一緒には歩めない
「嫌じゃない…だけど…」
そう、嫌じゃない。
それでも…。
「だけど?…リーツェは僕と同じ気持ちだと思ってたんだけど」
そう言ってもう一度、リーツェの手を握りその手の甲に唇を落とす。
「ルガルト…!」
リーツェは咎めるように言って、ルガルトの手を振り払った。
今が夜で本当によかった。
そうでなければ、顔が真っ赤になっているのがバレてしまう所だった。
そう安心していると、ルガルトが小さく笑う。
「ふふ、顔真っ赤」
「!?」
慌てて顔を背けるが、もう意味などない。
そんなリーツェを見て、クスクスとルガルトは笑い続ける。
「月明かりを舐めちゃダメだよ?」
「…迂闊だったな」
リーツェは何度か深呼吸をして、落ち着かせるとルガルトと向き合う。
月明かりで煌めく、彼の瞳が照れるリーツェを映し出す。
「好きだよ、リーツェ」
ゆっくりと噛み締めるように、ルガルトは言った。
その言葉を、リーツェは苦しげに顔を歪めて受け止めた。
「…ルガルト…」
絞り出したような声で、リーツェはそう呟くと拳を握りしめ、一歩後ろに下がる。
「あたしは、お前の気持ちに答えてやることなんて出来ない…」
「どうして?リーツェだって同じ気持ちでしょ?ボクが気づかないと思ってる?」
「…すまない」
力なくリーツェは項垂れると、静かに謝りその場を立ち去ろうと背を向けた。
そんな彼女の腕をルガルトが引き止め、強引に振り向かせる。
「僕は、謝罪が聞きたいんじゃないんだ。…理由を教えて欲しい」
いつも、柔らかい笑みを浮かべるその顔はひどく思い詰めていた。
リーツェは目を伏せると、自分の腕を掴むルガルトの手に自分の手を重ねる。
「前に、言ったはずだ。あたしは不老不死だと」
「覚えてるよ。でも、それは理由にならない。…ただ、僕は一緒に生きていきたいんだ」
その言葉を聞いて、リーツェはグッと歯を食い縛るとルガルトの手を引き剥がした。
「お前と同じ時を歩めない時点で、一緒に生きて行けるわけない…!」
自分で吐き捨てた言葉は、自分に跳ね返って来て胸を抉る。
そう、どんなに愛したとしても一緒に歳を重ねて老いて、一緒に死ぬこともできないのだ。
愛する人がどんどん老いて死んで逝くのを、見守ることしか出来ない。
そんなのリーツェには、耐えられない。
「…じゃあ、竜との契約を破棄して人に戻るのは?」
涙を堪えて震えていたリーツェの耳に、ルガルトの静かな声が響いた。




