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竜使いのラーシャ  作者: 紅月
絶望と過去と忘れられない人
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世界樹の試練


 世界樹、ユグドラシルの足元に広がる青く澄み切った泉。

 その泉を汚れ一つない純白の衣をまとった美しい長い黄金の髪を持つ女性が憂に満ちた翡翠のような瞳で、覗き込んでいた。

 彼女の名は、チェリティア。

 千年前の戦で失った守人の代わりに、戦の翌年試練を受けに来た彼女は世界樹に選ばれた。

 以来、悠久の時を生き世界樹に仕えている。


 そして、今日は年に一度、世界樹が試練に合格した者のみに能力を与える特別な日。


 試練を見守る役目を担う彼女は静かに息を吐き出す。


 残るはあと、二人。


 チェリティアは、陽の光を浴びて輝く長い黄金の髪が肩から滑り落ちると、耳に掛け直した。


「今年は合格出来るかしら…?」


 今残っているのは、竜の国の二人だ。

その二人は毎年受けに来るが、全く受かる兆しがない。

 合格した者から、アドバイスを受ける事が出来ればきっと彼らも合格することが出来るだろう。

 だが生憎、世界樹がそれを良しとしない。

 合格した者が、試練の内容を教えようとした瞬間、与えた能力スキルを奪うことになっている。

 その為、今まで一度たりとも試験の内容は漏れた事がない。


 ほとんどのものは、一度不合格になると受けに来なくなるのだが、竜の国の二人は違った。

 毎年、果敢に受けに来る二人があまりにも可哀想でついつい応援してしまう。

 今年は粘っているようだが、果たして…。


 チェリティアが二人を案じていると、水面が突然ボコボコと泡立つ。

 胸の奥がキュッと縮こまりながら、泉から一歩下がりその様子を見守る。

 やがて、水を割って少女が顔を出した。


「ぷはっ!!…なん、で…っ」


 苦しそうに息を繰り返し、焦りと苦痛に満ちたその表情で、すぐに察した。


 ああ、またダメだったのか…。


 それでも、表情に出さずにチェリティアは水面にいる少女に悠然と微笑み、深く頭を下げた。


「お疲れ様です。…今年の試練は終了です。また、来年お越しください」


 チェリティアの言葉と同時に、少女は光に包まれ姿を一瞬で消した。

 水面はしばらく揺れたあと、泉はまた静寂を取り戻す。


 あと、一人…。


 チェリティアは、世界樹を見上げる。


「あの二人は、お気に召しませんか?」


 返事はない。サワサワと葉がかすかに揺れる音だけが、風に混ざって響くだけだった。

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