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竜使いのラーシャ  作者: 紅月
絶望と過去と忘れられない人
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努力を知る者

 スッと、指を動かし頬に残る涙の後をリズベルトが優しくなぞる。


「…っ」


 その行為にドギリとして、思わずロベリエは体を硬くした。


「り、リズベルト様…」


 緊張で掠れる声で名前を呼ばれ、リズベルトは悲しそうに笑う。


「せめて、僕の前にいる時くらいは取り繕わなくていいんだよ?辛いなら堂々と泣けばいいんだ」

「だ、だけど…」


 人に甘えることなんて、殆どしたことない。

 弱い自分を曝け出すのに、抵抗がある。


 そんなロベリエの心中に気づいたリズベルトは、まるで子供をあやすように優しく頭を撫でた。

 それだけで、凝り固まっていたロベリエの心が解れるような気がする。

 それと同時に体からも力が抜けた。


「君は頑張ってるよ。…君のお祖父様や、周りの人々が気付いてなくてもちゃんと、ロベリエが努力している事を僕は知ってる」


 リズベルトの優しい声。


 自分の血の滲むような努力を知ってくれている人が、セツ以外にもちゃんといる。


 それだけで、ロベリエの心は救われるようだった。


「例え、世界樹が気づかなくても、ね」


 リズベルトの言葉に、先程までとは違って心臓が握り潰されるような気がした。

 一気に顔色を悪くしたロベリエに、リズベルトは安心させるような笑みを浮かべた。


「試練、ダメだったでしょ?」


 容赦ないリズベルトの言葉にロベリエは、ただ頷くことしか出来ない。


 どうしよう、世界樹の試練に何度も落ちているような人間に女神を救う力などないって言われたら…。


 ロベリエは背中に冷たいものが、流れ落ちるのを感じた。


 リズベルトにまで、見放されてしまったら自分はどうしたらいいのかわからない。


 顔を真っ青にさせて震えるロベリエは、震えると何とか口を開く。


「あ、あの…今回は、体調も悪くて本調子じゃなかった、ていうか…その…」


 気づけば、口からは言い訳ばかりを紡いでいく。

 きっとリズベルトはそんな事を気にしないってわかっているのに、それでも言い訳が止まらなかった。

 言い訳しか出来ない自分に嫌気がさす。

 せっかくリズベルトが、自分の努力を認めて擁護してくれるのに。

 内心、自分を責めながらそれでも、何か言おうと心の中でで考えているとロベリエよりも先にリズベルトが口を開いた。


「わかってるよ、大丈夫」

「…」


 すこしの間、続く沈黙。

 項垂れていたロベリエが意を決して顔を上げると、天使のような慈愛に満ちた笑みを浮かべるリズベルトと目が合った。

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