向き不向き
邪念を捨て、神経を研ぎ澄ましていく。
演奏と舞だけに集中する事で、驚くほど身体が動く。
先ほどまでと打って変わって優雅に踊るラーシャに、ニアは横笛を吹きながら内心安堵した。
これなら、きっと素敵な舞を披露する事ができる…!
そんなニアの思いに応えるかのように、ラーシャは力強くその場でクルクルと回転する。
舞はいよいよ終盤に差し掛かり、ラーシャが両手を天に向かって伸ばすと、両の手を組む。
それと同時にフォルテの大太鼓が終わりの合図を告げると、ラーシャは糸の切れた人形のようにその場に膝をつき深く俯いた。
体育館が静まり返り、ラーシャの乱れた呼吸する音だけが響いている。
「お疲れ様でした!最っ高ですわ!」
静寂を打ち破るニアのはしゃぐ声に、ラーシャは安心すると、そのまま仰向けに倒れ込んだ。
「うわー!疲れた!!!」
【お疲れ、ラーシャ。過去一良かったんじゃないか?】
ルーキスはタオルをラーシャの顔面に落として褒める。
「ルーキス、それは褒めすぎだぜ?通しで踊ったわけじゃないのに過去一よかったはダメだろ?」
ベインの意地の悪い指摘に、ラーシャは起き上がるとジトっとした目で睨む。
「じゃあ、私が太鼓やるからベインが踊る?結構大変なんだからね」
そう言うと、シーラがニヤニヤ笑う。
「無理無理、ラーシャはリズム感覚ないから太鼓叩けないでしょ?」
「失礼ね!私だって余裕で出来るから!ね!?」
そう言って助けを求めるように、ニア、ソル、セルジュの方を見ると三人は一斉に視線を逸らす。
「酷い!」
「落ち着け、ラーシャ。人には向き不向きがあるんだよ。な、ニア」
ダルテの言葉にニアは、パッと笑顔を浮かべて頷いた。
「そうですわ。リズム感覚なくても生きていけますから、気になさらず」
「…全然フォローになってない」
ラーシャは落胆してため息をつく。
「まぁまぁ、でも、ラーシャは舞を踊ってもらおうってずっと決めていたので」
ニアの言葉に、セルジュが首を傾げた。
「そういえば、なんでニアはラーシャが舞うのをそんなにこだわってるんだ?」
「よくぞ聞いてくれましたわ!見てください!ラーシャの銀の髪!朝日に輝くその姿は、この世のものとは思えぬ光景になりますわ!」
熱を帯びた声で力説するニアに、ソルは納得したように頷いた。
「なるほどな。だから、ラーシャに一年間髪を伸ばしてもらったのか」
「もちろんですわ!ラーシャの美しさを最大限に引き出さなければ!!」
みんなの会話を聞きながら、ラーシャは照れたように背中まで伸びた銀色の髪の毛先を弄る。
こんなに伸ばしたのは、人生で初めてだ。
建国祭が終わったら、またいつものように肩より少し長い所で切ろうかと思っていたが、もう少し長いままでもいいかもしれない。
ラーシャがそんな事を考えていると、体育館の扉が開いた。




