パートナー失格
びしょ濡れのレインコートを着たままゼンが家の中に入って来た。
それを見て、シューリカが眉を顰めた。
「お帰りなさい。今日は帰れないって言ってたのに早かったわね…ところでゼン、家の中に入る時はレインコートを脱がまないと」
「ごめん、ばあちゃん。すぐ出なきゃいけないんだ。ただ家には確認しに戻っただけで…」
ゼンはそう言って視線を彷徨わせて、何かを探している。
「ラーシャ、ルーキスはどうした?」
ゼンの質問にラーシャは嫌な予感がした。
「ル、ルーキスは…喧嘩しちゃってどこかに行っちゃったの。雨が止んだら探しに行こうって話してて…」
ゼンは一瞬、顔を青ざめさせたが、すぐに険しい顔に戻った。
「そうか、わかった。…ラーシャ達は雨が止んでも家から出るなよ」
そう言って出て行こうとするゼンをシューリカが引き止めた。
「ゼン、何があったのか説明してちょうだい。ルーキスに何かあったの?」
「…」
ゼンは泣きすぎて目を赤くしたラーシャを見て少し困った顔する。
【ゼン、教えてあげなさいよ】
ずっと外で待っていたアイシャが待ちきれなくなってゼンの元へと来て言った。
「だけど…」
【ゼン、ラーシャには知る権利があると思うわ】
アイシャに言われて少し考えた後、ため息を着いた。
「密猟団のアジトを見張ってた仲間から連絡があって、夕方に小さい白竜が運ばれたらしいんだ。…ただ、その白竜が運び込まれた際に光に照らされたらしいんだけど、その時に鱗が虹色に輝いていたらしい」
ラーシャは目を見開いた。
「ルーキスだ…!」
「だから俺はデイル騎士団長に言われてルーキスの無事を確認しに来たんだが…やっぱりルーキスだったな。ルーキスは竜の国にとって国宝とも呼べる虹霓竜だ。絶対に取り戻す」
【ルーキスは私にとっても大事な弟だから絶対助けるわ。安心して任せて】
「アイシャ、戻るぞ」
【ええ】
ゼンはアイシャと共に外に出ると、すぐに上に乗り込む。
「待って!ゼン兄!!私も連れて行って!」
「ダメだ」
ゼンに即答されてもラーシャは諦めない。
「ルーキスは私のパートナーなの!だから、私が助けに行く」
「お前が来ても何も出来ることはないし、足手纏いだ。待ってろ」
「ゼン兄!!」
「ルーキスは虹霓竜で貴重で狙われやすいから守ってやれって言われただろ?理由がなんであれ、ルーキスから目を離した時点でパートナー失格だ」
【ゼン…】
「アイシャは黙っててくれ」
ゼンはアイシャにそう言うとラーシャを見つめる。
「竜と契約するって事は竜の命を預かる責任を伴うんだ。…もっと自覚しろ」
「…っ」
ラーシャは唇を噛み締めて俯く。
「いいか、お前は大人しく待ってろ。アイシャ」
【ごめんね、ラーシャ】
アイシャはそう言って飛び立って行った。
ゼン達が飛び立って行った後もずっと雨に打たれながらそこに佇むラーシャの元にシューリカはやって来ると傘を翳す。
「ラーシャ、ゼンの言うとおり中に入って待ちましょう。大丈夫よ、ゼンなら必ずルーキスを連れ戻してくれるわ」
「…だ」
「え?」
「やだ!ルーキスは私が絶対助けるの!」
ラーシャはそう言うと雨の中を走り出した。
「ラーシャ!!戻ってきなさい!」
シューリカは叫ぶがラーシャが戻ってこないのはわかっている。
ため息をつくシューリカの肩にハクレンが止まるとその頬に頭を擦り寄せた。
「そうね…。待つしかないわね…」
シューリカは苦笑するとハクレンと共に家の中へと戻ってみんなが帰って来たら何か温かいものを作ってあげようと考えを巡らす。




