店主の訴え
【アルスを離して】
オルフェが言っても、店主はアルスから手を離そうとせずに逆にその手に力を込める。
「た、助けてくれ!!!」
「…っ」
必死にそう言って手の力をさらに強くする店主に、アルスは痛みで顔を歪めた。
そんな彼女を見て、オルフェは怒りに身を任せて雷で店主を焼き殺そうかと、本気で考え出すのと同時にアルスの腕を掴んでいる店主の手を上からラーシャが自分の手を重ねた。
「大丈夫ですよ。助けますから、まずは落ち着いて。…その手を離しましょう?」
優しい声でラーシャはそう言うと、重ねて無い方の手で店主の背中を摩る。
「さぁ、力を抜いて。…そうです、そうです。力が抜けたらゆっくり深呼吸をして…」
ラーシャはそう言って店主と共に深呼吸を繰り返す。
店主の手から力が抜けると、アルスは慌てて店主から距離を取った。
「大丈夫か?」
ソルに声を掛けられ、アルスは引き攣った笑みを浮かべて頷いた。
「だ、大丈夫です。ちょ、ちょっとびっくりしただけで…」
ラーシャ達の助けになりたいと思ったのに、結局助けられてしまった。
…なんて情けないんだろう。
アルスは悔しさに下唇を噛み締めて、ギュッと胸を抑えてバクバクする心臓を宥めながらラーシャ達を見守る。
ラーシャのおかげでだんだん落ち着きを取り戻して来た店主をもう一度、床の上に寝かせた。
それから、ラーシャは店主に微笑み掛ける。
「手足が痺れたり、頭痛、吐き気はありますか?」
店主は一度、考える素振りを見せてから頷いた。
「…頭が少し痛いが、その他は大丈夫だ」
「わかりました。もうすぐ、医務官が来て治療してくれるので、もう大丈夫ですよ。…もし、話せるようでしたら、何があったのか聞かせて貰えますか?」
ラーシャの言葉に、店主はサッと顔を青ざめさせると震え出した。
ラーシャは一瞬慌てたが、すぐに平静を装い笑みを浮かべた。
「無神経な事を聞いてしまって申し訳ありません、無理に話さなくて大丈夫です。少し休みましょう」
「ちが、違うんだ…!」
店主はそう言って起き上がってラーシャに縋り付く。
セルジュが慌てて店主を引き剥がそうとするが、ラーシャはそれを止めて店主の手に自分の手を重ねた。
「落ち着いて下さい。傷に障ってしまいます」
ラーシャにそう言われて、店主は深呼吸をしてから口を開く。
「話すのが嫌なわけじゃない…!頼む、頼むから…」
店主がそう言った瞬間、奥からニクスとナイラが戻って来た。
【竜はどこにも見当たらないよ、セルジュ】




