心に留めて置くこと
「明日、竜との契約試験が行われるのはみんなわかっているな?…そこでお前たちにはこれを配る」
フラウはそう言って教卓の脇に置いてあった箱を取り出し、中から笛を取り出す。
「この笛のの中には魔石が入っていて、吹けば試験会場となる竜の森中に響き渡る大きな音が出るようになっている」
フラウは説明しながら笛を生徒たちに渡していく。
説明を聞きながら笛をもらった生徒たちが、どれくらいの音が試してみよう。と楽しそうに話しているのを聞き、フラウは全員に笛を渡ったのを確認してから教卓を叩いた。
「まだ説明している最中だ、無駄話は控えるように。教室でその笛を吹けばここにいる全員の鼓膜が破ける事になる。安易に笛を使用してはならない」
フラウの言葉に生徒たちはやっと静かになり、机の上に笛を置いた。
「竜の森の中には魔獣だって住んでいる、お前たちが魔獣に遭遇した場合高確率で命を落とすことになる。
それに、危険なのは魔獣だけじゃない。竜も危険だ」
「竜は人間と友好関係なんじゃないんですか?」
生徒の質問にフラウは少し困ったような顔をして、首を横に振った。
「確かに竜は我々に友好的だ。だが、全てではない。人間だって竜のことを嫌いな者もいる。それと同じで全ての竜が我々のことをよく思っているとは限らない。人間のことが嫌いな竜だった場合、近寄っただけで殺されるかもしれない。…そうならないよう森の中には騎士団の方々も警護してくれる事になっているが、森は広い。命が危険にさらされた時にはこの笛で助けを求めるんだ」
しんっ、と静まり返る教室には緊張感が漂う。
ラーシャは手元に握られている笛に視線を落とす。
全ての竜が友好的じゃない…。
祖母と兄の竜を見ている限り信じられない話だったが、手に握られている笛がフラウの言葉を肯定しているような気がした。
「契約試験は初等学校の卒業試験と言っても過言ではない。甘く見てると卒業出来ずに退学するか留年する。最悪の場合、生きて来年を迎えることができないかもしれない。…全てを心に留め、明日の試験に挑んで欲しい」
そう言った後、重苦しくなった空気を払うようにフラウは笑った。
「さて、空気が重くなってしまった所で授業を始めようか」
「ていうか、先生ー!それ明日の朝説明でもよくないっすか?」
ソルの質問にフラウはニヤッと笑った。
「明日の朝はお前たちは興奮して、俺の注意事項なんてまともに聞かないだろう。それに、朝早く呼んだのは授業に支障をきたさないためだ。…もうすぐ筆記試験だからな。さぁ、お前たち!竜と契約しても筆記試験が悪ければ留年だぞ!しっかり勉強しろ!」
「「えー」」
さっきの空気とは打って変わって生徒たちは気怠そうな顔をして教科書を開くのだった。




