温情
「パートナーの記憶だけ…?」
【そうだ。それがアウルム達の優しさらしい。最愛のパートナーとの契約を無理やり破棄されるんだ。その悲しみは計り知れない。それならいっその事、苦楽を共にしたパートナーなんて、記憶から抹消した方が幸せだってさ】
「そんな事ない!」
ムキになるラーシャにルーキスは、苦虫を噛み潰したような顔をして頷く。
【怒鳴るなって。オレだってそうだ。でもアウルム達は違う】
「…」
ラーシャは黙り込み、ややあってから口を開く。
「ごめん。…人間は覚えてるんだよね?」
【ああ】
「そっか…」
ラーシャは両手で顔を覆う。
自分だけ最愛のパートナーの記憶を持っていても、相手は自分の事だけをを綺麗さっぱり忘れているなんて、そんなの辛すぎる。
ずっと一緒にいられなくなったとしても、覚えておいてほしい。
楽しかった時の思い出でも、苦しかった時も何でも構わない。
ただ、時々でいいから自分の事を思い出してほしい。
竜に忘れられてしまうのは、死刑よりも一番辛いかもしれない。
「想像したら辛すぎて、私も時々思い出しちゃいそう…」
クラウスがやって来た事を思えば、当然の罰なのかもしれないがそれでも同情を禁じ得ない。
「なんかすみません」
申し訳なさそうに謝るアルスに、顔を上げると慌ててラーシャは首を横に振った。
「ううん、私が聞いた事だから。アルスは気にしないで!!」
「でも…」
それでも食い下がってくるアルスにラーシャは、呆れたようにため息をつくと目の前にあったクッキーを手に取り、それを彼女の口に突っ込んだ。
「んぐ!?」
「これ以上、謝ろうとしたらクッキーを後二枚口の中に突っ込んじゃうからね?」
ラーシャがそう言うと、アルスは必死にコクコクと頷いた。
「わかったなら、よろしい。…で?キルディは?」
これ以上この話題だと、アルスは謝り続けそうなので話を逸らすことにした。




