勘違い
作戦が決まると、騎士達は一斉に自分のやるべき事をやる為に動き出す。
ラーシャも準備をする為に会議室の外へ出ようとした瞬間、腕を掴まれた。
驚いて振り返ると、ソルと目が合う。
「ラーシャ…」
腕を掴む手が不安そうに震えていた。
そんなソルにラーシャは、安心させるように微笑む。
「大丈夫だよ、ソル。ニア達は絶対に私達が助け出すから信じて待ってて」
その言葉にソルは表情を曇らせて、俯いた。
今までこんなソルを見た事のないラーシャは心配そうに、ソルの顔を覗き込んだ。
「どうしたの?」
ソルはふいっとラーシャから目を逸らすと、蚊の鳴くような声で呟く。
「俺はいつも、危険な場所に行くラーシャやセルジュをただ見送る事しか出来ない…」
思ってもいなかったソルの言葉にラーシャは、驚く。
「ソル…」
「どんなに師匠に訓練してもらっても、俺にはラーシャ達と一緒に戦う資格すら無いって思うと、自分が嫌になるんだ…」
そう言ってソルはグッと唇を噛み締めた。
こんな時に言う事じゃ無い。
本当はラーシャ達にニアを任せたと言って見送る筈だったのに、ラーシャの顔を見たら思わず本音がこぼれ落ちてしまった。
今から命を懸けに行くのに、余計な事を言って気を散らしてしまう方が悪いに決まってる。
ソルはそう思い直して、笑みを取り繕う。
「悪い、変な事を言っちまった!ニアを頼むな」
ソルはそう言って、足早に会議室を出ようとしたが今度はラーシャに腕を掴まれて引き止められてしまう。
「ソルはちょっと勘違いしてるね」
「勘違い…?」
ソルの言葉にラーシャは頷いた。
「帰りを待ってくれている人がいるって、凄い心強いんだよ?試験の時もそうだったけど、帰りを待ってくれているソル達のためにも無事に帰らなきゃって思ってた。…だからね、ソル達が私達の帰りを待ってくれるって凄く重要で意味がある事なんだよ」
ラーシャは今にも泣き出しそうな、ソルの顔に手を伸ばしてその頰に優しく触れた。
「だから、そんな顔しないで?私達の無事を信じて待っててよ。私、絶対にニアを連れて帰ってくるからさ」
屈託の無い笑顔でラーシャにそう言われると、それに釣られてソルからも思わず笑みが溢れた。
胸の中で渦巻いていたモヤモヤしていたモノが溶け出していく。
ソルは自分の頰に触れるラーシャの手に自分の手を重ねて頷いた。
「…わかった。なら、俺はラーシャたちが無事に帰ってくるって信じる」
「うん。すぐに帰ってくるね。約束する」
ラーシャはソルから手を離すと今度こそ、準備のために会議室から出て行く。




