思わぬ助け
ラーシャは雨の中必死に走る。
唯一の手がかりは、アイシャが飛んで行った方向だけ。
方角的にはきっとアジトは森の中だろう。
人間一人が夜の森に入るだなんて無謀だ。ましてや、どこにあるかもわからないアジトを探し当てるだなんて自殺行為以外の何ものでも無い。
それでも構わない。ルーキスを助けられるのなら死んだっていい。
竜の国の民は竜を自分の命より大切だと教えらてきたが、そんなの関係ない。
教えだから命より大切なのでは無い、この2年間ルーキスは苦楽を共にした大切な家族なのだ。
だからこそ、ラーシャにとってルーキスは命よりも大切だ。
ルーキスがずっと一緒にいてくれるなら、竜使いの夢を諦めて別の夢を一緒に探してもいい。
「うわっ!…ぷふっ…!」
ラーシャは濡れてグショグショになった泥濘に足を取られて顔から転倒した。
「くぅ…」
胸を強打したし、見てないけど絶対膝や手のひらを擦りむいてる。
痛くて情けなくて今すぐ泣き散らしたいが、グッと堪えてゆっくり起き上がる。
目の前が滲むのは全部雨のせいにしてラーシャは口に入った泥を吐き出す。
「ルーキス、絶対助けるから待ってて…」
「大丈夫か?」
「!?」
その声と共に突然手を差し出されて驚いて顔を上げると、そこにはセルジュがいた。
「セルジュ…なんで?」
「話は後だ。ルーキスを探してるんだろ?ニクスが場所を知ってる。行こう」
「!…うん!」
ラーシャは頷いて差し出された手を掴もうとしたが、自分が今泥だらけなのを思い出して手を掴もうか躊躇う。
すると、セルジュがその手を掴んでラーシャを立たせた。
「私、泥だらけだからセルジュも汚れちゃうよ?」
「別にいいよ。手当もニクスの上でしよう」
セルジュはそう言ってラーシャにニクスの上に乗るように促した。
「ありがとう」
ラーシャが乗ったのを確認してセルジュもその後ろに乗り、自分の竜紐でラーシャを縛った後、竜帯に繋いだ。
「ニクス、頼む!」
【任せて!】
セルジュの掛け声で、ニクスは再び空に舞い上がった。
セルジュはハンカチをラーシャに渡すと、膝や手のひらの傷を自分の上着を破いて裂いて作った布を雨に濡らしてから丁寧に拭いて行く。
ラーシャはハンカチで顔を拭いながら申し訳なさそうに頭を下げた。
「ごめん…ハンカチは洗って返すね。上着代は後で渡すから…」
「別にいいよ、これくらい」
「でも…ゲオルグさんに上着を破って怒られない?」
「…」
セルジュは黙ると少し考え込む。
あぁ、やっぱりこれ怒られるやつだ…!
自分のせいでセルジュが怒られるのはやはり気が引けてしまう。
「セルジュ…」
まだ何か言おうとするラーシャにセルジュは首を横に振った。
「それよりも今はルーキスだ。俺たちが何でここに来たのか説明するから、ラーシャはルーキスと何があったのか教えて?」
話を逸らされたラーシャはため息をついて頷く。
そして、二人は手短にここまでのお互いの経緯を説明した。




