隣に立つために
竜の国の女王、リーツェは執務室で自分に頭を下げる目の前の男を見て内心、ため息をつく。
頭を下げているのは、第零騎士団の騎士であるジルヴァとその相棒のラドン。
彼らから世界樹の試練で、不合格だった報告と謝罪を受けているのだが、言い方は悪いが結果なんて正直どうでもいいと思っていた。
ジルヴァ達が無事に帰って来た。それがリーツェにとって一番大切で結果など二の次だ。
そもそも、ジルヴァ達は能力が無くても優秀なのだ。
落ちたところで、ジルヴァに対するリーツェ評価など下がることは絶対にない。
それは、何度も本人に伝えているが、全くと言っていいほど聞き届けられていなかった。
「申し訳ありません…!竜の国の騎士団の中でも最高峰と呼ばれる第零騎士団の名を汚してしまって本当に…」
ジルヴァによって何度も繰り返されるその言葉に、今度こそリーツェはうんざりしたように大きなため息を吐く。
「もういいと言っているだろ?…顔を上げろ。この部屋に来てから一度しか目が合っていない」
リーツェの言葉に、ジルヴァはこの世の終わりのような表情をして顔を上げた。
「ジルヴァ、何度も言っているだろう?謝る必要など無いし、落ちたとしてもお前の価値は…」
ジルヴァが落ちる度に、何度も何度もリーツェが同じ事を言って慰めてくれる。
聞き過ぎて、言葉も覚えてしまった。
ジルヴァは、不敬だと思いながらも話を片耳に聞きながら、リーツェの隣に立つ女騎士をチラッと盗み見る。
第零騎士団団長、ベル。
ジルヴァの最愛の人。
出来損ないの自分には勿体無いくらいの素敵な女性だ。
そんな彼女が、心配そうに自分を見つめてくれている。
その視線を受けて、ジルヴァの心臓がツキンと痛む。
ジルヴァが落ちても何度も何度も世界樹の試練を受けるのには、理由がある。
第零騎士団の騎士として、相応しい能力を手に入れたい。
それは、もちろんだが、本当の一番の理由はベルの隣に堂々と立てるようになりたいからだ。
完璧な彼女の隣に立つには、第零騎士団の中でも強い能力を手に入れなければならない。
だから、絶対に合格しなければならない。
それなのに全く受かる気がしない。




