に構わないけど」


 騎士団の業務から帰ってくるなり、シーラからソルにお茶を持って行くように言われたのを思い出して、不思議に思う。

 忙しかったのかもしれないが、どんなに忙しくても、いつもならシーラやソルの姉であるシアがやるのに。

 そんな事を思っていると、シーラは得意げに笑う。


「ソルってば、デザインで煮詰まってたでしょ?」

「だいぶ煮詰まってた」

「だから、セルジュに行ってもらったのよ」


 シーラがそう言って歩き出すので、セルジュもその後を追い、話の続きを促した。


「どうして?」

「セルジュが行けば、ソルのいい刺激になると思ったのよ。ソルって、思い詰めたりすると視界が狭まっていいアイディアが浮かばない時あるじゃん?セルジュと話したら、何か突破口が見つかるんじゃないかなってさ」


 シーラの言葉に、セルジュは納得したように頷く。


「なるほど。…シーラはソルの事、よく見てるんだな」


 その一言を聞いた瞬間、ピタリとシーラは足を止めた。


「シーラ…?」


 不思議そうなセルジュが呼ぶと、顔を真っ赤にしたシーラと目が合う。


「べ、別によく見てないしっ!!変なこと言わないでよっ!!!」


 ピシャリと言い放つと、シーラは足早にその場を後にした。


「え、あ、ごめん?」


 届いていないだろうが、一応謝りながらその背中を見送ると、セルジュとニクスは顔を見合わせる。


「あの反応って…まさか、シーラ」

【ダメだよ、セルジュ。気付いても知らないふりをしてあげないと。これは本人の問題だからね】


 ニクスの言葉にセルジュは素直に頷いた。


「そうだな」


 シーラの事を応援してやりたい気持ちもあるが、ソルには昔から好きな人がいる。

 きっと彼女の恋を実らせるのは、至難の業だろう。


 それは、自分にも言える事だが。

 こっちは、まず好意を寄せている事を気付いてもらわなければならない。

 相手は、筋金入りの鈍感だ。手強いのは言うまでもない。


 セルジュは肩を竦め、重いため息をこぼした。


【セルジュ?大丈夫かい?】


 心配するニクスにセルジュは笑ってみせる。


「大丈夫だ。…さ、兄弟子たちの手伝いもしないとな。みんな忙し過ぎて殺気立ってるから」


 セルジュはラーシャへの気持ちを胸の奥に押し込むと、戦場に行くような面持ちで工房の中へと入って行く。

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