国を守るため
「エルダーとアロニアと共に原初の島へ行く準備を!暴動鎮圧後、無事な騎士達を集めてすぐに出発してくれ」
リーツェはそう指示を出すと、心の奥底で苦々しく舌を打った。
どうせ、余興のためだとか言って、今ネモがいる場所をアウルム達が素直に教えるとは思えない。
次にネモがコルルアと共に確実に姿を現すのは、二日後、原初の島だ。
ネモを止めるチャンスは一度きりだ。
ならば、万全の体制で迎え撃つしかない。
「承知しました」
リーツェの気持ちが伝わったのか、指示を受け、カリタが顔を引き締めて頷いた。
ネモの暴走を止められるのは、兄弟であるエルダーとアロニアにしか出来ない。
…つまり、世界を救えるのは自分達の他には、いないのだ。
それを理解している、ウィルとカリタは視線を合わせて覚悟を決めたように頷き合った。
それを見てから、今度は騎士団長に視線を向ける。
「お前は、各国の王に通信を。二時
間後、停戦協定を結びたいと伝えてくれ。…その際、話がスムーズに進むよう、お前の白竜で幻影を映し出し現状を説明しておいて欲しい。…頼めるか?」
「っ!」
騎士団長は、目を見開き一瞬、言葉を失うとすぐに気を取り直し深く頭を下げる。
「承知しました。…陛下が想いが伝わるよう、最善を尽くさせていただきます」
リーツェは満足そうに頷いた。
その先に、各国の王に共闘を持ち掛け同盟を結ぶのはリーツェの役目であり腕の見せ所だ。
だが、その前に、後二つほどやらねばならないことがある。
「アウルム、アルゲン」
リーツェは再び、二匹に向かい合う。
「ルガルトに精神を操られているとはいえ、暴動に加わった者たちの竜との契約を一斉解除しろ」
リーツェの予想外の言葉に、アウルムは意外そうな顔をする。
【全てを犠牲にしてでも民を守ると豪語していたリーツェが言う言葉だと思えないな】
「理由がなんであれ、国家の危機に加担している。それに、その方が暴動が早く終わるだろう」
リーツェが感情を押し殺して、そう言うと今度はアルゲンがクツクツと笑い出した。
【そんな事したら間違いなく、人間の方は死ぬけどいいの?】
その言葉に、リーツェの後ろにいる者たちが凍りつくが、意思は変わらない。
「構わん。…国を、世界を守るためだ」
【よかろう。ただし、出来るのは今現状で暴動に参加している者だけに限定させてもらおう】
アウルムの言葉にアルゲンも頷く。
【そうだね。その方が楽しそうだ】
自分達の生死だって掛かっているというのに、ここまで来ても娯楽しか考えてない。
そんな彼らに、リーツェは呆れたようにため息をついた。
「それでいい。始めてくれ」
そう言い放つと、リーツェは竜に背を向け歩き出す。
「お前たちも、後は任せる」
彼らの横を通り過ぎながら、リーツェがそう言うと、ウィルが不安そうな顔をした。
「陛下はどちらへ?」
その言葉にリーツェは立ち止まった。
「私は、もう一つ。やらねらばならないことがある」
静かにそう告げて、リーツェは謁見の間を後にした。




