個性的
「そうだな…」
男はポツリと呟き、眼鏡をクイっと上げると、一人頷く。
「忘れられないデザインがいい。もし、フラれて受け取ってもらえなかったてしても、相手がペンダントを受け取らなかったのを惜しくなるくらい個性的なやつ」
「うーん…なるほど。じゃあ、この辺はボツだな」
ソルはそう言って、六枚ほどデザイン画を回収する。
「花じゃない方がいいな。花言葉とかで気持ちを表現しやすいけどその分、どうしてもよくあるデザインになりがちだから…」
ソルは残った四枚のデザイン画を見ながら、唸る。
その時、応接室の扉をノックする音が聞こえ、入るのを許可するとセルジュがニクスを引き連れて、お茶を持って中に入って来た。
パッと顔を上げるとソルは笑顔で二人を迎えた。
「戻ってたんだな。おかえり、二人とも」
「ああ、ただいま。…だいぶ煮詰まってるみたいだな」
「まぁな」
ソルはため息をついて再び、デザイン画に視線を落とす。
「セルジュ。久しぶりだな」
男に挨拶され、セルジュもお茶を置きながら笑顔で応える。
「そうだな。…ソルから聞いてる。今年の建国祭で告白するんだろ?」
「十八の建国祭で絶対に気持ちを伝えるって決めてたからな。必ず成功させてみせるよ」
男が意気込みを見せると、ソルは苦笑してデザイン画から顔を上げた。
「フラれる前提でデザイン決めてるじゃん」
「別に前提ってわけじゃないから!それくらい個性的がいいって話で!」
顔を真っ赤にして怒る男を見て、ソルは笑い声を上げる。
それに釣られて、セルジュも笑い出す。
ひとしきり笑うと、空になった方のカップをセルジュは回収していく。
「まぁ、でも変わったデザインがいいならソルは適任だな」
セルジュの言葉に、ソル本人が不思議そうな顔をする。
「なんで?」
「だって、ソルは昔から突拍子もない事を考えるの得意だっただろう?ほら、天窓を作る時にガラスじゃなくて鱗をガラスみたいに嵌めたらどうかって話しただろ?」
「あー、懐かしいな。それで母さんに許可取りに行ったんだよな。…あれは我ながら完璧な出来…。それだ!」
ダンっ!と強くテーブルを叩くとソルは目を輝かせた。
「木枠を作って、そこにガラスみたいに嵌め込めばいいんだ!鱗は透かし彫りにして…」
そう言ってソルはスケッチブックを手に取ると、早速鉛筆を走らせる。
ソルの後ろに回った男もスケッチブックを覗き込んで感嘆のため息をつく。
「そのデザイン、すごくいいな…!」
「だろ!?…で、ここをこうして…」
デザインを決めるのに夢中になっている二人の邪魔にならないよう、そっとセルジュはニクスと共に退出する。
すると、扉の外にはシーラがいた。




