一切の躊躇を
土埃が晴れ、そこにいたのは拳大の大きさの紫色の魔石を高々と掲げて立っているセルジュと、フォルテを抱きしめるラーシャの姿だった。
その光景に、カルミアのメンバーは唖然として、辺りは静寂に支配される。
紫色の守護の魔石は、セルジュの手の中でピシッと音を立ててヒビが入ると役目を終えて粉々に砕け散った。
それを見届けて、セルジュは薄らと額に汗を浮かべながら苦笑する。
「…っ、アルスの言う通り、魔力の消費量が半端ないな…」
たった一回だけ、使用者の九割の魔力と引き換えにどんな攻撃でも防ぎ切るというアルスが石刻を施した魔石。
魔力の九割を失ったセルジュはガクッと力が抜けて膝から崩れ落ちる。
「後は任せて!」
その横を風のようにラーシャが駆け抜けた。
ラーシャは勢いよく前に転がると、自分が投げ捨てた小銃を拾い、ルーキスを羽交い締めしている男に銃口を向ける。
「な!?」
出発前にリライに言われた事は、たった一言。
“人を殺す事に一切の躊躇を捨てろ”
その言葉は、ラーシャにしっかり刻み込まれていた。
ここは戦場で、命が最も軽んじられる場所。
奪う事に躊躇いを見せれば、自分はおろか守りたい人たちまで守れない。
だから、ラーシャは一切躊躇わない。
「ルーキス、頭!!!」
その言葉にルーキスが即座に反応して頭を下げる。
それと同時に発砲音がしたかと思うと次の瞬間、男の額から血飛沫が上がり後ろに仰け反りそのまま倒れ込んだ。
悲鳴を上げる事なく、血飛沫を上げてその場に倒れ込み絶命する男。
予想外の状況に誰もついて来れずに立ち尽くす中、空から絶叫が響き渡り一匹の青竜がラーシャに向かって飛んで来た。
【あああああああああああああああああっ!!!よくもよくもよくも!!!!】
ラーシャが殺した男のパートナーの竜だろう。
竜は突進しながら、口大きく開き水を吐き出す。
岩をも砕く威力で水流がラーシャ目掛けて飛んでいく。
「ラソ!!」
鋭い声でフォルテがラソを呼ぶと、ラソはキュッと顔を引き締めて頷いた。
【ラーシャには傷一つ付けさせないよっ!】
その言葉通り、水流は一瞬で消え去った。
それを見て、ニクスを捕えている女が体を震わせて後退りをする。
「な、なんで…!?竜の能力封じの魔石を付けた特別製の首輪なのよ!?なんでコイツは能力使えるのよ!!!!」




