後悔
シューリカはテーブルの上に料理を並べながら首を傾げた。
「今日はラーシャ遅いわね…。ハクレン、迎えに行った方がいいかしら?あの子、傘持っていかなかったのよね」
ハクレンも心配そうな顔をしてシューリカを見た後、ピクリと何かに反応して扉に顔を向けた。
「帰って来たかしら?」
シューリカがそう言って扉を開けると、ずぶ濡れになって歩いて来るラーシャが目に入った。
「まぁ、ラーシャ!」
シューリカは慌てて傘を開くとラーシャの元に駆け寄る。
「ラーシャ!風邪ひきちゃうでしょう?早く中に入りなさい…あら?ルーキスは?」
ずっと俯いているラーシャに声をかけると、雨と涙でぐしゃぐしゃにした顔を上げて抱きついて来た。
「どうしたの?ラーシャ?」
「おばあちゃん…!私、私…!」
そう言って泣き出すラーシャに最初は驚いていたもののすぐに優しく微笑むとその頭を撫でる。
「あらあら、どうしたの?とりあえず中に入りなさい。まずはお風呂に入って身体を温めなさいな」
ラーシャは頷くとシューリカに促され、家の中に入るとそのまま浴室へと直行した。
熱い湯船に身を沈めると、雨で冷えた身体が一度ブルリと震える。
ルーキスは今頃この冷たい雨に打たれて寒くは無いだろうか?お腹は空かせて無いだろうか?…ルーキスはどこへ行ってしまったのだろう。
ルーキスを思うと涙が止まらない。でも、泣いていてもルーキスは帰って来てはくれない。
ラーシャは涙をぐしぐし拭う。
傷つけないようにしようっ思ったのに。ルーキスが歩み寄ろうとしてくれたのに。全部全部、自分のせいで台無しにしてしまった。
「どうしよ…!」
寒さのせいなのか、後悔のせいなのか震える身体を抱きしめる。
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風呂から出てシューリカの元へ行くと、手招きをされ椅子に座らせられた。
「さぁ、身体が温まったら今度は温かい食事をしましょう。…お茶も飲みなさいね。蜂蜜を入れたから甘くて美味しいわよ」
ラーシャの前に湯気が上がるコップを置くとシューリカはその隣に座り、ハクレンはラーシャの肩の上に止まった。
「…ありがとう」
涙が落ち着いて来たラーシャはお礼を言うとお茶に口をつけた。
カラカラに乾いていた口に甘くて温かいお茶がすごく沁みる。
お茶を飲み込んでほぅ、とため息を着いた。
「美味しい…」
「そう、よかったわ。…さぁ、ご飯も食べちゃいなさい」
ラーシャは頷くとシューリカが用意してくれたカラッと揚がったチキンやクリームスープに手を伸ばし口に押し込んでいく。
しばらくして、そろそろ頃合いかとシューリカが口を開いた。
「それで何があったのかしら?」
シューリカに促されてポツリポツリと今日あった事を時間をかけてラーシャは説明した。
その間、ずっと口を出さずにシューリカはラーシャの言葉に耳を傾け続けた。
「契約を解消しようって…私はルーキスが1番大切なの。夢よりも何よりも。ルーキスがいない人生なんて考えられない」
再び涙を零し始めるラーシャをシューリカは、ギュッと抱きしめる。
「そう。それはちゃんとルーキスに伝えられたのかしら?」
そう問い掛ければラーシャは腕の中で首を横に振る。
「なら、ちゃんと伝えなければね。…ねぇ、ラーシャ。覚えてるかしら?私が前に“素敵な関係になるには、竜と人間がお互いを尊重し合い、認め合い、理解し合わなければならない”って言ったのを。ラーシャはちゃんとルーキスの気持ちを聞いた?」
「…聞いてない。自分の気持ちを押し付けて…傷つけちゃった…」
「そうね。ちゃんとルーキスの気持ちを聞かなくてはね」
「でも…過去に何があったのか聞いちゃダメだって…なんで戦えないのか聞けない…」
「確かに、トラウマのことを聞くのは良くないわね。でも、話し合う事は出来るわ。ルーキスが戦うのが苦手なら、どうしたらそれを克服できるのか。…二人で見た夢を簡単に諦めるのではなくどうしたら実現できるのか、ちゃんと話し合えばいいじゃ無い。せっかく人間と竜は言葉がわかるのだもの」
「…でも、ルーキスどこに行っちゃったかわからない」
「雨が止んだら一緒に探しに行きましょう。…ハクレン、協力してくれるわよね?」
シューリカがそう言えば、ハクレンは胸を張って返事の代わりに白い息を吐き出した。
「ありがとう…ハクレン」
ラーシャはシューリカの腕の中でそう言うとハクレンを抱きしめた。
「私、ちゃんとルーキスに謝らなきゃ…!」
ラーシャが決心して叫ぶのと同時に扉が勢いよく開いた。




