手を取り合って
そんな彼にニアは信じられないとばかりに首を横に振る。
「わかってるのにどうして…。本当に潰されたらどうするのですか!?みんな路頭に迷ってしまいますわっ!」
だからこそ、ニアは自分の気持ちを抑えつけてロアンと婚約していたのに。
従業員のため、家族のためと必死に…!
ニアの嵐のように掻き乱れる心中を知ってか、知らずかウィンターは彼女に深く頭を下げた。
「ニア、すまなかったな。今まで」
ウィンターの謝罪にニアは言葉を失う。
今まで一度も、父親に謝られた事のないせいで、なんて答えたらいいのかわからない。
困ったように、ウィンターの隣に立つ母を見るとロザリアも真剣な顔で頷いた。
「…ニアに色々背負わせすぎてしまったな。自分が父の言う通りに、ロザリアと結婚して幸せだったから何とも思わなかったんだ。…ロアンの事を嫌がっていたが、会社を繋ぐ役割を担う一方で、ニアも結婚して幸せになれると信じて疑っていなかった」
そう言って顔を上げたウィンターは肩を竦ませると、自嘲気味に笑う。
「本当に最低な父親だと、ロアンと話していて実感させられたよ。…本当にニアには辛い思いをさせた」
ニアは少し戸惑った後、意を決して口を開く。
「ロアンと結婚するなんて絶対に嫌でした。けれど、私のせいで麒麟商会が無くなってしまうのはもっと嫌でした。だから、我慢できたのですわ。…お父様、今一度考え直して下さい。私一人が我慢すれば、みんな路頭に迷う必要など…」
ニアがそう言うと、話を聞いていたケルトがため息をついた。
「そうならない為に、みんなで必死に働けばいいだけだ。…もちろんニア。お前もな」
「…え?」
「これからは、お前にもっと戦力になってもらわなければならないな。…そうですよね?父上」
ケルトに話を振られ、ウィンターは大きく頷いた。
「ニアの着眼点は、面白いからな。きっと莫大な利益を産むようになるだろう」
「じゃ、じゃあ…私もお兄様達のように働いていいんですの…?」
期待に声を震わせながらニアが尋ねると、ウィンターは微笑んだ。
「麒麟商会を潰したくないのだろう?」
「はい…!」
ニアは喜びを噛み締めて頷いて、エルをギュッと抱きしめる。
やりたい事はたくさんある。珈琲以外だって色んなものを仕入れて竜の国に流通させたい。
たとえ、玉葉や豊穣の月に邪魔されたとしても必ず抜け穴を見つけて輸入してやる…!
ニアが静かに闘志を燃やしていると、ケルトが突然ニヤリと笑みを浮かべた。
「ニアが頑張るんだ。俺の“次期義弟”となるダルテも必死に頑張らなきゃな?」
その言葉に一瞬でその場は凍りつき、そこから直ぐにダルテとニアの顔がボボボッと顔を赤くさせた事によって笑いが起きる。
「笑い事じゃないですよ!義弟ってどう言う事ですか!?」
焦るダルテに、直属の上司であるケルトはニヤニヤと笑うだけである。
慌てふためく二人をしばらく、眺めてからウィンターが咳払いをした。
「二人は愛し合っていると以前からケルディに報告を受けていた。…だから、ダルテの両親達にも二人が無事に帰ってくることが出来たら婚約させようって話をしていたんだ」
「…当人がいない間にこんな大切な話を決めてしまうだなんて…」
ニアは少し呆れたように呟くと、それから満面な笑みを浮かべた。




