抑えきれない激情
セルジュは奥歯をギリっと噛み締める。
出発する前、デイルにアルティの捕獲を自分にさせて欲しいと申し出た時の事を思い出す。
デイルは、セルジュがアルティに対して私怨があるのをわかっている上で、条件付きで許可してくれた。
デイルが提示した条件はただ一つ、私情でのアルティの殺害は絶対にしない事。
私情で人を殺す事は絶対にあってはならない。
頭では理解しているが、今の状況で体の自由が利けば、本当にアルティを殺してしまいそうだ。
セルジュがそう思うのと同時に、ニクスの力がより一層増してロクトリアに当たり損ねた闇の触手が石畳を叩きつけ、床を粉砕した。
【…っ、セルジュ少し落ち着いてっ!】
ニクスは苦しそうに叫ぶ。
セルジュの憎しみや殺意などの感情を一身に受けてニクスは自分の闇が暴れ出して行くの感じていた。
純粋な闇とは違って、負の感情から生まれた闇はかなり強力だ。
負の感情が集まって生まれた死竜の闇も強力で厄介だったが、それ以上に契約者であるセルジュの闇はそれをはるかに凌駕していた。
竜と人は長く一緒にいればいる程、心が繋がり影響力が増して行く。
セルジュの負の感情が一気に直接ニクスの中に流れ込み、感情に呑み込まれて暴走してしまいそうだ。
それでもニクスは必死に闇を制御し、攻撃を仕掛けるがロクトリアの土の能力で全て相殺されてしまう。
それを見て苛立ちを募らせるセルジュに比例してニクスの闇も暴力的に強くなって行く。
【これは…!ちょっとまずい、かな…!!】
ニクスはセルジュの負の感情に呑まれかけながら呟く。
今のセルジュに何を言っても、ニクスの声は全くと言っていいほど届いていない。
このままでは、本当に暴走して取り返しのつかないことになってしまう。
ニクスは苦痛に耐えながら助けを求めるように咆哮を上げる。
それを近くで見ているニアは、本能的な恐怖で体を震わせた。
ニクスを今まで怖いなどど思った事など一度もない。
でも、今のニクスから溢れ出す闇は恐ろしい。
そんなニクスの背に乗るセルジュも表情は見えないが、恐ろしく感じた。
このままでは、取り返しのつかない事になってしまう。
「…ラーシャ…」
ニアは祈るように手を胸の前で組むと、親友の名前を呟いた。




