リライの変化
セルジュと和解してから、リライの表情は随分柔らかくなった気がする。
それに、竜を見ても辛そうな顔をすることが殆ど無くなったように思う。
前なら、リライのかつての相棒黒竜のジキルを彷彿させる同じ黒竜であるドルフを直視できなかったのに、ここ最近は軽口を叩けるまでになった。
それが嬉しいと、ラーシャは思う。
そして、何より…。
「父さんも差し入れ持って来てくれたのか?ありがとう」
リライが来ているのを知ったセルジュが駆け足で、こっちにやって来ると笑みを浮かべた。
「今日の夜の訓練の準備でたまたま来ていただけで、セイラに声を掛けられてだな…」
リライが口籠ると、ニクスがクスクス笑う。
【嘘だよ、セルジュ。本当は体育館の窓からジッと中を見てたよ】
ニクスの言葉にリライが、怒りで顔を赤くする。
「ニクス!黙ってる約束だろ!!!」
【恥ずかしがる事ないのに。そんなに内緒にしたいなら、ボク達が練習してるところから離れたところで見ればよかったのに】
そう言われて、リライは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「開いている窓がそこしか無かったんだ」
「普通に堂々と入ってくればいいのに」
セルジュの言葉にラーシャも笑って頷いた。
リライと楽しそうに話す、セルジュを見ることが出来て本当によかった、とラーシャは心から思った。
「皆さん!早速差し入れいただきましょう!!お師匠様もぜひ一緒に!」
ニアに大声で呼ばれ、ラーシャは手を振って応えるとセルジュ達と共にみんなの元に戻る。
「おう、ラーシャとセルジュはどれにする?」
ソルがそう言って、紙袋を差し出す。
その中身は、チョコレートソースや粉砂糖、イチゴソースなどが掛けられた色とりどりのドーナッツだった。
「うわっ…!美味しそう!!!!
ラーシャは目を輝かせると、迷う事なくチョコレートソースの掛かったドーナッツを手に取る。
「私、これにする!!」
【それも美味そうだな…】
イチゴソースが掛かったドーナッツを手に取ったルーキスが、少し羨ましそうにラーシャのドーナッツに視線を送る。
「ダメだよ!これは私のだもんね。いただきまーす!!」
ラーシャはルーキスを牽制すると、ドーナッツを一口頬張る。
さっくりホロっとする素朴な甘いドーナッツに少し苦味のあるチョコレートソースがよく合う。
噛めば噛むほど、油の程よい甘さも出て来て最高に美味しい。
「んー!美味しい…!」
頰に手を当てて喜ぶラーシャを見て、セイラは嬉しそうに笑う。
「相変わらず美味しそうに食べるわね。ささ、みんなも食べて!!たくさん買って来たから」
セイラに勧められ、その場にいる全員が嬉々としてドーナッツを手に取ってそれぞれ頬張る。
ドーナッツを食べながら、和やかな空気が流れて談笑にも花が咲く。




