救い
当然、目の前は真っ暗で何も見えない。
それでも“声”は鮮明に聞こえ、セルジュの心を揺さぶる。
“ジキルの復讐だってニクスの闇の力を使えば今なら簡単に出来る。それなのに何故、闇を受け入れない?”
うるさい、耳障りだ。黙ってくれ…!
“抵抗するのはやめて楽になれよ”
「っ…!」
“ここでアルティを殺したとしても、周りからは何も見えないんだ。抵抗されて殺したって言えばいいだろ?今しかアルティに復讐出来ないんだ”
自分と同じ声で囁く甘言。後ろからそっと抱き締められた。
セルジュの体からは力が抜けて行き、思考も霞み始めていく。
“やるなら、今しかないだろ?”
そうだ…、今なら誰にも怪しまれる事なくこいつを堂々と殺せる。
ジキルを目の前で殺して、それを見て絶望する父親の表情を楽しむような醜悪な男だ。
生きている価値などこの男には無い。
「ころ、す…。殺してジキルの無念を晴らす…」
完全に屈した瞬間、セルジュの長年蓄積されていた負の感情が、ニクスへとなだれ込む。
闇の力が一気に強まりニクスは必死に力を抑え込む。
このままでは、暴走してしまう…!
セルジュを何とかしなければ、と思うが今は闇の力を抑えるので精一杯で、正直ニクス自身にそんな余裕はない。
暴走してしまったら、アルティだけでは無い。中庭にいる騎士達も巻き込んで、皆殺しにしてしまう。
それだけは避けなければならない。
ここにラソか、ルーキスさえ、ここにいてくれれば…。
ニクスが目を閉じ、理性の限界を感じながら、歯を食いしばる。
もう耐えられない。そう思った刹那、ニクスはハッとして目を開いた。
【助かった…】
ニクスの弱々しい声が、憎しみに囚われていたセルジュの耳にも届いた。
一体、何を言っているんだ?
セルジュが疑問に思った、その瞬間。
目の前が真っ白な光に包まれ、一瞬で闇を薙ぎ払った。
「セルジュ!!!!」
真上から大切な人の声が響いた。
セルジュは顔を上げる。
光の中、美しい銀色の髪をなびかせながらラーシャが、両手を広げて空から降って来た。




