阻む者
【なっ!?これって、姐さんの力…っ!】
突然現れた障壁に、アイシャは驚いた顔をすると忌々しそうに呟いた。
見ない障壁に阻まれ、ゼンが苛立ちで顔を歪めると通信石に触れた。
「デイル騎士団長!!!時間が無いんですっ!障壁を消してください!」
目の前では、要塞が轟音を立ててどんどん崩れていき、一刻の猶予もない。
急がなければ、ラーシャ達は全員生き埋めだ。
セルジュも焦りと恐怖で、どんどん顔から血の気が引いていく。
『それは出来ないよ』
二人の耳に飛び込んできたのは、デイルの低い声での否定の言葉。
「なんでですか!?ラーシャ達を見捨てるつもりですか!?」
黙っていたセルジュが、震える声で叫ぶ。
すると、一瞬の間があってから『そうだ』と短いと返答が返ってきた。
「な、んで…」
目の前が真っ暗になる錯覚を覚えながら、セルジュが呟く。
『騎士団長として、これ以上、犠牲者を出さない為にも君たちを行かせるわけには行かない』
“犠牲者”という言葉に、ゼンはギリっと奥歯を噛み締め、深呼吸をする。
「ラーシャ達はもう助からないと…?」
自分でも驚くほど、冷たい声が出たとゼンは思う。
まだ、崩壊し出したばかりだ。
助けに向かえば、まだ可能性がある。
それなのに、もう死んだ者扱いするのが許せない。
冷たい怒りに身体を震わせながら、ゼンはさらに言葉を続けた。
「まだ、あいつらは生きているかもしれないんですよ?中で助けを待ってるかもしれないのに、自分たちは安全な場所で見てるだけですか?」
『何を言われても、僕の決定は変わらないよ。誰一人、要塞へ向かう事は許さない』
感情のないデイルの声に、なにを言っても通じないとセルジュは悟る。
「…ニクス、この障壁破壊できないか?」
すがるような気持ちで、セルジュが言うとニクスは力なく首を横に振った。
【ごめん、セルジュ…。もう夜が明けてしまった。闇の力が弱まっている上にレイヴの全力で張られた障壁を壊す事は出来ないよ】
「嘘…だろ…?」
友人達を…大切な人を、助ける事が出来ない…。
片目から一筋の涙がつぅ、と流れ落ちる。
冷たく重い、絶望がジワジワと心を蝕んでいくのをセルジュは感じた。




