予定変更
「約束ですわ。早くダルテに解毒薬を使って下さい!!」
両手を縛られながらニアが催促すると、カウンターの男はため息をついた。
「うるさいお嬢様だな」
カウンターの男は、ナイフの男に解毒薬を投げて渡す。
「…おい、使ってやれ」
ナイフの男は無言で頷くと、ダルテの髪を掴み無理矢理、上を向かせる。
瓶の蓋を開け、わずかに開く口の中に流し込もうとした瞬間、後ろから伸びて来た手に阻止された。
驚いて、ナイフの男が振り返るとそこにはさっきまでいなかったフードで顔が見えない人物がいた。
「ダメですよ。彼はこのまま一緒に連れて行って下さい」
声から男だとわかるフードの人物はそう言って、ナイフの男から解毒薬の瓶を奪うと蓋を閉めてカウンターの男に投げ返した。
「おいおい、最初の話と違うだろ?お嬢様だけだって話だったはずだぜ?」
怪訝そうな顔をするカウンターの男に、フードの男は特に気にする風もなくティルティが閉めた鍵を解除して扉を開く。
すると、外にいた男達が酒場の中へと流れ込んできた。
「親方!!うまく行ったんですね!」
中に入って来た男達が嬉しそうに声を掛けると、フードの男は頷く。
「まぁな。…で?本当にそこの男を連れて行くのか?」
「ええ。それが主人の意思ですから。異論は認めません。解毒はしてはなりませんよ、アルティ」
カウンターの男…アルティは、面倒臭そうに頷いた。
「わかったわかった。一人も二人も変わらねぇからな。…で?十二時間経ちそうになったらどうする?解毒してやらねぇと死ぬぞ?こいつ」
アルティの言葉にフードの男は頷く。
「その場合は死んでも結構です。…それもまたいい刺激になるかもしれませんから」
「命令がコロコロ変わるな。…まぁ、俺たちは金さえもらえればそれでいいんだがな。…おい、お前ら!ずらかるぞ!!」
その一言で、男達はすぐに行動を開始する。
ダルテの肩の傷を止血すると、用意していた袋の中へと入れてナイフの男が担ぐ。
エルとティルティが入った檻も袋を被せて見えないようにする。
「では、ニアお嬢様、失礼して」
「ちょっと待って下さい!!話が違いますわっ!ダルテは解放する約束ですわ!!!!」
「話聞いてました?予定変更ですよ。…大人しく袋に入ってくれませんかね?」
優しい声色で問い掛けてくるアルティにニアは全力で首を横に振る。
「断りますわっ!!!ダルテとそれからエルとティルティも解放して下さい!!」
「…下手に出ればいい気になりやがって。嫌なら眠ってもらおうか。…おい」
「何を…っ!?」
アルティが指示を出すのと同時に、ニアの後ろから手が伸びて口と鼻を押さえ込む。
ツンとした匂いが、鼻腔を突くのと同時にニアの意識は一瞬でプツリと切れた。




