装飾職人の仕事
装飾職人歴三年にもなれば、それなりに仕事を任されるようになる。
特に今年は、自分達が十八になるということもあって同級生からソル指名で何件か建国祭で渡す装飾品の依頼が入って目が回るほど忙しい。
希望の装飾品の種類、柄のデザイン、サイズなどを個人面談で聞いて、その後にデザイン画を仕上げて後日、依頼者に最終確認して制作に入る。
これで一発で、依頼者が納得してくれればいいのだが、そんなに甘くはない。
みんな、人生で一度きりのつもりで装飾品を渡すのだ。
こだわりも尋常じゃない。
ソルは机の上に十枚くらい描いたデザイン画を広げ、顔を引き攣らせて目の前に座る同級生の眼鏡を掛けた男の顔を見つめる。
「どうだ?気にいるデザインあったか?」
彼が依頼したのは、自分の相棒である紫竜の鱗を使ったペンダントだった。
彼が渡すつもりの想い人の話を聞き、どんなデザインがいいか考えて考えて、さらに考え抜いた力作のデザイン画。
だが、彼は一向に首を縦に振らない。
この最終確認も三回目だ。
そろそろ、許可してくれ…!!頼むから!!
心の中で必死に祈るソル。
もういい加減、デザインを決定してもらわないと、その他の作業が滞ってしまう。
そんなソルの言葉を無視して、真剣な顔で男は相棒の紫竜とデザイン画を見比べている。
そんな彼らを見て、ソルの隣に座るベルナデッタがため息をつく。
【まだ悩んでいるのか。そんなの何でも良かろう…んぐっ!】
ベルナデッタがこれ以上余計な事を言わないよう、ソルは慌ててその口を鷲掴みにして黙らせる。
ベルナデッタの鋭い睨みに、ソルは必死に人差し指を唇に当てて黙るように促すと、その手を離した。
それから咳払いをする。
「悪い、ベルナデッタは気にしないでくれ」
「…僕の方こそ。なかなか決められなくて申し訳ない」
男はそう言って眼鏡を外すと、目頭を揉む。
「どれもデザインがよくて悩んじゃうんだ」
眼鏡を掛け直し、男は何枚かデザイン画を手に取る。
「花のモチーフもいいよな。ベインから聞いた通りセンスがある」
その言葉にソルは照れ臭そうに頰を掻いた。
ミラとの指輪をソルに作ってもらったベインは、いろんなところでソルを褒め称えてくれているらしくて、今回の忙しさに一役買っていた。
ものすごく嬉しいが、それと同じくらい気恥ずかしい。
「でも、周りと似たようなデザインは嫌なんだ」
初めて聞く話に、ソルは目を丸くするとすぐに真剣な表情になる。
「つまり個性的なデザインがいいのか?」




