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竜使いのラーシャ  作者: 紅月
勇気と無謀と思惑
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来年は

「そう」


 眩しい程の笑みを浮かべるラーシャにロベリエは、何とかそれだけを伝える。


 ついに恐れていた事が起きてしまった。


 ロベリエはカラカラになった喉を無理やり動かし、唾を飲み込む。

 いつか、ラーシャが世界樹の試練を受けると言い出すことはわかっていた。


 ーーーそして、彼女は試練を一発で合格する事が出来るということも。



【ロベリエ…?】


 セツが心配そうにロベリエに声を掛ける。

 ロベリエは、ハッと我に返ると奥歯をぎりっと噛み締めた。

 それからすぐに肩の力を抜く。


「なら、私は今年絶対に受からないとね。ラーシャに負けるわけにはいかないもの」


 祖父の言葉は絶対だ。

 絶対にラーシャよりも先に世界樹の試練に合格しなければならない。

 同時合格なんて許されない。


 それを聞いたラーシャは悲しそうな顔をする。


「ロベリエのおじいちゃんと、私のおばあちゃんと因縁があるのは知ってるよ?でも、孫である私達は関係ないと思う」


 そう言った後で、首を横に振る。


「ううん、私は加害者側だからそんな事言っちゃダメか…。それでも、ロベリエ。貴女はおばあちゃん達の因縁に巻き込まれる必要は無いし、もっと自由に生きていいんじゃない?」


 その言葉にロベリエは、グッと息を飲む。


「おじいちゃんの恨みをロベリエが人生を懸けて晴らすだなんて間違ってる」


 一点の曇りもない、ラーシャの紫色の瞳に見つめられロベリエの心は掻き乱される。


 何も知らないくせに、わかったような口を聞かないで。

 自分がどんな思いでずっと、祖父の要望に応えてきたと思っているんだ。

 実の娘である母親に捨てた、哀れな祖父を支えてあげたくて、一人家族から離れて祖父の厳しい訓練に耐えてきたのだ。

 友達も何もかも、諦めて…!

 鬼神の孫が偉そうに、正論を言ってこないで!!!!!


 その思いを全部、ロベリエは胸の中にグッと押し込んで蓋を閉める。

 こんな汚くて醜い感情、ラーシャには絶対に見せない。

 見せたら、彼女に負けてしまう気がするから。


「ラーシャには関係ないわ。…私は絶対、ラーシャに負けないから。セツ」


 これ以上、話すことはないとラーシャ達に背を向ける彼女をセツは憂に満ちた目で見つめると大人しく体を伏せた。

 そんなセツの上に乗ると、ロベリエはラーシャを見下ろした。


「じゃあね、ラーシャ、ルーキス。また駐屯所でね」


 それだけ言い残して、ロベリエはセツと共に大空へと舞い上がり飛んで行ってしまった。

 残されたラーシャとルーキスはそれを見送った後、同時にため息をついた。


【ラーシャ、何でお前はあんな事言ったんだ?】

「あんな事?」


 ルーキスの言葉に空を見つめたままラーシャが聞き返す。

 正直、心当たりがありすぎてどのことだかわからない。


【ロベリエに来年試験を受けるって話だ】

「ああ…」


 そう言われて、ラーシャはようやくルーキスの方を見ると肩を竦めた。


「ずっと、私がいつ試練を受けるか気にしてたから。…前以て言っておかないとフェアじゃないかなって」


 ラーシャはそう言ってニコッと笑う。


「だって、私達は絶対に来年の試練合格してみせるもの」


 その言葉を聞いて、ルーキスは呆れたような、楽しそうな笑みを浮かべた。


【そうだな】

「でしょ?さぁ、私たちも帰ろう」


 ラーシャはそう言ってもう一度、ルーキスと共に犠牲になったカルミアのメンバーに祈りを捧げるとジルジを後にした。

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